第095話・現在のグロリアス王国について知りました


 ◇◇◇


「此度の新年の儀には、新進気鋭の大英雄を招いておる。そら、こちらに来るがよい。皆の衆、この二人が結界同盟の……!」




 ◇◇◇


 とかなんとか、はちゃめちゃにたくさんの人が来ていた新年の儀とやらがつつがなく終了して三日たちました。


 いや、ねぇ。


 あんまりにも人が多すぎるし、皆さん騒ぎすぎだし、お偉いさんがたくさんいるしだしで、ちょっと脳ミソが疲労困憊になっちゃってまして。


 新年の儀が終わってから、昨日の夕方ごろまで泥のように寝てしまっていました。


 一応、皇帝陛下にもお会いしましたし、帝国有数の大貴族様たち(ブライト辺境伯と同等かそれ以上に偉い人たちみたいです)にもお会いしましたし、なんならそれとなく帝国貴族家のご令嬢様方からアプローチを受けたりもしましたが。


 まぁ、ハローチェお嬢様のいない状況でそんな話をされても困るわけで。


 それぞれ丁重にお断りをしたうえ、ついでに女神様の布教活動をしたりしました(約一名、こっちが引くぐらい食いついてきたお方もいましたが、まぁそれはそれ)。


 あと、新年の儀の最中に僕の探知結界範囲内で不審な動きをしていた方数名についてお城の警備兵さんとか近衛騎士さんとかにそれとなくお伝えしたところ、なんか外国の密偵さんとかだったりが捕えられたりもしたらしいですが。


 それはそれとして全体的には大過なく新年の儀を終えることができました。いぇい。


 ただ、どうにも僕、寝ている間ずっと右手の親指を赤ちゃんみたいに吸ってしまっていた(イェルン姉さんが可愛いかわいい言いながらずっと見ていたみたいです)ようで、それを見たメラミちゃんに起き抜け早々バカにされたりもしつつ。


 夕方に起きてお風呂入って晩ご飯食べて簡易女神様像に祈りを捧げてもう一度寝て起きて女神様像に祈りを捧げて朝ご飯を食べて服を着替えて身だしなみを整えてからホテルを出ました。


 ホテルを出るとホテルのすぐ前の大通りに大きな馬車が停まっていて、それに乗り込むとカポカポと今日の目的地に連れていってくれます。


 今日の同行者は、イェルン姉さんとミーシャ姉さん、それにどうしてもついて行きたいと言っていたロビンちゃん。


 それというのもこの馬車の行き先は、最上高等教育学校という帝国最大の教育機関なのです。


 そうです。

 つまり、お嬢様たちの手がかりを持っているかもしれない方に、お話を聞きにいくのです。




 ◇◇◇


 新年早々につき長期休暇期間中であるにもかかわらず、学校内の教員用宿泊棟にずっと寝泊まりしていたお爺さん教授(この学校一の知識人にして、なかなかの変人として有名な方らしいです)にお会いすることができ、しばらくの雑談のあと本題に入りました。


 すると。


「グロリアス王国じゃと? ふむ、どこかで聞いたことがあるのう……」


「っ!! ほんとうですか!?」


 なんと、この国に来て初めて、グロリアス王国の名前に聞き覚えがあるという回答が!


 さらにさらに。


「ペルセウス共和国に、ワーフー諸島連合国か。それなら場所も分かるぞ。どれ、簡単に書いてやろう」


 と言って、大きな白紙とペンを用意し、さらりさらりと簡単な地図を書いてくれます。


「この、横に三つ並んだ楕円は大陸じゃ。大陸というのは大地のことで……、ん、分かるか、なら良い。左の大陸の右半分ほどが帝国とその他いくつかの国の土地となっておる。左半分はいまだ未開の地じゃな」


 それから教授は、真ん中の楕円の右端のあたりを斜線で塗りつぶし、真ん中の楕円と右の楕円の間に小さな点をいくつか打ちました。


「この斜線のあたりがペルセウス共和国。この小さな点々は、ワーフー諸島連合国。距離や大きさは考えないものとして、おおまかな位置関係はこうなっておる」


 なるほどなるほど。

 分かりました。


「それなら、この辺りに大きな森があって、その北のほうにグロリアス王国があるはずですね」


 僕が、位置関係を思い出しながら確認の意味を込めて言うと、教授は「ああ、そうじゃったか……」と呟きました。


「ちょっと待っておれ。資料となる本を出してこよう」


 そう言い残して書庫に行き、しばらく待っていると教授は古めかしい本を持って帰ってきました。


「どこかで聞いた国名じゃと思っていたが、この本に記述があったんじゃ。これは、隣の大陸で書かれたとある国の歴史をまとめた本なんじゃがな。その中の一節に……、ほら、これじゃ」


 そう言って開かれた本のページには、衝撃的なことが書かれていました。


 本の筆者に曰く。


「大陸東部国家群が血で血を洗う大戦乱に陥って二十年がたった。初めに、次いでハロンバー王国が滅びた。いまだ戦火の消える兆しはない。我が国にも治安の悪化や物価の高騰といった悪影響が出ている。このままではいけない……」


 とのことで。



 ……え、つまり……?



「この本は、今からおよそ百八十年前に書かれたものらしいが。それすなわち、今からもう、グロリアス王国はおるということじゃ」




 ◇◇◇


「な、ナナシちゃん大丈夫? 顔が真っ白になってるけど……?」


 イェルン姉さんの心配そうな声で、僕は意識の焦点が戻ってきたのを感じました。


 ……いけません。あまりに衝撃的な話に、思わず意識が飛びかけていました。


「……教授。グロリアス王国がとっくの昔に滅びているというのは、事実なのですね?」


 教授は頷きます。


「なにかその、もう少し具体的な話はご存知ですか? たとえばなぜ全面戦争になったのか、とか」


「そうじゃのう……。断片的な記述を読み解くに、このグロリアス王国を含めたいくつかの国々は、長年交流を深め、王侯貴族同士の血縁関係作りも盛んに行っておったようじゃが……、どうにも、そのうちのいずれかの国にダンジョンができたようじゃ」


 ダンジョンというと、あのツノ付きの悪魔が作っていた、あれですか?


「ダンジョン探索による利権、ダンジョン氾濫による脅威……、まぁ、それだけではなく、王家の後継問題が起きた国や、飢饉、疫病の発生など、その他にも様々な要因が絡み合って国家間の緊張が高まり、ひとたび戦端がひらけば、あとは坂を転げ落ちるようにして戦火が広がり泥沼の全面戦争になった、と。おそらくはこんなところかのぅ」


 まぁ、歴史を紐解けばわりとよくあることじゃ。

 と教授は言います。


「……ナナシ様。たしか、ナナシ様の話では、ナナシ様の大事な方がグロリアス王国の出身で、だからグロリアス王国について調べているということでしたよね?」


 ミーシャ姉さんが、少しだけ緊張した表情で言いました。


「ですが、そのグロリアス王国はすでに滅んだ国だという……。これはいったい、どういったことなのでしょうか……?」


「……そう、ですね」


 僕はあらためて教授に向き合いました。


「教授。少しだけ僕の話を聞いていただけますか? そのうえで、あらためて貴方の意見を聞きたいです」


 よかろう、と頷いた教授に僕は、僕がこの国に来るまでの経緯を説明したのでした。



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