04
午後になれば、雨は弱くなり、風も随分と収まってきた。
そうなれば、行うのは、被害状況の確認と修繕だ。
「朝から肉体労働ばっかァ~~!!」
「文句言うな。畑の修繕なだけマシだろ」
セーフ区画とはいえ、人を襲う変異種はいるし、駐屯地の周りには柵が用意されている。
それが壊れていないかを点検する部隊に、周囲の森を捜索し、地形や変異種の分布の変化を確認する部隊も編制されている。
柵内部で、畑や建物の修繕に当たれるのは、比較的安全で運がいいと言えた。
「土のついたのは弾けよ。そこから腐るから」
「はぁーい」
ヴェノリュシオンたちのおかげで、肉についての食料事情はずいぶん良くなった。
植物に関しては、ヴェノリュシオンたちにとっても、発見は時の運が大きく、安定はしない。特に、穀物は畑が頼りだ。
随分と倒れてしまっている稲に、今年の収穫量は大きく下がることが容易に想像ができてしまう。
「日本酒……」
「おまっ……この米で酒作ったら、マジで殺されるぞ」
「それはさすがにわかってる」
品種改良というより、遺伝子変異によって、環境に適応し、少ない株でも多くの実をつけるようになった現代の米は、以前のものに比べれば、ずっと味が落ちているという。
だが、この変異のおかげで、居住区に収まりきらなかった人間が助かった。
その一本で箒が作れそうな稲穂をつける稲ですら、食糧不足を解消するには足りない。そんな貴重な米で日本酒など作ってみろ。ただ殺してくれるだけでも優しい。
「…………」
選定されていく稲たちを眺めていれば、遠くから聞こえる場違いな声。
その声に、選定していた兵士たちも口を閉じ、その声の方へ静かに耳を傾けていた。
「…………Gじゃん! 今ヒマ!? ヒマだよねぇ? 手伝ってぇ!!」
楸は、その声の方へ手を振ると、駆け寄り、抱き着いた。
「もう朝から荷物運びだの、土運びだの、チョー疲れたぁ!! いいでしょぉ?」
「えぇ……俺、これから狩りだし、ムリだよ。あとで手伝うから」
楸に抱き着かれながら、G45も慣れた様子で、後でと返す。
楸と出会ってからというもの、こうして絡まれることにも慣れてしまった。というか、一日一回どころではないのだ。事あるごとに、「おねがぁ~い」と擦り寄ってくるのだ。この男。
「マジでぇ? 男に二言はなしだからな!?」
「別に言わないよ。重いの残しといてくれたらやるよ」
「おっとこまえ……キュンです」
「ハ?」
言っていることは理解できないことが多いし、正直G45以外に同じ態度を取ったのなら、殴られる覚悟は必要だろうが、彼らが外に出てくることも少なく、楸は絡んだことが無かった。
だが、今日は狩りに行くというだけあり、他のヴェノリュシオンたちも一緒らしい。
その中には、今朝あったP03とS08もいた。
「Pちゃんも朝ぶり~ちゃんと靴履いてきたんだねぇ。似合ってるよ」
「ありがとー」
噂に聞いたヴェノリュシオンは5人。
目の前にいる5人がそうなのだろう。全員、まだ小さな子供だ。それが、毎日のように積み上げられている変異種の山を狩ってきている張本人たちなどと、誰が想像するというのか。
「足元悪いだろうから、気を付けなよ」
「心配してくれるの? ありがとう」
微笑むP03は、ふと引っ張られる袖に振り返れば、O12が袖を引いていた。
「アホが
はっきりと告げられた言葉に、三人はその意味を理解するまで同じように瞬きを繰り返すと、ふたりが同時に叫んだ。
「誰がアホだ!?」
「オブラートに包めよ!?」
事前に耳を塞いでいたS08が、それでもうるさそうに眉を潜め、T19が呆れたように明後日の方向へ目をやった。
「はいはい。終わりだ終わり。今日は、周辺調査もあるから、いつもより時間ないって言っただろ。喧嘩はやめてくれ」
いまだにO12に文句を言い続けているG45の首根っこを掴みつつ、楸にも戻るように命令すると、未だにO12に飛び掛かろうとしているG45を引きずるように森の方へ歩いて行った。
「お前、よく自分から行けるな」
作業に戻れば、心配をしているのか、気味が悪いのか、視線を逸らしたままかけられる言葉。
「牧野軍曹は、わりとフレンドリーな方だと思うけど……え、何? 苦手なの? 仲介してやろっか?」
「ちげーよ! ヴェノリュシオンたちの方だよ!」
わかってて言ってるだろ。と、呆れるような視線を向けられるが、楸は笑いながら手を振った。
「お前ら、Gに色々手伝ってもらってんじゃん」
「それは、Gだけだろ」
G45以外のヴェノリュシオンたちとは会話をしたことはないし、遠巻きに見たことがある程度だ。
「まぁ、俺もG以外とは今日会ったばっかだけどなぁ」
しかも、P03以外は名前も知らない。
「んーでも、まぁ、なんつーか、そんなに俺らと変わらないように見えるんだよなぁ」
友達にちょっかいをかけては喧嘩して、自分の主張が正しいと思って突き進んで大人に怒られて、自分たちと何も変わらない。
楸は、目の前にある実りかけの稲穂を見つめながら、そう呟いた。
「楸、お前……そんないい感じのこと言っていいのか……? 死亡フラグっぽいぞ」
「ちょぉっ……!? 縁起でもないこと言うなよ!?」
冗談だと笑う仲間に、口を尖らせながら楸が文句を言っていれば、遠くから呼ぶ声に目を向ければ、召集の声だった。
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