チャーチルに、御礼の巻(十話)

国家存亡の有事には、偉大な政治家が現れる。

これは、時代が呼ぶのである。現れるべき人が、必ず出て来る、必然であろうか。

イギリスのチャーチルが、そうではないか。

前任のチェンバレンでは、平事では有能であろうとも、有事では温厚さが仇になる。

もっと言うと弱腰外交では、ヒトラーのブリテン侵略の野望を防止出来ない。

イギリスを救ったのは、スピットファイヤーの空軍と、チャーチルではないのか。


日中戦争では、どうであろうか。

国民党の蒋介石は、国共合作がやっとなり日本軍を挙国一致で迎え撃ってる時もである。

中原の共産党支配地区は、共産党まかせ、裏では日本軍と極秘交渉をする始末。

共産党も同様、ゲリラ戦を仕掛けるも、国民党が対峙してると横目に見る始末。

毛沢東は国民党が疲弊するのを、実は待っていた。

本当の敵は、蒋介石なのである。主戦を国民党軍に任せて、期を伺っていたのである。

彼は大陸の人である、持久戦になれば必ず勝てる、時を待とうと。

日本軍が突入して来たら、奥地へ奥地へと誘い込む消耗戦を計った。

要は、日本敗戦の後の、国民党軍との戦いに備えて兵力を温存したのである。

だが、毛沢東の誤算は日本の降伏が早かったことである。

これで国民党との決戦が早まった、大動員して勝ちに勝ち、台湾へと追いやったが。

はたして、一連の国家存亡の危機に対して、先のチャーチルとの違いは何か。

毛沢東は蒋介石に勝ったが、日本軍に勝ったと言えるのか。


ここから先は、天界でのお二人に語ってもらうしかあるまい。

すでに霊力を付けた毛沢東は、先達の周恩来の手引きなしに、誰にでも会える。

さあ、イギリスの救世主、ブルドックチャ―チルのお出ましなり……



毛沢東  「お初にお目に掛かります。毛沢東です。御高名は兼ねて知っとります」

     「貴殿にどうしても、お会いしたくてまいりました」

     「まずは、お礼から言わせてくだされ。日本軍を打ち負かしてくれて感謝  感激です」

チャ―チル「いや、何も、アメリカですよ、あとソ連がダメ押しをしたのです」

     「私らは、打倒ヒットラーで精一杯でした。アジアの事は、二の次でしたな」

毛沢東  「いやいやアメリカを参戦に導いた功績は、余りありますぞ」

     「アングロサクソン同士、ツーカーですな、羨ましい限りです」

チャ―チル「元々はこっちが親で、アメリカ、カナダ、オーストラリアは長男次男三男ですな」

     「かつての大英帝国は衰退の一途です。ヒットラーなんぞに攻め込まれるとは」

     「お互い、老大国です。新興国に押されてますな。昔は良かった」

毛沢東  「私が思うに、イギリス陸軍のヘルメット、あの形が現してるような気が」

     「どうも強さが出ませんな、戦闘用の筈がピクニック用に見えますな」

     「おそらくは、それを見た日本軍は、呑気な連中がいると思ったんでは」

     「その点、アメリカのは、見るだけで迫力を感じます、強い軍隊だと」

チャ―チル「ヘルメットの話ですか、まあヨーロッパ戦線に置いてもそうかも」

     「我が国のは、おっしゃる通りかも、あれは日よけ雨よけのつばが出てるのです」

     「兵隊に優しいのですけど、確かに迫力は出ませんわな」

     「ドイツ軍のは強そうに見えた、フランスのは笑えた、イタリア、ロシアもしかり」

     「じゃ、当時の敵国、日本のは如何か?」

毛沢東  「日本のは凄みがありました。軍服もそう、殺気があり我が国民は怖れました」

     「思うに、各国の軍服にその国が出てますな。国民党軍の青灰色、駄目ですな」

チャ―チル「今度は軍服ですか。我が国のは品がありますぞ。ドイツのは格好いい」

     「アメリカはナッパ服、フランス、イタリアはいまいち、ロシアは作業着でしたな」

     「俗に軍服に金を掛ける国は弱いと言います。アメリカ、ロシアの勝ちですな」

     「ドイツは軍服に凝り過ぎました、金掛け過ぎです、これじゃ負けます」

毛沢東  「銃はどうです、これも国民性が出ますな、日本は銃で負けました」

     「日露戦争後のを、後生大事にね。それも玉を惜しんでパン、パン、です」

     「三八銃は、五発式でたびたび弾倉を込めます、自動小銃の比ではありません」

チャ―チル「銃ですか? 銃と言えばロシアの短機関銃が優れてました。ドイツのよりもね」

     「ドラム型弾倉で、発射速度がすさまじいです。戦局が変わりました」

毛沢東  「結局の所、あの戦争は、頭と力と数と金で決まりましたな」

     「中国単独では、極めて不利でありました。重ねてお礼申し上げます」

     「もちろんの事、あなたがおればのイギリスです。貴殿は強い」

     「これは大英帝国の名残りですぞ、時代に選ばれましたな」

チャ―チル「いやいや、私は平事では、どうかと……」

毛沢東  「こっちは戦争後の平事に大失敗をしました。だんだんとわかって来ました」

     「平事、有事とは何ですかな、繰り返しですかな」

     「まあ、お互い有事向きかもですな。そこが似てるかも……」

チャ―チル「そうですな……」

毛沢東  「お会い出来て恐縮でした。嘗ての連合国、万歳ですわ。ありがとうごさいました」

チャーチル「これからは、中国の時代ですかな、大英帝国を教訓にしてくだされ」

     「ごきげんよう……」



これにて、二人の天界にての会談が終わる。

チャーチルは狡猾な人物である。歴史を予見する能力に長けていた。

それも当たる。日本が開戦の火ぶたを切った時、国会でこう演説した。

……「高くつく事を、始めたもんだ」……

議場には、うすら笑いがおこった。チャーチルはニヤッとした。

……後は、語るを待たずである。

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