5話

 世の中の大半の霊現象には科学的説明がつくし、存在すると言われる幽霊も思い込みや誤解がほとんどだ。

 実際に俺が受けた依頼の9割以上が、本人の心の問題であったり、自然現象がもたらす勘違いで解決できた(依頼者には俺が霊を祓ったとういことにしてあるが……)。


 なかには生きた人間の嫌がらせだった、というパターンもいくつかある。

 こういった依頼は簡単に片が付く。元凶となる人間関係を断ち切るもよし、家の修理が必要ならば専門の業者に頼むのが一番だ。心の問題であれば病院に行ってみるのもいいだろう。


 程度の差こそあれ、俺のアドバイス……もとい除霊によって多くの依頼者たちの心が軽くなり、そのうち霊だのなんだのと言わなくなる。こうなれば大団円だ。


 やっかいなのは、これらのパターンに当てはらまない<本物>に出くわした場合だ。

 俺は人よりほんの少し<直観>が働くたちで、お祓い屋なんてインチキ商売を思いついたのもこの経験があるからだ。


 この能力に気が付いたのは高校生くらいの頃だっただろうか、他人に見えないものが自分には見えると分かったのだ。除霊能力はないくせに、本物の霊は見えてしまうというやっかいな体質。


 依頼を受けた際、それが嘘か誠かすぐに見抜けてしまう。なぜなら本物が<見える>から。

 相手の主張を元に元凶を探ってみても、どこにも霊が見当たらないのだから依頼者を悩ませている問題に霊は無関係だと断言できる。


 ただし、そうではない場合はやっかいだ。

 適当に切り上げるつもりの依頼が<本物>の霊現象だった場合、いい加減なことを言って難を逃れられなくなる。<本物>相手に嘘の除霊をしてお金を貰うのは気が引ける。そんな悪いことをして、本当に呪われでもしたらたまらない。


 そんな案件に出くわすのは1年に1度あるかないか程度なのだが、どうやら今回は大当たりを引いたようだ。

 

 俺に何かを期待しているわけでもないだろうが、体の透けた老女はこちらが何か言うのを待つかのように視線を這わせている…………ように思える。

 四面楚歌だ。


「……どうしたもんかね」

 

 俺は小声でそう呟いて、目を閉じた。

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