第33話 33

33


俺達はジャーナリスト榊原さかきばらに警戒しつつ、通常営業に戻りつつあった。

そんな時に客に紛れて城島じょうじまさんが黙って客の席に座り語り出した。


「シグナルスキャンさんの占いは見事に的中し医師が驚いていました。つきまして約束した物をお持ちしました」


城島じょうじまさんは内ポケットから茶封筒を取り出し金を置くトレイに置いた。


「そうですか、それは良かったですね」


俺は茶封筒を受け取り直ぐに中身を確認した。

中には約束した通りに3万円が入っていた。


「後、ステーキは美味しかったですか?」


「えっ!?」


俺はどうして城島じょうじまさんが、俺達が最近ステーキを食べた事をしっているのか驚いた。


「それでは私はこれで失礼します。又、依頼があれば連絡させて頂きます」


城島じょうじまさんはそれだけを言い残して席から立ち去った。

俺は金を得た事より自分の能力が正当に評価され、医師からのお墨付きを貰った事を喜んだが、ステーキの事だけは不思議に思った。


-


休み時間になり俺は茶封筒を安藤さんに渡しながら、城島じょうじまさんに言われた事を伝えると直ぐに答えが返って来た。


「タクシーチケットに乗降の場所とかの記録が残るんじゃないの?」


俺は安藤さんの言葉に納得し、次回からは少しだけ注意しようと思った。


「そう言えばこの前のテレビ出演の出演料を鈴木君の銀行に振り込んだと連絡があったわ」


今まで俺達は全ての依頼はニコニコ現金払いでやっていたが、テレビ出演に関しては振込ではないとダメと言われ俺は自分の銀行口座を指定したのだった。


「連絡ありがとう。初めての振り込みだね」


「そうだね。でも、これが普通だしこれから増えていくんじゃないかな?」


「どうだろうね。占いと言うと宗教みたいな捉え方をする人もいるから、その場合現金になる可能性の方が高いような気もするけどね」


「そう言う考え方もあるかな。でも一度実績が出来たからこれからはどちらでも行けるね。それと話変わるけど、あれ以来例のジャーナリスト姿を見せないね」


俺は安藤さんの言葉で少し忘れていたジャーナリスト榊原さかきばらの事を思い出した。

確かに城島じょうじまさんの依頼から姿を見ていなく、本当に努力・・の結果姿を見せなくなったのかは不明だった。


*


俺の名前は榊原さかきばら

『Worhtless door』(価値のないドア)のサイトを運営するジャーナリストだ。

芸人のブラッキー慎吾が持って来た情報で俺は占い師の情報を上げた。

記事は大した事ないが、まあまあの閲覧数があった。

俺はもしかしたらネタのカモを見つけたのかもしれないと、準備をして急ぎ名古屋へと向かった。


当然だがシグナルスキャンの記事だけでは元が取れない事は分かっていたので、以前から依頼があった案件取材も同時にこなす事にした。

俺は早速シグナルスキャンにアタックした。

シグナルスキャンは話した感じ簡単に崩せそうだと思ったが、横に居たサポート役の安藤とか言う女が厄介だ。

俺はシグナルスキャンと女が別行動に出ないかと見張っていたが、奴らはいつも同じ行動をしていて中々チャンスがこなかった。

チャンスが来ないと言って黙って見ている訳ではなく、アタックするもやはり女が邪魔で失敗に終わる。

俺は一度距離を置くために別の案件取材へと出かけた。

案件取材が終わり俺は営業する以外の日も取材を試みる事にした。

俺はシグナルスキャンと女が良く利用する駅の付近で張り込みをしていた。

するといつもと少し違った格好(綺麗な服)をしてシグナルスキャンが現れた。

女の方は特別服装が違う事はなかった。

俺は奴らが何処に行くのか後をつけようと歩き出した瞬間にスーツを着た男二人に挟まれた。

そして一人の男が胸の内ポケットから桜の代紋の手帳を出し言い放った。


榊原さかきばらだな。迷惑行為防止条例違反で同行願う、いいな」


*迷惑行為防止条例違反とは、ストーカー行為と同様のつきまとい、押し掛け等の行為を執拗に繰り返す陰湿な事案(恋愛のもつれでの発生が多い)


