異最効率論〜才能が全ての世界で努力する〜

草間保浩

第1話

 俺は効率的な作業が好きだ。

速いという事はそれだけで魅力的で、美しい。

 

 それとは別にゲームも好きだ。

称号や加護を手に入れることによって能力値が倍増する系が更に好きだ。

 付与エンチャントや強化で武器を強くするのも好きだし、RTAリアルタイムアタックはするのも見るのも好きだ。


 まあ、なんの特別性も無い、ただのゲームオタクだと思ってくれ。


 そんな俺が、何故自分語りなんていうクソ痛い事をしてしまったかと言うと、今俺の置かれている状況のせいだろう。


『それで、心の整理はつきましたか?』

「いや、整理は最初からついていた。ただ、なんとなくやるべきことがあったからやっただけだ。」

『ぼくも何人かの人間を見て来たけど、ここまで意味不明なのは中々居ないよ。』


 真っ白な空間、と言うべきだろう。

部屋だと不自然だし、世界だと大きい。

 俺の目の前には、目を奪われる様な美女と、よく分からない全身包帯の男が立っていた。


「順当に行けば神様なんだろうけど、どちらともに思い当たりが無い。」

『えー、私は恋する女神パルエラ。』

『ぼくは全ての神......名前はまだ無い。』


 猫の様な事を言う包帯男と、パルエラと名乗った女性。

 包帯男は中二病を拗らせ過ぎたのか。

とはいえ全身に色々閉じ込めているんだろう。


「んー、むしろ無くなり過ぎて巻いてるからね。君の言う邪眼?とかいうのがいわゆる神に当たる。」


 どうやら心も読めているようだ。

しかし、二人の姿は対照的で、かなり特徴的だ。


 包帯男はそのまま、全身に包帯を巻いており、目も耳も口も鼻も塞がっている。

ボクシンググローブでも嵌めていたら完璧だっただろう。


 一方美女の方は、名前の通りに真珠色の長髪と、エメラルド色の瞳を持っている。

いや、別に名前通りではないのかもしれない。ただ、直感でそう思った。

 年齢で言えば、十代後半から二十代前半あたりだろう。


「恋の女神?キューピットの様な存在か?」

『違う違う。恋する・・女神、私はアナタに恋してるの。』


 ほう、告白を受けたのは生まれて初めてだ。

小中高、異性との関わりなんて持った事が無いので、こういった場合にどう反応すればいいかが分からない。

 

「まずは友達から始めようか。」

『―――ッ!!!?振られたッ!!』


 おいおい、まさか泣くなんて思って無かった。

パルエラは、その長い髪をバサバサに振り、その場にへたり込んでしまった。


『泣ーかしたー泣ーかしたー。先生に言ってやろー』


 包帯男にからかわれる。

話が進展しないじゃないか。


「結局、俺は何故こんな状況に置かれているんだ?」

『うーん。まずは先に、君の死亡について話そう。君はとある事件に巻き込まれた結果、銃弾が脳天を貫いて死亡してしまったわけだ。そこまではOK?』

「ああ、鮮明に覚えている。銀行強盗の様な覆面達に襲われた結果、何故かそいつらに殴り掛かった青年に向かって撃たれたはずの銃が俺に当たったんだろう?」


 義憤に駆られたのか知らないが、随分と困ったことをしてくれたものだ。

死んでしまった俺としてはハタ迷惑な行為だったのだが、言っても後の祭り、青年に弾は当たっていなかったという最後の記憶があるし、気にしない様にしよう。


『でも、神に見初められた君は、こうして転生の機会を手に入れた訳だ。ただし条件付きでね。』

「転生先については聞きたいが、先に条件を聞こう。」

『うん。条件は概ね三つ。一つは四六時中、彼女の監視下に置かれること。』


 そう言って包帯男はパルエラを指差す。

ふむ、プライバシーを侵害する許可か。構わないだろう、見られて困る事がある訳でもないし。


『二つ目は、君には一切の特典を与える事が出来ない。ぼく達の加護を与えるが、それはあくまで能力に関係しない物でしかない。これについてはテンプレートではなくてすまないと思っている。』

「別に気にする事じゃない。チートを使って強くなっても面白くないのでな。無敵チートなんて子供キッズのやることだ。」


 まして、これから転生する先がどれほどの世界なのかは知らないが、日本に近くてもファンタジーでもSFでも、チートなんて物を持っていたら絶対に面白くない。

 多少、ちやほやされるであろう事は予想できるが、それだけに他人から恨まれ易くなるし、何より他人を軽んじる行為が耐えがたい。


「最後はなんだ?」

『最後は、二つ目と相まって酷いとは思っているが、何か一つだけで良い。偉業を達成してほしい。革命や発展、なんでも良い。英雄になる事でも叡智を修めることでもなんでも。神になれる器を作って欲しいんだ。』


 神の器か。それこそ、人間の偉業なんて神の所業には到底追い付かないだろう。

それなのに、そう条件を出すのには、それなりの理由があるのだろうし、そうするメリットもある筈だ。

 まあ、神のみぞ知るという事で、置いておこう


 見れば、泣き崩れていたパルエラは復活し、何故かキラキラとした瞳で俺を見て来る。


ふむ、どうやら条件を呑む事を期待されているようだ。


「それで構わない。条件を呑もう。それで、俺はどんな世界に転生するんだ?」

『ありがとう。それにしても、最近の日本人は皆異世界に行きたがるね。地球に転生する気があるのは数人程度だ。そして、やはり例の如くファンタジー世界だよ。』


 それは良い。

もう一度地球と言われても受け入れただろうが、やはり別の世界も捨てがたい。


『ステータス。と言ったら分かるんだっけ?主にHP、筋力、魔力、敏捷、忍耐、知力、幸運の七つがある。HPは自身の生命力を、筋力はその体が出せる膂力を、魔力は大気中に溢れるマナを体内に取り込める容量を、敏捷はその活動速度を、忍耐は苦痛に対しての耐性を、知力は魔力を練る効率を、幸運は自身の運命に対する好転を表す。』

「把握した」

『うん。そこに更に、適性魔法属性と、加護、称号が組み合わさる。』

「やはり魔法が使える訳だな。」

『そうだね。君の適性についてはぼくから教えられるから言っておくけど、無属性だね。超能力みたいなことが出来る属性だ。けど、その特異性から、無能力と勘違いされ易い。』


 ライトノベルだと良く有る設定だな。

その辺りは勉強済みだ。


「ちなみに、加護と言った物によって能力値が上がる事はあるのか?」

『あるよ。むしろぼく達がフライング防止の為に能力を抑制しているだけだね。』

「加護を通して会話などはできるのか?」

『できるよ。問題無く。』




 それから俺は、いくつかの質問を包帯男にした。

準備は万全に、用意周到に。

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