自分に酔う side須月




うちが本当にミチカが虐められていないという事に気づいたのは、ばかと言われた時だった。いや、言われる前から、薄々感じっとった。なんかおかしいって。虐められとんのに、あんな楽しそうに松村と話す訳が無いと。…ああ、おかしいなんかで済ませるべきじゃなかった。




ミチカの話と、友達3人+証拠どちらを信じるかとても悩んだ。




けれど、最初に信じたのは友達3人やし、ミチカは皆に知られたくなくて意地張ってるんやと思ってた。そんな頑張らんでも、うちを頼ってくれたらあんたをいくらでも守ってやんのに、なんて考えていた。だからミチカが休んだ日から松村を病ませて不登校にしてやろうなど企んだ。




_なんでミチカが学校休まなあかんのや!!休むべきはお前やろ!!




無表情で弱そうな声、こんな奴に大事なミチカは虐められていたんかと思うと腹が立ってしょうがない。怒りでまともな考えが出来ていなかった。正直自分に酔っていたんやと思う。ミチカを守っている正義感に溢れた自分に。二日間だけだけど、ずっと良い事をしている気がしてしょうがなかった。物を隠したりしているのも、あいつを不登校にさせてミチカが何不自由なく学校で暮らせるようにさせるため。周りから見ればただのいじめやけど、うちからしたら正しい事をしているとしか思えなかった。




登校してきたミチカの話もちゃんと聞かず信じずに、ただ松村をクラスの皆と一緒に責めた。

あくまでも、ミチカを守るように。






「何にもされてない、これまで、誰にも何っにもされてない」




この言葉で、何か変だと思った。

ミチカはどうしてこんな鬱陶しそうな目でうちを見るんやろ、と疑問に感じる。うちは味方やで?その目を向けるべきは松村やろ…?なんか深く考えるのは心が気持ち悪くて、すぐに花の話題へとすり替えた。




家に帰ってどうしてミチカはうちにあんな目を向けたのかじっくり考えてみたけれど、やっぱり分からない。もう虐められていた事は学校全体に知れ渡っているし、先生にだって把握されている。強がる意味は全くないはずや。考えているうちに徐々に不安になっていく、もしかしたら“虐められていた“など嘘やったんやないか。






__彼女に教えてもらいたい、彼女ならうちの欲しい答えをくれる。








「なあ松村ってほんとにミチカの事いじめてたんかな」





友達でもある彼女の答えはこうだった。“あの子は我慢したがるから“







…やっぱりそうやんな、ミチカはうちらにまで被害が及んでほしくないから、とか、迷惑をかけたくないからとかそんな理由で対応が冷たかったりしてるんや!ああ、安心する。でも、うちは迷惑をかけられてもええんやでミチカ!うちが守ったるから!







きっと、ミチカは会話を松村に強制されとるに違いない。だったら席の距離を遠ざけて、うちの席の近くにしてあげた。






きっと喜んでくれる、また笑顔が見られる、そう思っとたんに、実際に見た彼女の顔は怒りと呆れに近かった。説教に近い言葉も言われ、最終的に「ばーか」と帰ってきた。










え、なんでや?なんでなんや??

証拠だってあるやん、なんでバカだなんて言うんや。









「LINE?なんの事」





LINEの事も何にも、知らないってそんなわけが、だって言ったのはミチカ……。




___も、もしかしてLINEで言ったのはミチカじゃない?

その考えは恐ろしく、胸が苦しくなった。そうだとしたら今までうちがやってきた事はなんや?ただのいじめ?信じたくない信じたくないけど、…ッ有り得てしまうんや。ミチカの今までの態度と、松村との絡み。冤罪の可能性が普通にあるんや。











ああ、やばい。そうだとしたらやばい。うちは、良くない事をしてしまった。









クラスの人たちも気づき始めたのか、だんだん藤田や委員長を非難する声が大きくなり、ついに藤田は退学になった。その時から、うちもクラスの皆や、他のクラスの人達からもあの時の松村のように色々言われるようになった。



「あの子さ、松村のいじめに加担してたんだって」


「ああ、あの冤罪の奴?きつすぎだろ、そこまでして一軍にでもなりたかったんかな」


「それな?蜂山さんの事もきにくわなかったんでしょ」


「イター!イキってんな」



廊下を歩いていたらこんな悪口を言われたり、うちがミチカを虐めていたなんて話も出ていた。彼女に相談しようとしても、避けられるばかり。先生にも睨まれたりした。隣を歩けば、どけよ、なんて言われた。…辛い、何処にも居場所が無いやんか。…ああ、うちはこんな事を松村にやってきたんやな。










次の日からうちは学校を休むようになった。



けど、それは逆に悪い判断だったかもしれない。

松村やミチカに対する後悔が日に日に大きくなるなり、胸の苦しさが尋常ではなかった。孤独の辛さが良く染みる。ボサボサになったうちを見て母親と父親は怒った。「学校に行きなさい」と。うちを心配する言葉ではなく、成績に対する心配への怒りだった。もう…家すら辛いものとなった。



学校に行って、ミチカに会ったらどうしよう。

まずは謝るんや、ほんで、松村にも謝って。









頭の中でそう計画しながら、学校に行くと、廊下に着いた。呼吸が荒くなる、脳内では完璧やったプランがもう崩されかけていた。



ミチカと目が合う、ミチカが話しかけて来ようとする。








“逃げなきゃ“







そう思ってしまった。間違っている事やとわかってる、ちゃんと話をせなあかん。

けど、怖い…そう会話したらええのか分かれへん!



ただただ走って逃げて、家に帰った。__やってしまった。家に着いた時の感情はそれしかなかった。また、うちは失敗してしまった。…弱すぎる、こんな被害者ぶってる自分にイライラする。










こんな事になるなんて、思ってもいなかった。

小さい頃はミチカと話したり、遊ぶのはすごく好きだったのに。









『_須月ちゃん!おはなうえよー!一緒に育てようよ!』


『いいで!名前もつけようや!』


『それいーねぇ、なんにする?すずはちの木?とか?』


『それええやん!』









あー…昔に戻って、全てやり直したい。もし戻ったんならミチカの言葉を全部信じるんや。

そんな事を考えて家の玄関にもたれ、一人泣いた。



泣くと、睡魔が襲ってきて、そのまま寝てしまった。今は家族も誰も居ないし、寝ちゃっても良いかも。








___



目が覚めたのは6時間後だった。冷たい床の上で寝てしまっていたからか、体がガチごちや。体をウーンと伸ばし、ストレッチをしていると家のチャイムが鳴る。



“ピンポーン“


「はーい」


“宅急便でーす“


起きたばかりで目がぼやあ、としか見えないが、帽子をかぶっていて宅急便ぽい人が見えた。声は若々しく、女性の声だった。


扉を開けて、荷物を受け取ろうと近づくが、その女性は荷物を渡してくれない。怪しいなと思い、帽子の下をちょいと覗くように見ると、見覚えのある顔が見えた。_ミチカや、な、なんでここに。



逃げようとするが、待って、と冷たい声をかけられてうちは止まる。




「ちょっと話しよっか」



彼女はにこりと微笑みそう言った。

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