第275話 リンダさん(クラリス視点)



あれからもう何年も経っている。

ロビンさんからは『気軽に顔を出してやってくれ』って言われた。分かってはいてもどうしても緊張してしまう。



ポンっ



リンダさんの部屋の前で立ち止まった私の肩にシーマさんの手が乗っている。

ふと振り返るとシーマさんの隣りではセレナが頷いている。

そうだよね。

私はひとりじゃないんだった。


ありがとう。

過去の私に勝ちに行くよ。



トントン



「はーい。クラリスちゃんでしょ? 入って!!」



ガチャ



私は覚悟を決めて部屋に入った。

正面のベッドにはやせ細った初老の女性が上半身を起こして座っていた。

以前と変わってしまった面影に、私の目からは涙が溢れる。



「あらあら、クラリスちゃん大きくなってさらに綺麗になったのに、泣いてしまったら台無しよ?笑」


「でも...グスッ」


「前にも言ったけど、私の病気はあなたのせいじゃないのよ...ゲホゲホッ」


「リンダさん!!」



やっぱりまだ体調が悪いんだ。

早く何とかしてあげないと...。



「...大丈夫よ。いつものことだから。それよりもそちらの2人を紹介してくれない?」


「...知ってるかどうかは分からないんですけど、私...聖女の地位を剥奪されて監禁されてたんです。それを助けてくれたのがこちらのシーマさんなんです。そして隣りが婚約者の1人でセレナさんです」


「シーマです」


「セレナです」


「あらあら、そんな大変なことがあったのね。危険を顧みずクラリスちゃんを助けてくれてありがとう。これからもクラリスちゃんと仲良くしてあげてね」


「何だかクラリスのお母さんみたいですね笑」



ちょっとー。

シーマさん、突然何てこと言ってるのよ!!



「ふふふ、そうね。私の勝手な思い込みもあるけど、私はサザンベールでのお母さんのつもりよ!!」



えっ、そうなの?!

ダメだよ、そんなこと言っちゃ...。

私、何もしてあげられてないのに...。

うぐっ。



「リンダさーん!! うぇーーーーん!!」


「ほら、私の子供みたいじゃない笑」


「うぐっうぐっ」



気が付いたら、リンダさんに抱き着いて泣いてしまっていた。

ダメだ。

何も言葉にならないよー。





「クラリス、これでも飲んでちょっと落ち着こうか。よかったらリンダさんもどうですか? 熱いので気をつけて下さいね」



シーマさんはそう言って、私とリンダさんに飲み物をくれた。

初めて目にする飲み物だけど、私はともかくリンダさんは大丈夫なのかしら...。



「あら、レモのいい香りがするわね。とても美味しそうなので、早速いただこうかしら」



えっ?!

そういえば確かにレモの香りがする...。

ふと、セレナのほうを見ると頷いてくれたので問題ないってことよね。



ズズッ



「あ〜。これは美味しいわ!! 酸っぱいのかと思ったら甘くしてるのね...。とっても優しい味だわ」



いやいや、リンダさん。

もう飲んでるの?

少しは警戒しようよ。

まぁ、シーマさんが作った飲み物だから、美味しくないわけがないんだけども...。


リンダさんの口ぶりだと甘酸っぱいのかな。

私も飲んでみよう!!



「ふひゅー。これは蕩けちゃいそうでしゅ」


「あらあら、クラリスったら美味しいものを食べると舌っ足らずになるのは相変わらずなのね笑」



むにゅー。

だって、しょうがないじゃないでしゅか。

美味しいんでしゅもの。







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