第174話 ころんだコップ


 テーブルのうえに、コップがふたつあります。

 そのうち、ひとつのコップはいま、ころんでしまっています。

 さて、もんだいです。

 テーブルのうえは、いま、どうなっているでしょう。


「こーらー!」

 コップのあしをひっかけちゃって、「あ」っていったら、ママがオニ(っていっても、あたしがしっているオニはえほんのなかのオニだけど)みたいなこえをだしながら、あたしのほうへととんできた。

「な、ななな!」

 あたしは、ママにびっくりして、ほんとうになんでかわからないけど、コップがみえないように、てでおおった。

 だけど、あたしのてはちっちゃいから、コップがぜんぶかくれない。

 そこにあるって、バレバレだ。

 でも、コップがあるってバレちゃっても、できることはまだある。

 からだもつかって、ママのめにはいらないようにするんだ!


「こぼした? こぼしたならふかないとだめだよ? したは? ゆかは? へーき?」

 

 ママが、こぼれてないか、かくにんしようとしてる。

 あたしは、しってる。

 あたしがころばせちゃったコップは、からっぽだったって、しってる。

 だって、あたし、ぜんぶのんだもん。

 だから、なにもこぼれてないってしってる。

 だけど、なんでかなぁ。

 みられちゃいけないきがして、だからかくさないといけないきがする!

 だから、かくすのをやめられない!


「こら、みせて! かくさなくていいから! ……って、あっ!」


 ママが、もうひとつのコップをころばせた!

 ママのコップ!

 ママのカフェオレがはいっていたコップ!

 のみきって……ない!


「あああ! ゆか! おきにいりのコースター! あああああ!」


 ママがしょんぼりした。


「だい、じょうぶ?」


 きいたら、ママはあたしがかくしていたコップから、なにもこぼれていないのと、こぼれたカフェオレをじゅんばんにみて、


「ひどいよ、リン」


 っていった。


 ぷう!

 なんで「ひどい」っていわれないといけないの?

 ひどいよ、ママ!

 あたし、わるものあつかい、にかいもされてる!


 あたしのコップからはなにもこぼれてないけど、あたしのめからはポロン、ってなみだがこぼれた。



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