十膳目:十一月某日(水)我が家の冬の非常食
「――――ということから、今季一番の冷え込みになるでしょう」
いつもの時間に流れる、朝のニュース番組。
家族全員分の朝食、そして連れ合いと自分用のお弁当を作り終えてからテレビをつけると、その中から聞こえてくる内容に、ふぅっとため息が出てくる。
今年もこの時期がやってきたか、と。
本日の朝食ワンプレートは、近所のスーパーで買ったほっけの干物を魚用グリルでじっくり焼き、小松菜のおひたしといつものプチトマトを脇に飾り付け。
あとは、甘めの卵焼きに、昨日の夕食で余った肉じゃがをほんの少しだけお皿に付け加えて完成。
しかし、いつもよりゴチャゴチャおかずを乗せ過ぎてしまったようで、配色のバランスはいまいち。
今日は、あまり納得いかない出来となってしまったと、無意識に二回目のふぅっとしたため息をついてしまう。
余り物を早く消費せねばという心理が働いてしまったか。
そんな、普段であれば余り物が出るとすぐに使い切りたくなる性分なのだが、冬のある時期のみ、同じメニューで数日間乗り切らざるを得ない事態が出てきてしまう。
それは、大雪。
ではなく、『ドカ雪』。
こちらの地域では毎年雪が必ず降るので対策は万全にしているのだが、ここ近年、地球温暖化の影響なのか、一定に降らず一気にまとめて降ってくる『ドカ雪』現象に見舞われている。
除雪車がフル稼働してもそれ以上の雪が一晩、いや、数時間で降り積もり、道路にはかきわけられないほどの雪がわんさかと盛られてしまう。
そうなると至るところで交通渋滞が起こり、自宅のカーポートや職場の駐車場前には“雪の障壁”が出現することで、出勤するのはおろか、買い物に出ることすらままならなくなる。
そんな『ドカ雪』が降りそうな天気予報が出た時は、我が家はすぐに”冬の非常食"の仕込みの準備に入る。
我が家の冬の非常食。
それは、おでん。
まずは、大根の下処理から。米の研ぎ汁でコトコトと茹で、大根の灰汁抜きと甘味を引き出す。
次に、何故かキッチン上の収納棚に仕舞われている業務用サイズほどの寸胴鍋を引っ張り出し、そこに大量の水と出汁昆布、塩と料理酒で下処理した鶏肉の手羽元を入れ、じわりじわりと鍋全体に旨味をにじませていく。
そして、薄口醤油やみりんなどその他必要な調味料とともに、ゆで卵、こんにゃく、さつま揚げ、ちくわ、がんもどきなどの練り物を入れ、弱火でくつくつ煮込めば完成。
朝食と夕食に味が染み込んだおでんを食し、具材が足りなくなったらまた注ぎ足して入れていく。
そして大事なのは、できるだけおでん出汁を濁らせないこと。
旨味たっぷりのおでん出汁は、他の煮物を炊く時に使ったり、カレーうどんを作ったりする時に再利用できるからだ。
中でも、一晩寝かしたおでん出汁で作る炊き込みご飯は、口の中にその旨味のエキスが隅々にまで行き渡るほどの絶品である。
最後まで食べ切り、出汁まですべて使い切る。
そうやって冬の非常事態を乗り切っていくのが、我が家の風物詩となっているのだ。
昨年は予想を遥かに超える急激な『ドカ雪』に見舞われ、非常食の準備が出来ないほどだったが、今年はそうならないよう事前の買い置きも念入りにしておこう。昨年の二の舞いは、もう懲り懲りだ。
果たして。今年は何回『冬の非常食』を作ることになるだろうか。
朝の時間、ギリギリまで寝ている我が家の寝ぼすけ坊主も、大雪の日にはいつもより早めに起こさなくてはならない。
ちなみに雪国の学校は、例え『ドカ雪』であったとしても、そう簡単に休校にはしてくれない。
かなりの積雪量になろうとも、子どもたちは歩いて学校へ登校している。凄い。
そんなわけで、朝の起きる・起きない攻防戦も我が家の風物詩。また激しく繰り広げられることになるだろう。
「〜〜〜〜! おはようー! 起ーきーてー! ご飯ですよー!」
焦らず、滑らず。
今日も気をつけて、いってらっしゃい。
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