第8話 結果

<全てのテストをクリア。『ヴァイス』の基礎はこれで問題だろう。一年間、ご苦労だった>

「お……!? やった! 終わりかよちくしょう! はははは!」


 テストパイロットに選任されてから一年。正確には九か月ほどだけど、まあそれほど差異を感じるほどではない。

 そんな長かったような、短かったような月日はあっという間に流れた。

 最後の結果を聞くため会議室に集まっていたのだが、ついに今日で全てのプログラムが終了した。


 ちなみに歓喜の声を上げたのはケーニッヒだったりする。ヴァッフェリーゼの格闘戦はもはや彼に勝てる人間は居ないだろう。

 開発した『バスタードブレイド』と『ディストラクション』という名のナックルガード。そして『プラズマダガー』の三つはヴァッフェリーゼに載せても問題ない仕様まで昇華した。

 また。もう一つ上にある『ムラマサソード』と『オニマルブレイド』は『ヴァイス』専用の刀剣である。他にも『パイルバンカー』や『ダマスクハルバード』といった、いわゆるも存在する。

 模擬戦で使ったけど、ヴァッフェリーゼやヴァイスによく合わせているので取り回しが良い。


「いえー! よーし今日は飲むわよ!!」

「エ、エイヴァさん苦しいでス!? まあ、あのライフルの性能を見たらそうなりまスけど」


 エイヴァのテストの下で完成したスナイパーライフルは一点突破型で名を『ブリューナク』とした。

 十キロの狙撃をブレなく一直線に飛ばすためリコイルを最小限にする措置が取られている。空気抵抗のない宇宙だから銃そのものを根本から見直したとか。


「ユーシェン君もブースター開発、ご苦労だった。継戦能力もそうだが、爆発的な移動も可能になるだろう」

「あ。エルフォルクさんお疲れさまでス!」


 ブースターは機体が耐えられないからヴァイス専用だけど、ここからヴァッフェリーゼ用の新型を開発予定。ユーシェンは引き続きテストをするのだとか。


「んああ……! 俺と隊長もようやくお役御免かあ!」

「ふん、おめえらの顔を見なくて済むようになるのは清々するぜ!」

「またまたあ。隊長も満更じゃなかったでしょ? 三人で酒を飲んだ日とか、めちゃ喋……いてえ!?」

「うるせえぞリク!」


 怒鳴りながら笑うガルシア隊長。なんだかんだで喧嘩もしたけどこのチームは悪くなかった。ここから量産体制に入るため、製造テストの三人はともかくガルシア隊長と俺は元の部隊へ戻ることになるだろう。

 細かい調整はともかく、実戦レベルでの扱いは十分だからな。


「二人もご苦労だった。君達のおかげでヴァイスはいいものになりそうだ」

「いえ。隊長はともかく、俺以外でも良かった気はしますけどねえ」

「……いや、カミシロ。君だからこそとも言える」

「?」


 言葉の意味は分からなかったが、握手をするエルフォルクさんの表情は明るかった。


「ま、これでようやく現場だ。他の連中が頑張ってくれたおかげで奴等の動きも鈍い」

「ですね。ここで新型を投入したら『メビウス』の連中もさすがに手を引くとか?」

「だといいがな。じゃあ今日はパーティだな」

「死神が慣れたもんだな」

「うるせえってんだ。これで死人がへるなら本望だぜ」


 エルフォルクさんの皮肉にも怒鳴らない。嬉しいんだろうな本気で。で、パーティは望むところだと思っていると、彼女は続ける。


「先ほどカミシロ君が『元の』と言ったが、残念だ。それは叶わない」

「え!? 本当にお役御免ってこと!?」

「そんなことがあるのかよ?」


 ケーニッヒが眉を顰めてそう言うと、エルフォルクさんがフッと笑い、そして手元の端末こちらに見せながら言う。


「今後、君たちは正式にこの部隊チームで戦ってもらう。『ヴァイス』のプロトタイプはそのまま乗機とする。テストが必要な際はテストを優先だ」


「「「「なんだって……!?」」」」

「……」


 ガルシア隊長以外の四人が驚愕の声を上げる。まさかそんな……テストパイロットってだけの予定だったはずだ。


「最初からそのつもりだったな?」

「さて、ね。それで死神のガルシア大佐はどうしますか? 断ったら――」

「断ったら裏方ってんだろ? ……いいぜ、戦えなくなるのは困るからな。この部隊チームでやらせてもらう」

「承知した。後で契約の変更をWDMから来ると思うので目を通しておいてくれ。話は以上だ。というわけで……」

「?」


 そこでエルフォルクさんが指を鳴らす。

 すると、他の隊員が料理と飲み物を持ってなだれ込むように入って来た!?


「お疲れーー!」

「いいもん作ってくれたなあオイ!!」

「見てたぜ最終テスト!」

「うおおおお!?」


 どうやらクジかなにかで選ばれた非番の隊員が労いに来てくれたらしい。そして最終結果は隊員達にも公表されたようであちこちで安堵の声が上がっていた。

 性能がいい機体が回ってくればそれだけ生存率も上がる。人によっては復讐を遂げるチャンスが増える。

 俺達のプロジェクトにはそれだけの重みがあった。


「凌空さん」

「ん? お、若菜ちゃんか!」

「はい! テスト、終わったんですね。お疲れ様です」

「ありがとう。これで奴らに一泡吹かせることができそうだぜ」


 襲撃の頻度が下がっているためオペレーターも交代頻度が高いらしい。それで労いに来てくれたようだ。

 俺が自信ありと言葉を発すると、若菜ちゃんは複雑そうな顔で笑う。


「……はい。ヴァッフェリーゼとヴァイスに使われているOSとAIはお父さんが作ったものだから。きっとみんなを……凌空さんを守ってくれると、思います」

「だな」

「お、リクが女の子といるぞ! 隅におけねえな!」

「ち、違うって! 妹の親友なんだって!」

「ふふ、相変わらず人に好かれますねー」

「こいつは面白い。嬢ちゃんもニホンジン、か? ……死なねえように祈っといてやってくれ」

「あ、ガルシア大佐」


 そこへすでにウイスキーの瓶を持ったガルシア大佐がやってきてそんなことを言う。敬礼する若菜の頭に手を置いて笑った後、他の年配隊員に囲まれてこの場から消えた。


「いい方ね」

「ああ。立派な人だよ」


 そんな話をしつつ、近況を報告し合う俺達。彼女はやることは変わらないけど、別プランで各小隊ごとにオペレーターをつける可能性があるらしい。

 その時はウチの部隊チームになりたいとか言っていた。


 そうなると俺は楽だけどな? さ、また明日から頑張りますかね。


 だが――

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