身ひとつ


 人生とはなんだろう


 数年前までは

 歩むことだけが人生だと考えていた


 だがしかし そんな単純なものではないと

 近頃身をもって知ることとなった


 親の老いる姿を見て

 義理の親の老いる姿を見て

 わたしに関わる

 様々な人たちを見て


 今まで歩んできた道が

 ある日突然

 途絶える日がやって来るのだ

 

 きっと誰しも思っていた

 この道は永久に続くと

 親も子も連れ合いも仕事も立場も家も

 すべて自分のものであると


 疑いもなく信じていたそれらが、何一つとして真実ではなかったと知ったとき

 何一つとして自分のものではなかったという現実を目の前に突きつけられたとき


 人は途端に生きる力を失う


 わたしは二歳の息子を愛している

 けれど息子がわたしを必要とする期間など限られている

 わたしが一人きりの母を故郷に置いてきたように

 君はわたしを顧みず進む日がやってくるだろう



 わたしはこの先

 ありのままのわたしを意識しなければならない

 母であり妻であり嫁であり娘であるわたしは

 上記のどの役職であっても通用する

 一本の生きる道が必要だ


 やがてわたしも彼らのように全てを失うだろう

 いいや何一つ自分のものではなかったと知るだろう

 そのときわたしに残るもの


 つまりそれがわたしの全てなんじゃないか

 つまりそれがわたしの人生の核なんじゃないか

 つまりそれこそが

 わたしが意識して歩むべき道のりなのではないか


 果ての未来のことなど分からないけれど

 少なくとも今はそう思う

 

 

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