⑤帰宅編
「今日も疲れたねー!」
「その割には楽しそうだね、幼馴染ちゃん」
「だって午後の授業サボれたもん!」
「臆面もなく言い切る幼馴染ちゃんの顔はこの夕焼けくらい鮮やかに見えるよ」
「え~私のこと眩しくて見えないくらい好きだって~?」
「まあ、そうだね」
「……あ、ありがとう」
「ウザ絡みするくせに直球投げ返されると弱いところ、僕は好きだよ」
~ ~ ~
「恋人と一緒に下校中にやってみたいことー! いえ~い!」
「二人乗り」
「手繋ぎ!」
「恋人イヤホン」
「ブルートゥースが主流になってから味気なくなっちゃった」
「テンションに流されず冷静に切り返せる判断能力はさすがだね、幼馴染ちゃん」
~ ~ ~
「あ、待って! 夜ご飯の材料買いたいからスーパー寄ってもいい?」
「などと既に自宅の目の前に来た段階で言われても困る僕だった」
「夢だったの! 女房面系彼女!」
「じゃあまずは基本的な包丁の扱いから覚えようか」
「どんと来いだよ!」
「そうやってあっさり魔剣を構えちゃうから僕が意地でも毎日お弁当作ってるっていうことにいい加減気付いてほしいんだ」
~ ~ ~
「やればできる! 私だって料理くらいできるもん!」
「根拠は?」
「捌くのは得意だよ!」
「悪をね、とかいう落ちだったら夜ご飯抜きだよ」
「……で、デザートは夜ご飯に」
「入るよ」
~ ~ ~
「ばいばい。ちゅ、ちゅ」
「わ~、見て見て僕くん! あのカップルチュッチュしてるよ、チュッチュ!」
「当然のように指の間から盗み見ないの、はしたないよ幼馴染ちゃん」
「道端で堂々とチュッチュしてる方がはしたなくないかな?」
「どうしよう珍しく真っ当なツッコミが入って返答に困る」
~ ~ ~
「チュッチュで思い出したんだけどさ」
「あ、今朝行ってきますのチュッチュ忘れたことかな?」
「そんな有頂天夫婦みたいな習慣僕たちにはないでしょ」
「くすん」
「キスのこと、何て呼ぶのが一番メジャーなのかなって」
「え~、それはチュッチュでしょ?」
「頭砂糖菓子かよ幼馴染ちゃん。さすがにキスじゃないかな」
「お魚さんと間違えちゃうじゃん!」
「だったらそっちこそ鳥のさえずりと一緒だよ?」
「僕の反論否定したいからって野鳥素手で掴んで鳴管圧迫して鳴き声に細工しようとするのはやめてあげて」
~ ~ ~
「む~! 文句ばっかり言う僕くん嫌い!」
「そう」
「……」
「……」
「わ~ん! やっぱりすきぃ!」
「幼馴染ちゃんのちょろいところ、僕も好きだよ」
~ ~ ~
「並んで歩いてるとさ、ふと無言になる時があるんだけど、そういう時って何か喋らないとみたいな強迫観念に支配されちゃうんだ」
「つまんない小心者的な心理だよね~! 人間っておろか~!」
「それは人間やめちゃった人の台詞だよ幼馴染ちゃん」
「え~だって私人間じゃないよ~?」
「僕の幼馴染ちゃんがいつの間にか人じゃなくなっていた件」
「僕くんだけのラブドール♡」
「頭の中がお花畑になってることだけは理解した」
~ ~ ~
「ふふ~ん! あははんは~♪ ぐふふふふふふ♪」
「最後邪神みたいな笑い方してるとこだけは気になるけど上機嫌だね、幼馴染ちゃん」
「だって楽しいんだもん、僕くんと二人で下校!」
「僕も幼馴染ちゃんと一緒で飽きないよ」
「……ずっと、この時間が続けばいいのになー」
「幼馴染ちゃん?」
「僕くん。――もし私がいなくなっても、今日のこと忘れちゃ嫌だよ」
「え、それって」
~ 翌朝 ~
「おはよー僕くん! 学校行こー!」
「昨日のやり取り何だったのさ」
「昨日?」
「忘れるなと人に強制した奴に限ってすぐ忘れる現象に名前を付けたい」
「いひゃいいひゃい! ろーひてつねるの~!」
「はぁ。幼馴染ちゃん」
「な、なあに?」
「僕の前から勝手にいなくならないこと」
「どうして~?」
「それは……」
「うん」
「学校行くよ」
「え~~~! 気になるよ~!」
(一生教えてやらないよ、と心に誓う僕だった)
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