子供 side藤田

逮捕された後、俺は留置場に収容される事になった。




留置場では母親や弁護士が面会に来た。

母親と弁護士は示談を行った方がいいと言ってきた。嫌だなあんなやつに金なんて払いたくねぇ。でも、母ちゃんが払ってくれるならいいよ、と嫌そうな顔して言うと母親は今まで俺に見せたことのない表情を見せた。




「あんたって子は…!私の苦労も知らないで!!」




「お母さん、落ち着いてください」



「…とりあえず、示談はしてもらうからね」



中学の時、万引きを先輩と行ったことがあった。

その時もこんな感じで留置場に入り弁護士と面会を行い、示談をすることで不起訴となった。


その時はちゃんと反省したし、お金も払った。

多分そのことが相手に伝わったんだろう。




だからどうせ、今回も弁護士がなんとかしてくれるだろ。

そう思っていた。



松村との示談が成功した事を教えてもらったのは、 少年鑑別所での面談の時だった。

俺は警察署の留置場から留置延長で鑑別所に入れられる事となった。


示談書も作成され、俺が100万の示談金を支払うことになった。

高すぎだろ、しっかりしろよ弁護士!


あと、家裁確定じゃねえか。こんなんじゃ示談金を払う意味があるのかよ!!



ムカついた。

親にも、弁護士にも、松村にも。


イライラする!!どうして俺がこんな長い間拘束されなければいけないんだ!!




鑑別所では、質問されたり、変な動画を見せられたりと俺にとっては最悪な日々だった。

また、謝罪文も書かされた!めんどくさい、学校よりもめんどくさい!早く出て暴れたい。


鑑別するだけじゃなく、意外にもここは更生させる為の施設であることが段々わかってきた。それが嫌だ。俺が子供だと言うことを自覚させられる。




俺はタバコも吸えるしお酒だって飲める!

ガキじゃないんだ、俺は周りの奴らよりも優れているんだ。だから、松村にも殴って分からせた。今までもそうだ、高校で生意気なやつはいじめて孤立させた。




そうする事で俺は優位に立ったと思えるから。




_しかし、鑑別所で過ごしたり面会を行っている内にその考えはおかしいと気づいた。穏やかで、何も刺激がない場所ではいろんな事を考える時間がある。だから、尊敬する先輩から教えられたこの優位に立つ方法は、人間として駄目な事なんじゃないか?と少し考えてしまっていた。…そんな事考えてしまう俺が嫌だ。正しいはずなのに、先輩や俺を否定したくない。



ああ、早く出たい。




鑑別所に入れられて10日が経った頃、親が訪ねてきた。

松村を殴った事について怒られるのかと思っていたが、鑑別所での様子を聞かれたり、最近の調子について聞かれるばかりだった。なんでだ?俺はつかまってるんだぞ!どうして怒らないんだ。



…俺は初めて親とまともに会話したかもしれない。


母ちゃんはシングルマザーでほぼ家にいなかったから。



「ごめん…母ちゃん」



別に泣いてはいないし、松村にやった事を反省してるわけじゃない!

けど、親には申し訳ないと思った。また俺は母親に負担をかけてばっかりで…と。



「しっかり反省するんだよ」




そう言い残して母親は出て行った。

反省……、松村に対してか?




する訳ないし嫌だな、けど、しなければ重い処分になると弁護士から言われた。

一応、反省した感じを出しておこう、泣いて震えて申し訳なさそうにしてたら大体許されるだろ!俺は鼻で笑いながらそう考えた。きっと、母親に対しあんな感情を抱いてしまったのはあの鑑別所でセンノウ?されかけていたからだ。そうでなければ俺は今までの人生を否定する事になってしまう。




_ついに来た裁判の日。

弁護士の人からは「頑張って」と声かけされた。




ああ、頑張って反省するぜ?フリでもいいならな!!

母ちゃんは心配そうな顔をしていた。



_裁判官から事件は間違いないか、とか、どうしてやったとか質問される。



「間違い無いです。ついカっとなってやってしまいました。しかし今では反省しています」



そう返した。これは決まっただろ!!後は顔に出さなければいい!!