俺は直ぐに嫌とは言えなかった。

何かをここですればさらに、業務執行妨害などひもが付いてくるのが目に見えていたからだ。

俺は男二人に挟まれ覆面パトカーへと乗せられた。

静まる車内で俺は横の刑事に語り掛けた。


「俺を売ったのは何処のどいつですか?」


刑事はチラリと俺を見て口を開く。


「その様子だと、複数心当たりがあるようだな」


「っ!!」


俺はその瞬間、言葉を間違えたと悟った。

俺は考える。

このままブタ箱に入る事は無いと思うが、行動制限が付くのは間違いないだろう。

そして行動制限を無視した場合、間違いなくブタ箱に送られるだろう。

俺はどうやってこのピンチを軽くするか思考するのだった。


*


少し経った頃非科学研究所ひかがくけんきゅうじょ 大阪支部よりメールが届いた。


『シグナルスキャンの占いの脳波測定結果


占いを行っている間、視覚皮質が活発に動いているのが確認され、さらに側頭葉からの刺激も確認されました。

以上の結果により、簡易的ではありますが夢を見ているような症状でした』


俺と安藤さんは非科学研究所ひかがくけんきゅうじょからのメールを見て頭を傾げた。

視覚皮質とか側頭葉って何?

俺の能力は夢を見ている?

さっぱりわからないので、俺達は見なかった事にしてそっとメールを閉じたのだった。


それから数日後、又メールが飛び込んできた。


『至急! イベント出演依頼について

急ぎの為至急聯絡を下さい。

電話 000-0931-04510-194

差出人 〇〇製薬会社 佐藤』


俺は最初なんで直接電話をして来ないのかなと思ったが、やはりそこは社会人としてのマナーなのかなと思った。

そして安藤さんが電話をして話を聞くとなんと一週間後のイベント出演の依頼だった。

ちょうどその日は日曜日で営業しない日だったので俺達は了承し、明日詳細な打ち合わせをする事になった。


翌日俺達は待ち合わせした喫茶店で製薬会社の佐藤さんと対面していた。

俺は佐藤さんに会うのは二回目なのでこの日は素顔で対応した。

最初に安藤さんが新しくなった名刺を佐藤さんに渡した所から話が始まった。


「実は当社のライバル会社が当社によく似た薬の開発をしているとの情報を得まして、当社はパッケージを新しくして対抗しようとしていました。ところが情報は隠ぺいされていて既に薬は完成していて、1か月後より発売するとの情報を得ました。私共も新パッケージのイベントを1か月後に予定していましたが、それでは当社はパッケージで敵は新薬で敗北は目に見えています。そこで急遽きゅきょ1週間後にイベントが上層部の判断により決定し、以前出演して頂いて好評だったシグナルスキャンさんに声を掛けた次第であります」


「急ぎの理由は分かりました。詳細をお聞きしてもよろしいですか?」


安藤さんが受け答えた。


「はい、今回のイベントは13時30からの30分となります。出演予定は以前も司会をした清水しみず若菜わかなさんと、シグナルスキャンさんそれに今売り出し中のアイドルで女優の卵の大口おおぐちねねさんです。大口おおぐちさんは最近ですとショートドラマに数回出演なされたと聞いています。ご存じですか?」


「はい、私はそのドラマ見ましたよ」


二人が俺を見るが俺は首を横に振り見てない事を伝える。

しかし、俺はアイドルに会えると思うと思わず笑みがこぼれてしまった。

俺は安藤さんに悟られないように顔を引締めた。


「そうですか、それで出演者は3名で11時からリハーサルを行いその後昼食を取り本番となりますので、10時30分入りで14時終了で依頼金7万円でどうでしょうか」


俺は安藤さんと顔を見合いコクリと頷き了承を伝える。


「イベント出演依頼お受けします」


「ありがとうございます。それで昼食の弁当はお二人分でよろしいですか?」


「はい、それでお願いします」


その後少し世間話をして俺達は佐藤さんと別れた。

そして直ぐに安藤さんからキツイ言葉が投げかけられた。


「アイドルに会えそうで楽しそうね」


その日、安藤さんは口を聞いてくれなかった。


-


イベントを3日後に控えていた時に事件は起こった。

安藤さんが俺にスマホを見せて来たのだ。

それは芸能人ニュースのサイトで記事が書かれていた。


『高身長で有名なケンヤ、アイドルで女優売り出し中のねね深夜の密会か!?」


〇月〇日21時頃中区の路上で二人でタクシーに乗る姿をとらえました。

*二人でタクシーに乗り込む写真が掲載されていた。


俺はこれを見た瞬間に前の悪夢のイベントが頭をよぎるのであった。

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