センスあるのか松村君、強すぎ。

「何飲む?」


私達は部屋に行く前にドリンクバーに寄ることにした。そっちの方が楽だし、二度手間がかからないからね。


「じゃあ、水で」



「み、みず!?…ジュース嫌いなの?」



予想外な回答が返ってきてびっくり。



「いや、水以外は飲んだ事がないだけだ」



…松村君って未体験な事多くない?複雑な家庭なのか、はたまた反抗期が早かったのか。

いや、それでもジュースは飲んだことあるんじゃない?誕生日とか。…いや考えるのはやめよう。こんなのは、私が勝手に妄想して勝手に悲しもうとしてるだけだしね。


「カルピス飲んでみなよ。美味しいよ?栄養も…ある!」


「この白い表示のやつ?…味が想像できないんだが」


「まーま!飲んでみなって」



彼は、怪しそうにドリンクバーのカルピスの表示を見つめる。

そんな松村君を軽く流しながら、私はカルピスを交互に二杯淹れる。


「蜂山さんもかるぴす、を飲むのか?」


「うん!どうせなら一緒に飲んだ方が楽しいでしょ」


「そう…だな」



わ、納得してくれた!



何秒後かに淹れ終わり、カルピスを2杯運びながら16号室へと向かった。

よーしゃ、歌うぞーっ!



_部屋に入ってコップをことり、とテーブルに置く。 

結構狭めの部屋で二人で入るにはちょうど良い大きさの部屋だった。モニターを見やすいように座ると松村君との距離が近くなる…けど。うう、密着…!!



い、いや切り替え切り替え!!



「ジャンケンして勝った人が先に歌お!」



『じゃんけん、ぽい!』



私がパーで松村君がグー。なんと、私が勝ってしまった。でも丁度良いかも知れない、歌う事に慣れてないのに1番目で初対面の人の前で歌うとか、最悪の塊だし。…ぁ〜緊張するうー!!



そして入れたのが失恋ソング。

別に、意味があって入れた訳じゃない。私が最近この曲にハマってるから、というだけで選曲をした。なんだか失恋ソングって経験した事が無くても歌詞に共感できるんだよね。



〜♪


おーっと、始まっちゃう!!上手に歌えるかな…?周りから上手い!と褒められる事はあっても、それがお世辞だったんじゃないかと今いきなり不安になってきた。なんでだろ、友達と歌う時はそんな事考えた事ないのに。






「いつまでもこの気持ちがーーー♪」






〜ジャン!






お、終わってしまった!あー、松村君今の聞いてどう思ったんだろ、今どんな顔してるんだろ…怖くて振り向けないっ!歌う時はモニターから目を離せなくて、瞬きもできなくて目から涙を流したりしてしまった。



「蜂山さん…上手いな。そして、とてもいい曲だ。」


私が恐る恐る振り返ると、松村君はそう言いながら、ハンカチを渡してきた。

ん?ありがとう。



_あれもしかして私歌いながら曲に感動したやつだと思われてる?

やだっ、下手だと思われるより恥ずかしい!!



私は貰ったハンカチで涙を拭きながら「どうぞ〜…うぅ」と松村君にマイクを渡す。

そのマイクを受け取った松村君は一見何も起こっていない様に見えるが、良く目を凝らして見ると手が小刻みにブルブル震えていた。



なんかグダグダなカラオケ会だなと思ってしまい…んぶっ、と笑っちゃったが、すぐに咳払いして誤魔化した。



さて、松村君は何を歌うのかなー。

私と同じ恋愛系?バンド?kpop?ボカロ?アニソン?






おや?この感じ。

ポップで愛し合ってる感じ。聞いた事あるなあ。

なんだっけ…?







「___♪」







え?これもしかしてさくら○ぼ?!





松村君からそんな声出るんだ…そしてうますぎるよ!!!




…っ駄目だギャップで面白い。




今度は誤魔化せない…!人が歌った後で笑うとかクズの極みとはわかってるんだけど。




「そんなに下手だったか」




不安そうに歌い終わった松村君がマイクを口元から離し、手を脱力させる。


「いや?上手すぎるぐらい」


ここで不安にさせるのはダメだと思い、すん、と真顔に頑張って戻す。顔が痛い。

でもお世辞なんかじゃなくて、正直悔しくなるぐらい上手だったと思うまじで。



「本当か…?」


「うん。プロ目指せるよその声は」


「そこまでは行かないだろ、」



「まあまあ、こんなに上手ならどーする?採点、付けちゃう?」


にし、と笑って言えばタッチパネルを手に取る。

どうせなら点数と戦いながら歌った方が盛り上がる気がするし。ちょっと歌が苦手な人には苦痛だけど、松村君上手いし大丈夫でしょ。



「蜂山さんが必要なら」


「じゃあ、つけてもいい?」


「ああ」


「あ、でももし嫌だったら言ってね。いつでも外せるから」



そう言って、私は採点機能をつけながら、さくら○ぼを入れる。

にやり。ふっふっふ、勝負しようじゃないか松村君!!


「その曲でいいのか?俺と同じ曲だぞ」


「いーの!」



すると松村君は私の意思を察したのか、彼もすぐさまさくら○ぼを入力する。



「ふふ、乗ってくれるの?」


「ああ、俺が勝つ」



そして曲が流れる。

ちょっとうろ覚えな所あるけど、歌っちゃお!!







「__♪」




_ジャン!!




