ムッソリーニの愛人と、お話しの巻(十四話)
クララ・ぺタッチに、光をあてたいと思う。
前回に登場したムッソリーニの愛人である。
複数いた中で最期まで寄り添い、共に銃による処刑になった美人。
普通の女性が、その時代のカリスマに信奉し惹かれ、33才で消えた。
彼女の愛称はクレラッタ、1912年にローマの上流階級に生を受ける。
ムッソリーニには20才の時に知り合った。時代は彼の台頭を望んでいた。
町には熱風が渦巻いていた。総領、総領と世間は連呼して止まなかった。
そして24才の時から、彼女は正妻ラーケレに存在を知られずに愛人に。
ムッソリーニは元教師であり、四か国語を操りスポーツも出来て、まさに色男だ。
常に愛人は数人、一夜妻なんぞは数百を有に越えるという。
それはまだしも、彼は徐々に変質していった。より先鋭化し、イタリアを窮地に追いやった。
彼は言った……「神なんている訳もなく、教会はイタリアの癌、キリスト教は堕落した宗教」
反ユダヤ、反教会的、ローマ帝国復活を夢見る誇大妄想者へと。
クレラッタは、愛してはいけない人に、永遠の愛を捧げてしまった。
彼女は最期に言った……「そんな事をしてはいけない、総領を撃つなんて、そんな事を」
スイス国境の近くのコモ湖畔で、彼女は彼をかばい共に倒れた。
だが、まだ終わりではなかった。ミラノでは猛り狂った市民による制裁が。
彼女の処刑には反対もあった、ごく普通の女性だからだ。
ここからは、声無き声を聞こうと思う。そんな声を、拾いたいのです。
毛沢東さんや、お手柔らかに、お頼みします……
毛沢東 「あなたの存在を知ったのは、この前に、ムッソリーニに会った時です」
「愛人だったのですな。最期まで一緒で、共に銃弾に倒れたんですな」
「その、市民の怒りの渦の中で、あまりにも……」
クレラッタ「私は運命に従っただけ、好きな人に沿いとげられて幸せでした」
毛沢東 「お国では、総領、総領と崇められて、さぞや眩しかったのでしょう」
「その時代には、その時代の流れがありまする、抗う事なんぞ出来ない」
「たまたま、その時代、その場所、そして出会う出会わないで変わります」
「あなたも、それらが重ならなければ、また、違った幸せがあったでしょうに」
クレラッタ「そんなのいいの、彼との9年間がすべて、光に包まれていたわ」
「もしもまた、生まれ変われるんだったら、彼の元へ行く」
毛沢東 「この天界から、また地上界に降臨するのは、徳を積めば出来るとのこと」
「かのムッソリーニ様もしかり、修行に次ぐ修行の果てには、可能かと」
「なにせ、地上界で暴れ過ぎたせいか、かなりと、後かもですが」
クレラッタ「そう、そうなのね。そしたら私、モデルをやりたいわ」
「大きな黒い瞳が自慢だった、それに腰は細くて、出っ尻よ、ふふっ」
毛沢東 「それは良かった、まさに典型的なイタリア美人の、お出ましですな」
「その出っ尻だと、いわゆる安産型ですな、何人も出来まする」
クレラッタ「あのね、彼の正妻だったラケーレはね、好き者の百姓女よ」
「4人産んだわ。あっちの方ばかり盛んで、彼といい勝負よ」
「だけどいい所はね、男の浮気には寛大だったの、愛人は許したわ」
「男は女にもてないようだと駄目だって、そういう女ね」
毛沢東 「ラケーレさんも、見上げたものですな。浮気を多めに見る、いいじゃないですか」
「ムッソリーニ様は、相当に浮名を流したのですな、恐らく隠し子も多いかと」
クレラッタ「そう、実はラケーレの前にもいたの、オーストリア女との間にも」
「隠し子ではないけど、その認知のことで、ラケーレが反対してたわ」
「そう、彼はタフよ、一夜限りは数百人越え。でも、愛人と呼べるのは数人」
「私はね、正妻や、そんな愛人達を押しのけて最期まで残ったのよ」
毛沢東 「ははーん、となるとムッソリーニでわなくて、スケベッ二―二ですな」
「羨ましい限りですわ。私もイタリアに生まれれば良かったですな」
「いや、まったくもって、お国は素晴らしいです。男天国ですな」
クレラッタ「毛沢東さん、教えて、天界では鏡がないの、私っ、綺麗?」
毛沢東 「はい、それはもう、充分に綺麗です。吸い寄せられます」
クレラッタ「あの、ミラノ、あのロレータ広場で彼と共に凄惨な目にあったわ」
「もう死んでいるのによ、顔はぐちゃぐちゃなっても、まだ蹴られまくった」
「彼の顔はパンパンに、片足は取れかけていたわ、尿までも……」
「自慢だった私の黒目は、見開いてしまっていた、誰か閉じさせてと思ったわ」
毛沢東 「お悔やみ致しまする」
クレラッタ「あのね、でもね、我がイタリアの良心を感じる時があったのよ」
「それから、5人が屋根から逆さ吊りにされたんだけど、彼の隣にしてくれたわ」
「そしてね、私のスカートが捲れて垂れ下がったのをね、マダムがね」
「群衆の野次の嵐の中、そのマダムがね、よじ登って来て直してくれたの」
「本当に嬉しかった、時代が悪いんであって、イタリアの心は、まだ大丈夫ってね」
「そう、地上では色々あったわ、でも彼との9年間で充分よ」
「もしね、また彼と回り逢えたら、今度は正妻を仕留めるわ」
「愛人は許さないわ、私だけのものにする、一生」
「あのラケーレは4人産んだから、それを越えるわ、女の意地ね」
「毛沢東さん、話を聞いてくれて、ありがとう。チャオチャオ」
毛沢東 「こちらこそ、教わりました、では……」
私は今、この拙文を泣きながら書き上げました。
クレラッタこと、クララ・ペタッチの声をまったく汲み取れずにいます。
本当はもっともっと語っているのに、残念です。
彼女は、いい女性だと思います。時代に翻弄されたのです。
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