6:紗里との関係
「どうして、あなたは紗里さんを助手に選んだんです?」
「選んだんじゃない。紗里が勝手に押しかけて来たんだ」
「……そうですか。では、どうして紗里さんはあなたのところに来たんでしょう。ただの同級生だったあなたのところに」
含みを持たせた物言いに気付いたのだろう、椿は少し不機嫌になった。
「あんたには分からないだろうさ。俺と紗里は心で通じあっていたんだ」
「心……ですか。ですが、三宅さんによると、紗里さんはあなたのことを迷惑がっていたと」
「ふざけるな! あんな気色の悪い男の言うことを信じるな!」
突如、椿は激高して立ち上がるも、私が唖然とした表情で見上げているのに気づき、気まずそうに咳ばらいをしてソファーに腰を降ろした。
私はしばらく無言で机に目を落としていたが、相手が落ち着いた頃合いを見計らって話を続けた。
「紗里さんのお母様はあなたに感謝していました。紗里さんの事を心配していつも会いに来てくれる同級生がいる、と。ですが、彼女は精神を病んでいるんです。紗里さんが失踪した現実を受け入れられず、10年以上前から心が壊れたまま、今も部屋に紗里さんがいると思い込んでいます」
「…………」
椿は唇をぎゅっと引き結んだ。
「三宅さんと似たような証言は、紗里さんの友人たちもしています。椿さんと紗里さんの仲が良かったとは思えない。ただの同級生で、会話をしているところも見たことがないと」
「…………」
「もっとひどい言い方をしますが、紗里さんの大親友だった曽山さんという方は、紗里さんがあなたのことをストーカー呼ばわりしていたとおっしゃってます」
その言葉を聞いた途端、椿の指が激しく震え始めた。
「上級生にいじめられていたあなたを紗里さんが助けたことがあって、何を勘違いしたのかそれをキッカケにあなたが紗里さんにつき纏いはじめたと。そう証言してくれました」
「…………」
「曽山さんは今でも紗里さんのことを思い出すそうです。紗里さんが失踪した祭りの夜、彼女と一緒にいたのが曽山さんなんです。曽山さんは紗里さん失踪から10年以上経った今でも彼女の無事を祈っているそうですよ」
「…………」
「椿さん、もう一度質問させてください。紗里さんはどこにいますか?」
あえて紗里の生死は確認しなかった。
10年という時の長さもあるが、それ以前に椿の自著を読んで私の中である一つの確信が芽生えていたからだ。
とても悲しく、そしてとても残酷な真実がこの本には描かれている。
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