そば代

「ごちそうさま。お代はいくらだい」

「そば一杯で十六文だよ」

「そうかい。じゃあ、間違えないように一緒に数えちゃくれないか。ひい、ふう――」

「おっと、その手は食わないよ。落語じゃあないんだ」


「はい、百万両。釣りはいらねぇよ」

「大坂人みたいな冗談言ってるんじゃないよ。どう見ても小判じゃなくて一文銭じゃあないか」


「えーっと、そば一杯で十六文はちと高いんじゃあないかい。半値にしてくんな」

「そんな印度インド式値下げ交渉が通用すると思ってんのかい」


「いやあ、払いたい気持ちは山々なんだがね……、その……諭吉が家出しちまってな?」

「友だちみたいに言ってんじゃないよ。そもそも時代錯誤だよ」


 店主は呆れ顔でこう続けた。

「払えないってんならこの店で働いていきな。制服に着替える前に着てるもん全部脱いで金属類も外すんだ。香水と塩をよくもみ込むのも忘れるんじゃあないよ」


 なんだか嫌な予感がする。俺が迷いこんだのは時そばの世界じゃなかったのか?


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