第3話
「ノアよ、ご近所デビューをしようか。」
常日頃から本を読み漁る俺に対して、父はそう言った。
まあ、確かに直立歩行もできるようになったし、もちろん言葉も話せるようになった。
言語理解も数ヶ月の独学でかなり上達し、今では簡単な単語や短文なら読めるようになっている。
「いい
「うん、良い返事だ。自分で歩いて行くか?」
「そうしま
歯が生えかけなのと、舌の筋肉が未発達なせいで、どうしても口がまめらない。
ただ、意志疎通には問題が無いので、そこは妥協しておこう。
自分で歩くと主張したのも、歩く練習のためだ。
漫然とただ歩くだけの生活をすれば、必要最低限の筋肉しか着かない。身長を獲得するためにも、今から適度な運動を心がけておきたいのだ。
となれば、ご近所デビューは必須。
野山を駆け回る良い口実となる。
楽しみだ。
◇◆◇
「かひゅー、こひゅー」
「ははは、随分と息が上がった様だな!」
体力には勝てなかったよ。
どうやらステータスに記載されているHPと実際の体力は連動しているようで、今現在の俺のHPは半分を切っていた。
「も、もうむり」
「そうか、じゃあオレがおぶってやろう」
父は俺を軽々と持ち上げ、そのまま道を歩いて行った。
「しかし、ノアは随分と本が好きなんだな。オレにはあれがなんて書いてあるのかすらわからないぞ?」
「そうなん
「ああ、文字が読めるのは学校に通っている金持ちどもだけだ。それなのに、そんな小さいうちから文字が読めるなんて、ノアは天才かもしれないなぁ。」
いいえ、転載です。
違った。
とはいえ、既に人生を十数年過ごしている人間が赤ん坊から始まったら、そりゃ成長も早くなる。
それでも、体は赤子だから、碌な散歩もできやしない。
「我が家が貧乏ですまんなぁ。お前にも学校に行かせてやりたかったんだが。」
「いい
興味は無い。
強くなる分には努力も試行錯誤も惜しむ気は無いが、学校に行くなんて意味の無い事はしない。
『死ねよ機械人間』
『人間様に逆らうなよ』
興味は無い。
俺はこの世界で最速の最強を目指すんだ。
「お、ほらノア、デイジーさんの家だぞ。ハクビちゃんもいる。」
名前は聞いた事がある。
たしか、父親が東洋の国出身で、その名前の特徴を継いだのがハクビちゃんだとか。
母親の方の姓を名乗っているのは何故か知らないが、一番近くのご近所さんだそうだ。
「あー!オドロンさんだー!」
「あははー、ハクビちゃん。オレの名前はオドトンだ。こっちは息子のノア。仲良くしてやってくれ。」
「ノアー、よろしくなー!」
「よろしくねー」
元気に挨拶してくるハクビに、俺も同じ様に返す。
ふむ、しかし、この世界の称号の中には、一方を手に入れていると一方が習得不可能なものが存在するらしい。
その中の象徴的なもので、【聖女】と【売女】は絶対に両立しないのだとか。
それはそうだ、純潔の象徴である聖女と、淫らの象徴である売女は同居しない。
そういった様な称号を取捨選択するには、まず効果を知らないといけないのだが。
「よし、じゃあノア。オレは今から一仕事行ってくるぜ!デイジーさん、息子の飯は終わりました、夕飯までには戻るので、それまでお願いします!」
なるほど、ご近所デビューとは口実で、デイジーさんの家に俺を預けるために来ていたのか。
「あら、倒れたままだけれど、良いのかしら?」
「生きてるー?」
「生きてるよー」
体力は7まで戻ったが、やはり体がだるい。
ハクビはそんな状態の俺が面白いのか、指でつんつんと突いてくる。
おでんになった気分だ。相手は少女だが。
「大丈夫なのかー?」
心配している様子で俺の顔を覗いてくる。
ふむ、こうして見てみると、ハクビは美少女だ。
ぱっちりとした赤い目に、靡く白い髪の毛。
肌はくすみの無い白色。どうやらアルビノというやつらしい。
ロリコンではないので目の前の幼女に興奮することは無いが、将来的には随分な美女に変身するだろう。
引く手数多となるのは目に見えているな。
「ハクビちゃんかわいいね。」
「んんー?ありがとー?」
まだ自覚が無いのだろう。
この様子だと、まだ恋愛ごとや男女関係も知らないようだ。
やはり両親のうちどちらかがいないうえに、こんな田舎で遊び相手がいないと、そういった事への興味も持たないものなのだろうか。
ふむ、興味深いな。
「よし、じゃあハクビちゃん、なにしてあそぶ?」
「うーん、『けんじゅつごっこ』しようぜ!」
け、けんじゅつごっこ?
なんだか嫌な予感が......
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