第11話 好きだという気持ち
四人で一緒に夕飯を食べながら、和馬に急かされて僕はカフェでのことから話した。
カフェを気に入ってくれたこと、連絡先をきかれたこと、うわさ話は間違いだったことを。
「なんだ、清水とつき合ってるってガセだったんだ?」
「良かったな、悠斗」
「良かったって、なんでだよ……」
「つーか、そんだけ? んなわけないよな?」
「食ってるふりしてごまかすなよ。言えって」
コロッケを口いっぱい頬ばって喋れないふりで流そうとしたのを和馬に突っ込まれた。
三人がそろって僕をジッと見る。僕は観念した。
「……好きって言ってくれた」
慧一と准がウオーッと大声を上げて喜んでくれた。店内のほかのお客さんたちが一斉にこっちを見る。
恥ずかしさで顔が熱い。
「マジか! やったじゃんか悠斗!」
「静かにしろよ! みんな見てるから!」
声を落として二人をたしなめた。
「で? おまえはなんて言ったんだよ? まさかいつもみたいにすました顔で、そんな気ないから、とか断ったんじゃねーよな?」
「この間、言ったでしょ……そういう感情、良くわからないってさ」
ようやく三人が黙った。ふと時計を見るともうすぐ二十時になる。
「あ……そうだ。帰ったらメールちょうだいって言われてた」
「バカ! そういうの早く言えよ。今すぐメール送ってやれよ」
「だってまだ帰ってない……」
「真っすぐ帰ってたらとっくに着いてる時間だろ? 事故にでもあってるんじゃないかとか、絶対、心配して待ってっから!」
「あ、なるほど……そういうことか……」
准にそう言われて急いでメールを打った。
≪連絡、遅くなってごめん。途中で和馬たちと会って、家の近くで夕飯中なんだ≫
一分もしないうちに返信が来た。
≪無事でよかった。遅いから事故にあっていたらどうしようかと思った。おうちまで気をつけて≫
准の言ったとおりだった。心配させてしまうなんて、思ってもみなかった。
≪ありがとう。心配させちゃってごめん。また、月曜日に≫
そう送ると、これにも数秒で返信がくる。
≪うん。それじゃあ、おやすみなさい≫
他愛のない内容でありきたりな言葉のはずなのに、変に嬉しさが湧いてくる。しばらく見つめて携帯を閉じると、視線を上げた。
三人がニヤニヤして僕を見ている。
「……なに?」
「なに? じゃないわ! やけに優しい目で画面見つめちゃって」
また顔が熱くなる。
知らなかった自分がどんどん前面に出てきている気がするし、今まで思ってもみなかった感情と感覚があふれて戸惑う。
「前に和馬が言ったでしょ。好きになる気持ちってやつ。広瀬さんのことが気になるし、確かに見てるよ。つい目で追ってる。さっきみたいに、来てくれたら送ってあげたいし、困らせたり傷つけたりしたくないって思う。今日だって言葉を選ぶのに必死で、感情が揺れてしょうがなかった……」
和馬たちはテーブルに身を乗りだし、今度は大声を出さずに問いかけてきた。
「やっと認めるか。ずっと好きだったろ。広瀬さんのこと」
「それじゃあ、ちゃんと好きだって伝えたんだ?」
「これからつき合っていくのか? 彼氏彼女としてさ」
「それは自信ない。だからとりあえず、友だちとしてお互いを知るところから始めようって言った」
和馬は腕組みをして大きなため息をつくと、首を振ってうつむいた。
「なんでそこで友だちにいくかねぇ……」
「だって……今まで話したことさえろくにないのに……もし思っているのと違うって思われたらどうするの。優しい子だから、別れようとか言えないかもしれないじゃないか。そうしたらかわいそうだし……」
「あ~……まあな。悠斗らしいちゃ悠斗らしいけどなぁ」
「広瀬さんのほうは、まあ置いておいて、悠斗はどうなんだよ? 思ってるのと違うってなったら」
准と慧一に聞かれたけれど、これは考えるまでもない。自分ではっきりわかる。
「僕はそうならないよ。きっと今より好きになる」
「カッコイイこと言うねぇ~」
「ただ……本当にいいのかな、って不安にもなる」
「バカだな。いいに決まってるだろ」
「そうだよ。けど、あまり待たせないであげろよな。それこそかわいそうだ」
食べ終えた僕たちは店を出た。
そのとたん、僕は三人に背中をたたかれ頭をもみくちゃにされた。
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