第87話 レンと紫水 密室での告白
「え? え? 何コレ!! 何のドッキリ?? 凄いコレ!!」
ブルーベリーで美しく飾り付けられたホールケーキがいきなり目の前のテーブルに運ばれてきたことで、レンは驚きのあまり、語彙が完全に消失していた。
レンはあらゆる角度から届いたケーキを眺めていると、今度は色んな種類のパフェやドリンクを両手に持っていたミユや優奈たちが席に戻ったので、早速今何がどうなっているのかを尋ねた。
「……これはレンの誕生日……ケーキ、よ! アンタ、ずっと年齢不詳とかいつ生まれたのかとかトップシークレットとか言って秘密にしてたでしょ~? だから今日ここで勝手に祝うことにしたのよ。ね、お兄ちゃん」
ミユは恥ずかしそうにレンにそう言い放った。
そんなミユを優奈や黒薔薇、白薔薇は微笑ましく静かに見守っていた。
「ちょうどみんな集まったことだしな。誕生日おめでとうレン」
「「「「おめでとう」」」」
みんなからの突然の温かな祝福を受けたレンは少しフリーズし、口を開いて何か言葉を言おうとするが、何も出てこず、左目からボロボロと大粒の涙をこぼしていた。
「ど、どうしたんだよレン。今のは笑うとこだぞ?」
「ご……めん。嬉しくて……少し声が出なかっただけ……だからっ。誕生日や年齢は仲良くないから隠してたわけじゃなくて……実はわかんなくて……恥ずかしいからカッコつけてトップシークレットだとか言って……誤魔化して……ぅ……」
「分かってるよ……レン。だからもう泣くな」
「う゛ん゛。今日が私の……黒瀬レンの誕生日……! みんなが決めてくれて、本当に夢みたいだ。本当にありがとう……! いただきますっ」
レンは涙を流したまま、目の前のホールケーキにかぶりついた。
「あっ!! 取り分けて食べるんだよそれ!!」
「いいんだよお兄ちゃん! こうなることを見越して私たちはパフェを買ってきたんだから!」
「良゛がっだですねレン様!!」
「「何で優奈様も泣いてるんですか……」」
事件直後とは思えないほどに、レンを囲うテーブルは笑いが一時たりとも絶えない、バカ騒ぎの連続だった。
◇
レンのために急遽開催された誕生会は1時間ほどで終え、再び6人は園内のアトラクションを堪能した。
気づけば、夕方になり、紫水はある大事なことを思い出した。
「てか観覧車乗ってねえ!!」
紫水の声で前を歩いていたレンたちは一斉に立ち止まり、忘れていたという顔をした。
レンはポケットにずっと入れていた無料パスを取り出し、紫水の背中にくっついた。
目線で何やら優奈たちに合図を送っていたようだが、紫水には何のことか全く分からなかった。
「それじゃ、最後にそれ、乗りましょ。全員で。ね? お兄ちゃん????」
「いやいやいや!! 何をイッテルノ?? ミユチャン。私たちはこの後は宝石のお城のパレードを見るのでしょ??? 無料パスもないことだし後はお若い者たちで~……って感じで……」
「何を言ってるのカナ?? 優奈チャン?? 私お兄ちゃんと、あぁああアア!!」
白薔薇と黒薔薇はなかなか優奈の指示に従ってくれないミユを担ぎ上げ、そのまま走ってお城に向っていってしまった。
去り際に優奈はレンにブイサインとウィンクを送った。
「何だったんだ……今の……」
「乗ろうよ……紫水。観覧車……二人で」
レンは下を向いたまま紫水の服をつまんでそう言った。
少し頬が赤く染まっていたのは、レンが紫水とカップルのように観覧車に乗ることに対して恥ずかしがっていたのか……それとも単に夕陽が射し込んでそう見えたのかはわからなかったが、その瞬間、紫水はとにかくレンが異常に可愛いと思っていた。
「行こう、レン」
「うん!」
紫水は無意識にレンの手を取り、隣に並んだ。
周りからは自分たちがカップルに見えるのだろうか。
二人はそう全く同じことを考えていた。
「足元気を付けろよ?」
「ありがとう。紫水って前から思ってたけど、周りをよく観察してるよね」
「レンが探偵だから。それに影響されたのかもな」
ゴンドラに乗り込み、二人はそのまま窓に張りついた。
時間がスローモーションになった感覚。
ゆっくりと地上から上昇していく高揚感。
それまでずっと騒がしかった音は消え去り、無音がゴンドラ内を支配する。
ここは当然二人だけの密室。
日常では味わえない何とも言えないこのロマンチックさが心臓の鼓動を加速させる。
「頂上に着いたら20秒間だけ止まるんだってよ」
「そ、そうなんだ。もうすぐだね」
「今日は楽しかったか……?」
「楽しかった!! 人生最高の日と言ってもいい。紫水は?」
「めちゃくちゃ楽しかったよ――!」
「あ――止まった」
「ほんとだ」
「その……伝えたいことがある……の」
「それは午前中のジェットコースターで言いかけたことと関係があるのか?」
「ぅ……うん」
「お、俺もレンに伝えたいことがある! 午前中よりもっと前からずっと……」
「それは……いつ?」
「それは内緒」
「それは私が喜ぶ、事?」
「わ、分からない。れ、レンが言おうとしてることはどうなんだよ」
「わ、分からない」
「じゃあ……俺から言っていいか?」
「う、うん」
「ずっと前から――――レンのことが、その……ス、……」
「ス――?」
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