「て、点数は…?85点かぁ」



「良いんじゃない?高得点だと俺は思うが、違うのか」



めっちゃ褒めてくれるじゃん…。ありがとう、そんな事言われたら自意識過剰になっちゃう!照れながら私はおかわりさくら○ぼを入れる。


次は松村君の番。ドキドキ〜!先行は負ける確率高いからなぁ。



「__♪」



ジャン!!89!!!



「負けたぁぁ…!」



「お、高得点」



「くう、次々!!!」




_デン!!91!!



次の私のターンでは、松村君より3点上回った。

やった勝ち!!



_デン!!95!!



うわぁぁ…!!

4点負けてるう、!松村君は嬉しそう!!



_デン!!98!!



やった〜〜!大分点数がでかい!!




_デン!!99!!






それは高得点すぎるでしょーよ松村はん!!

実は天才か歌うの好き?そうじゃなきゃこんな点数滅多に取れないよ。



私たちは、松村君の99点を超えることが出来なくて、二時間ぐらい熱狂して歌った。

しかしその時間も終わり、なんと松村君が100点をとってしまったのだ。この時は本当に嬉しくてガチ泣きしてしまった。そしてまたハンカチを貸してくれた。優しい。






“もうすぐ、三時間となりまーす“


この電話がきた頃には二人とも声がガスガスになっていた。

せっかくのドリンクバーも全然楽しむことが出来なかったけど、松村くんはカルピスを一気飲みして目がきらめいていたので多分気に入っていただけたはず!!





「んふ、美味しい?」


「すごく、美味い」



うーん、もっと溺れるぐらいのませてあげたい。

でも、もう終わりか。また松村君とカラオケ行きたいなあ。








「出よっか、次はゲーセン行こ行こ!」





カラオケをでて、私たちは歩いて行ける距離のゲームセンターへと移動する。

何しよう?松村君マリオカートとか得意かな。







「_ねえ、マリカしよ!!」



「操作はどうやるんだ?」



「簡単だよ、足でアクセルとブレーキを使って、手でハンドル握るだけ!あ、アイテムゲットしたら中央のボタン押すんだよ」



「大体わかった」




え、すご。

絶対意味がわからないとか言われると予想してた。完全に外れちゃった。

そして、コインを入れてマリオカートを開始する。松村君も私もアイコンを作るところでめちゃくちゃブサイクになってしまって、笑いが止まらない。




「あははっ、だれ?っははっ!」



「…顔が凄い歪むな」



ついにレース準備。


1 、2、はいここでアクセル踏む!3



_開始!


どうやら松村君はスタートダッシュが失敗し、最下位になっていた。これは勝ち確なんじゃない?と、余裕こいて進んでいたらいつの間にか松村君が私の背後に居た。


落ちついて私!ここで道を失敗しなかったら勝ち!!ゴールは目の前なんだから。

しかしそう上手くはいかない。後ろから赤甲羅を投げられた。


赤甲羅って…上位じゃ手に入らないやつ…。

てことは私を確実に倒すために中盤ぐらいから保持してたってこと。

なんてやつなの松村玲…!!



うう、ゴール間近だったのに…初心者に敗北しちゃった。







「つ、次は太鼓しよ!ミスした方が負けね!」



「これは知ってるぞ、青で横を叩いて赤は真ん中だろ」



「あってる〜〜!」



二人で普通を選んで、ノーミスでやった方が勝ちというルールを決めたんだけど。



「間違えた」


松村君は手が滑ったのか、画面が動くのがワンテンポ早かったのか、難しいを選択していた。かわいそうに…初心者には難しいは目がついてこなくてノーミスなんて出来るわけがない。つまり、私の勝ち!!


「意外と簡単だったな」


「ソウダネ…」


普通ですらノーミスできなかったのに隣の彼は難しいをノーミスでクリアしていた。

ボロ負けだ!!






_この後もシューティングゲームやゾンビゲーム、ミニゲームでポイントを稼ぐゲームなどなど色々行ったけれど私が勝ったのはダンスゲームだけだった。これだけはボロ勝ち、それ意外はボロ負け…うん、いい勝負だった。





「松村君強すぎない?ゲーマーも目指せるでしょ」


「蜂山さんこそダンサーになれるんじゃないか」


「…ありがと」







今の時間が気になり、スマホをパッと見るともう6時になっていた。楽しい時間が過ぎるってのは、早過ぎる!もう帰らなきゃいけない時間になるなんて。



「帰るか」


「そうだね…、んね、松村君今日楽しかった?」



_これだけが気になる。私はちゃんと君を楽しませることが出来たかな。




「……これが楽しい、というのかは分からないが、まだ遊んでいたいと思ってしまう」



「ッ、私も、遊び足んないよ」



「本当か?なら、……今度は俺から誘うよ。」



「ぇ、…」



「じゃあ、」



「あ!っうん…またね!!」



電車に乗るために渋谷駅へと向かっていく彼に大きく手を振る。

そして、見えなくなるまで目で追い続けた。



また遊んでくれるんだ。

しかも、あっちからただ遊ぶという理由だけで誘ってくれるんだ。




松村君の後ろ姿が見えなくなったのを確認した後、私はへなぁと地面座り込む。


自意識過剰かもしれないけど、松村君はそんな事全然考えてなかったかもしれないけど。



「それって、デートのお誘いしてくれるってこと…?」



あー…、顔今めっちゃ赤いかも。

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