第6話 裏通りの店。

 アミールの店は町の中心からかなり離れた場所にあった。


「ここだよ」


 建付が悪いらしくギィっと嫌な音をたてながらアミールが扉を開ける。


「どこをほっつき歩いていたんだい!」


 罵声が聞こえたのとほぼ同時に、アミールの体が路の方へ倒れこんだ。彼の左頬が赤くなっている。


「大丈夫か?」


 籠を地面に置き、ギルがアミールを助け起こす。


「真面目にお使いをして来た子供を、倒れるほど叩く理由が何処にある?」


 問いただす口調には、明らかな憤りが感じられた。ギルの眼差しは剣呑なものだ。

 だが、その鋭い眼差しを不遜な態度でみおろしているのは、中年の女だった。二重にたるんだ顎をしゃくって大きく口を開く。


「はあ? あんた達は誰だい? 他人にとやかく言われたか無いね!」

「私達は客としてこの少年に案内をされて来たのですが、どうやら違ったようですね」


 ギルとアミールを庇うように女の前に立ったのは、フレイアを片腕に抱き上げているシアだった。フードを後ろへずらし、美しい彫刻のような顔が露わになっている。女を見る薄青い瞳が恐ろしく冷ややかだ。一方の女は、シアの稀にみる美貌に口をあんぐりと開け、呆然と立ち尽くしている。


「さあ、ギル。他の店に行きましょう」


 ギルの腕を掴んで立つように促すシアの言葉に、女ははっと我にかえった。


「あ、あら、嫌ですよ。せっかく大通りからこんな遠い所まで足を運んで来てくださったんじゃありませんか。小さなお連れの方もいらっしゃるようですし、さあさあ中へ入って下さいまし」


 取り繕うように猫撫で声で、女はシアを店の中へ誘導し始めた。シアとギルの視線が交差する。シアが頷けば、ギルは大きく息を吐き、立ち上がった。どうやらシアは何が何でもフレイアを休ませたいようだった。


「おい、立てるか?」


 アミールが立ち上がるのを助けながら、ギルは彼の服についた砂を払ってやる。


「……さっきは、ありがとう」


 アミールは澄んだ眼差しでまっすぐにギルを見上げる。腫れた左頬が痛々しい。


「ん? 俺は礼を言われるような事はしてないぞ」


 惚けた口調でギルが応じれば、アミールは嬉しそうに破顔した。

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