ちなみに質問するのは俺だけでは無いようで、母親に対しても聞いていた。

“今後、息子さんとはどう関わり、どうして生きたいか“そんな質問だったと思う。

母ちゃんは「今後は息子と関わる機会を増やし守っていきたいと思います」そう答えた。……ホントかよ、どうせまた仕事に必死になるくせに。




裁判の終わり、俺のへの処分は“保護観察処分“となった。

どうやら、俺が反省した事と示談した事と弁護士が頑張ってくれた事が効いたらしい。

俺からしたら嫌な事まみれだが、母ちゃんは喜んだ。




その姿を見るとどこか安心した自分が居た。




つまり、俺は釈放され自宅に戻ることが許された。





ああ、ただいま!!愛しい学校!!

俺の友たちよ、手下たちよ!!





と思っていたのに母親から衝撃的なことを伝えられた。





「学校から強制退学の連絡が来てね」







は?


うそ、だよな。




思わず母親を殴りそうになった。そんな訳ないし、そんな事学校の俺の仲間たちが許してくれる訳ないだろ??









「本当の事だよ。あんたがタバコを吸ってる事もいろんな人をいじめたって事も全部学校側から聞いたよ。学校はあんたが逮捕された後、いろんな人が次々と教えてくれたって」



「べ、弁護士とか雇って取り消してくれよ!!」



俺の唯一の居場所をうばわれたくない。

学校を辞めるなんて…そんなのあんまりだ!!


「無理さ、…あんたにはバイトとかして欲しいことが色々あるからね…あ、でも高校には行こうね?通信制高校とかあんたにいいと思うんだ」








…俺は、もしかして学校からいらない存在なのか?

だから、退学にしたのか、でもなぜ。俺は優秀な人間だ。裁判が終わった時、皆歓迎して俺の事を迎えてくれるんじゃないのか?先生も、蜂山も委員長も俺の帰りを喜んでくれるはずじゃ。




俺は困惑で震える。






母ちゃんも俺のことを守っていくとかいってただろ?!

それなのになんで!!俺を働かせるなんて言うんだよ!!!



はっ、もしかして母ちゃんも裁判や面会の時フリしてたのか?!




「ふ、ふざけんなよ!!なんで俺がこんな、こんな目に遭わなくちゃいけないんだ!!弁護士も雇ってくれねぇしよ!!!」



そういった瞬間母親の顔は真っ赤になった。

留置場で見た時とは違う、また見たことない顔だ。



「……ふざけてるのはどっちだい??!!!私が一体どれだけあんたにお金をかけていると思ってるの?!?!昔から犯罪みたいなことばっかして!!!罰金は私が払って!!いろんなところに謝りに行かなきゃいけなくて!!!高校も塾に行かせたりして頑張った!!これで、安心して暮らせると思ったら捕まって!!弁護士を雇えだって?!?!私はあんたのためにどれだけ借金を抱えればいいわけ?!?」






はぁはぁ、と一気に言葉を喋りきり、必死で呼吸を整える母ちゃん。

_何いってるんだ子供のために母親が頑張るのは当たり前の事だろ?






…そう言おうとしたが、言えなかった。






言えなかったのはそれは間違いだと完全にわかってしまったから。

母ちゃんが借金している事も、いろんなところに謝りにいってるのも今初めて知った。


そして母ちゃんが俺に対してこんなに不満を抱いていた事も初めて知った。母ちゃんは俺の事を愛していると思ってた。捕まってた時もそうだ。でも、違った。愛しているとか、愛していないとかそういうのじゃ無かった。母ちゃんは育児することに多分疲れているんだと思う。今にも俺を放って逃げ出したいぐらい。



「ごめ、俺…」




「…私だって、あんたを放置していた責任がある。だから、面倒は見る。その代わりあんたはどこでもいいからバイトする。それでいいね?」



母ちゃんは俺の頭をぽんと撫でた。




「教えてくれ…母ちゃんは…俺の事愛してたか、」



俺はボソりと聞く。



「……そんなの、聞くもんじゃないよ」




そういって母親は去っていった。

否定も、肯定もせずに。










_あ、ああ。

俺は誰にも、必要とされていなかったんだな。心配やお帰りのメッセも来ない。

LINEを確認してもきているのは公式からのLINEのみ。




学校は俺の居場所がなくて、無理矢理こじ開けて作ったにすぎないかりそめの場所でずっと過ごしていて、たくさん暴れて俺を見てもらおうとした。

必死こいて虐めて、犯罪みたいな事して、怒ってもらって構ってもらえて嬉しかったんだ。



_俺は本当に惨めで愚かな子供だったんだな。

松村や母ちゃん、いろんな人に謝りたい。





今からでも謝れるなら。

でも、きっと今更自覚したところで許されない………。







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