焦り side松村

「…」


「…思い出した?」


「…」


「そう…。まあ、いっかぁ。今日はそんな事…言いにきたわけじゃ無いし…」


ひんやりとした空気があたり一体に広がる。幽霊でもいるのか、と思ってしまうほど。



「お前は何の目的で、」


そうだ、もし、彼女が俺に好意を持っていたとしても、蜂山ミチカを巻き込んでまでこんな大層なことをする必要がなかったはずだ。



「えっと…付き合って欲しいなって、」


もじもじと体を揺らし、田中は言う。

まさか、これは告白か?恋愛としての?今の話を聞いてよく告白しようと思えたな。


断れば、きっと彼女は憤怒する。田中はみた感じ精神が不安定だ。ここで暴れて先生を呼ばれても困る。

ならどうする。…了承して、上手く話を逸らして、警察に連絡すべき?



「俺は……」


演技も大事だ。早く、いいよと言えばこいつは満足して帰るだろう。

だが



「無理だ。俺にも色々事情がある」



「…なんで?……蜂山さん?」



田中はチッ、と舌打ちをする。想像と反して、田中は暴れなかった。

しかし、なぜここで蜂山ミチカが出てくる。



「ああっ…うざい!!毒で殺しとくべきだったかも」


そのキレよう、サイコパスなのか、頭が壊れてるのか、病気なのか。

とても普通の人間から出る言葉とは思えないな。ここまでおかしいと、逆に冷静になれそうだ。早く警察に言わないとな、証拠もあるし。



「まあ、今頃蜂山も終わるし、別にいいけどね…」


ふふふ、と不気味な顔で田中は笑った。

俺はその田中の言葉を不審に思った。


「終わるって、どういう意味だ」


「ああ、…いま蜂山、委員長と一緒、なんだよ…」



一緒。委員長は蜂山ミチカの事を異常なまでに好いている。それこそ、先生のように。先生は、蜂山ミチカを盗撮したりしていた。



…蜂山ミチカが危ない。



「え、ちょ松村君どこに」


「退け」



俺は田中をどかし、勢いよく扉を開けた。蜂山ミチカと別れて、まだそんな時間が経ってない。探せばいるはずだ。きっと委員長なら男子トイレが空き教室にでも連れていくだろう。廊下から下に向かうまでにある全部の空き教室は3つ、トイレは2個。


「まっ…!!」


田中の手が伸びる前に扉をダン!!と力強く閉める。邪魔をしないで欲しい。


まずはトイレを確認した。しかし開いていて誰もいないよう。


次の空き教室、閉まっていて、窓から様子を見たが誰も居なかった。


そして次の教室…と言うところで「やめて…!!!」という声が聞こえた。しかも、これは蜂山ミチカの声だ。


この教室に、いる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る