第12話 12

12


俺は口の中にあったご飯を飲み込みながら、目の前で俺を見つめる女性の目線にさらされていた。

「それでなんで白い仮面なんかして占いなんかしてるの?」

この質問に対してどうやって対処しようか考えていたが、恐らくは逃げれないと思い答える。


「お金を稼ぐのに占いなら簡単かなと思ったからだよ」


これは無理があったか?

目の前の女性の目線が少し鋭くなったような気がするが…まあいいだろう。


「バイトするなら家庭教師とかもっと割のいいバイトの方がいいんじゃないの?」


「家庭教師もやっているよ」


「そうなんだ。まあ、それはいいか。それでね今回声を掛けたのは鈴木君にお礼がしたいと思ったからなの」


「お礼?」


「そう、さっき話した私の病気を占いで見事に当ててくれたおかげで、私は今こうやって大学で食事をする事が出来てるの。もし、鈴木君に出会わなければ私の人生は半分終わっていたかもしれない。それで…何か鈴木君のお手伝いが出来ないかなと思ったんだけど迷惑だったかな?」


「めっ迷惑ではないけど、俺はただ占って結果を伝えたまでで、お礼をされる程の事とは思っていないよ」


俺の言葉を受けて女性が机に手を置き中腰になり、いきなり俺へ顔を近づけて言い放つ。


「鈴木君!気づいていないかもしれないけど、あなたは人の人生を変える力があるの!本来病気で人生を終わらせる予定だった人が、そうではない人生を歩む事が出来るの。鈴木君の力は近い将来いろんな人に認められて大変になる予感があるの。だから私は鈴木君が大変になる前に防波堤を作る手伝いをさせてくれないかな。これが私が出来るお礼なんだけどどうかな」


「と、とても嬉しいお礼なんだけど、その言いにくいんだけど、俺、君の名前とかどんな人か記憶になくて…ごめん」


「ごっごめんなさい」


女性は俺から離れて席に座るなり頭を下げて来た。


「一人で盛り上がって先走り過ぎました。私の名前は安藤あんどうゆうこ。鈴木君と同じ大学の同級生です。学部は経営学部です」


それから10分程掛けて安藤さんは自分の事を丁寧に俺に説明してきた。

正直に俺は安藤さんの話を聞いて、俺に対するお礼の真剣具合がヒシヒシと伝わって来た。

そして俺は手伝いに当たり重要な事を切り出す。


「その手伝ってくれるのは嬉しいんだけど、安藤さんに俺はあまりバイト代を支払えないんだけど」


「そんなのいらないよ。私は私の好意でするんだから鈴木君は受け取ってくれればいいよ」


それから俺と安藤さんの駆け引きは続いた。

結局、お金じゃなくてその日の昼食とか夕食をおごる事でなんとか話はまとまった。

なんだかんだと言って結局、安藤さんに押し切られた形にはなったが、正直男としては女の子と占いの仕事を出来るのは悪くないと感じた。


「それで鈴木君、税金対策とかは考えているの?」


「いや、まったく考えていないよ。占いが金になるか手探りで始めたからね」


「それは良くないわね。このままお客さんを取れば家族の扶養とかから外れちゃうよ」


俺は素直に『マズイ』と思ったが、直ぐに安藤さんから提案があった。


「個人事業主を登録しない?」


「何それ」


「簡単に言えば自宅でソロバンとかピアノとか教えている人いるじゃない。そう言う個人でやってる人の事なんだけど、一番大きいメリットは控除こうじょが受けれるの。例えば年間で100万円もうけて20万円が経費で使って、手取り80万円なんだけどそこから確か、48万円を差し引いた金額の数パーセントの税金と住民税を払うだけでいいの。手取り100万以下なら税金は2万円程度かな」


「それはかなり得じゃないの?」


「そうよ。さらに経費なんだけど1商品10万円以下の物なら消耗品経費として計上出来るの。あっ当然業務で使うのが前提なんだけどね。どうかな社長になってみない?」


俺は『社長』と言う言葉に思わず口から笑みがこぼれてしまった。

まあ、どうせ税金を払うならお得な方がいいかなと素直に思った。


「なるよ個人事業主に」


「よし!善は急げよ!午後の授業はパスして税務署に行きましょう」


俺が返事をする前に強引に安藤さんに連行され俺は税務署へ行き、説明を受け書類を受け取った帰り喫茶店へとやってきた。


喫茶店で書類の話とかいろいろ一段落した所で、俺は安藤さんに能力の事を話した。

人を早く信用するにも程があると思うかもしれないが、秘密を絶対に守るとの安藤さんの姿勢と、なんとなくだが占いを近くで見ていれば不審に思いいずれバレると思ったからだ。

能力の事を聞いて安藤さんは少しは驚いたが、それより占い結果の出し方や営業方法のダメ出しの方が多かった。

そして安藤さんとの話合いでいろいろ決まった。


占い結果だが青色、黄色、赤色だけだとわかりにくいと言う事で、色と1から5の危険度の数字も記入する事になった。

青が1、青~黄色が2、黄色が3、黄色~赤が4、赤色5となる。


そして宣伝だが安藤さんがパソコンで占いのホームページを作ってくれる事になった。

そこに金額や何日に何処どこで営業するかの情報を乗せる予定だ。

ただ、スマホのホームページの作り方は分からないのでこれから勉強をするとの事だ。


今日は普通に大学に行っただけなのに、こんな日になるなんて予想もしていなかった。

だけど、安藤さんのおかげでこの先の占い事業がとても面白くなって行く予感がするのだった。


ちなみに会社の屋号やごう(会社の名前)は、『鈴木屋』にした。

ダサ!と思うかもしれないが看板とかに出す店の名前が重要で、会社の名前なんて適当でいいと安藤さんからの話で決まった。


※税金関係はフィクションが含まれます(一応)

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