アデライド様現る
あれから5年が過ぎ私は10歳になった。
ウィル様は着々と復讐の種まきをしている。
私はまだモヤモヤしたままだが、王子妃教育が終わり王太子妃教育が始まっている。
今日も王太子妃教育が終わり、控えの間で帰りの馬車を待っている。
「ベルティーユ?」
派手な顔立ちの縦巻きロールの女の子に声をかけられた。
「はい。そうですが」
私が答えると女の子は鼻をフンと鳴らした。
「私は王女よ。忘れたの?」
王女? アデライド様か。ずいぶん感じが変わったからわからなかった。
側妃様と王女は離宮に住んでいたので、今まで年に一度のウィル様の誕生日パーティーくらいでしか顔を合わせたことがなかったのだが、それもここ2年くらいは側妃、王女共に来られてなかったので、しばらくぶりだ。
背が伸びてケバさがなくなっていたので一瞬誰だかわからなかった。
向こうから会いに来たのだろうか? それともたまたまか?
王女は私より2歳年上なのでアカデミーに入学しているはず。
あの頃のように取り巻きの令嬢がいて、ブイブイいわしているのではないのか。
「ちょっと、私は王女なのよ。挨拶しなさいよ。それとも王太子の婚約者の方が偉いっていうの!」
王女は怒っているようだがあの頃のような迫力はない。
「申し訳ございません。王女殿下の美しさに見惚れておりました。ベルティーユでございます。お会いできて光栄です」
カーテシーもしてみた。
「アデライドよ。友達になってあげてもいいわよ」
は? 友達? しかも名前で呼べと言うのか。
王女はちょっと悲しげな顔をした。
「あなたも私には価値がないと思っているのね」
は? 価値?
「仰っている意味がわかりませんが」
私の言葉に王女は目を伏せ話しだした。
「小さい頃はみんながチヤホヤしてくれたわ。でも最近、お祖父様の身体の具合いが悪くなってからみんな私を避けるのよ」
お祖父様? あぁ、グリーデン公爵か。
「公爵閣下はお身体の具合いがよくないのですか?」
「そうなの。原因がよくわからないらしくて、寝たり起きたりなの」
原因がわからず寝たり起きたりって、前の世界のウィル様の症状じゃない?
まさかウィル様、盛った?
色々想像を巡らす私をよそに王女は話を続ける。
「お母様もお父様があまり会いに来てくれないからイライラしてヒステリーを起こして侍女やメイドに当たり散らしているし、なんだか離宮にいるのが嫌になって王宮にきたら、あなたを見つけたの。なんだかあなたと一緒にいたらまたみんながチヤホヤしてくれそうな気がするのよ」
ん? 王女ってこんなキャラだったの? 前の世界の王女と全然違うじゃない。
「私は別にチヤホヤなんてされていませんわ」
「だって、私の婚約者のジェフリー様と仲良いし、ヒューイ殿下とも仲良いし、もちろんお兄様とも仲良いし、女の子のお友達もいるじゃない。私は誰もいないわ」
羨ましいのか?
「ジェフリー様とはうまくいってないのですか?」
「ジェフリー様は私の事が嫌いなのよ。王命で嫌々婚約者になったの。本当はあなたと婚約したかったみたいだってメイド達が噂してたわ」
はぁ~?
メイド達よ、何言ってるんだ?
二股男なんでごめんだわ。
「私とジェフリー様は領地が隣同士の幼馴染なんです。それだけです。それに私は殿下の婚約者です。ジェフリー様とどうこうなるわけがありません」
王女は泣きそうな顔をしている。
「小さい頃は侍女やメイドや周りの人にお母様と同じような態度をするのが当たり前だと思っていたの。だからそうしていたら周りから人がいなくなっちゃって。今ではお母様を見ていて間違いだったって思っているんだけど、みんな私は我儘で傲慢だと思ってるから、もうどうしようもなくて」
アデライド様はため息をつく。私はどうしていいのかわからず、とりあえず聞き役に徹する。
「それでもお祖父様が元気な時は私に取り入ろうとする人も沢山いたけど、今は誰も相手にしてくれないわ。関わり合いになりたくないの。お茶会に出ても目を合わせないようにしているのよ。ベルティーユ様、私を助けて。お母様みたいになりたくないの! お願い」
いやいや。急にそんなこと言われても。
でも王女は反面教師の側妃を見て学んだんだな。
前の世界はふたりとも傲慢で我儘で自分勝手でそっくりだったものね。
「わかりました。お友達になりましょう」
私の言葉にアデライド様は嬉しそうに微笑む。
「ありがとう。うれしいわ。私ね、お母様があんなだから王女教育もまともに受けさせてもらえないの。そんなことしなくてもいいって。小さい頃は信じて何もしなかったけど、アカデミーに入って、私は男爵令嬢くらいのマナーしかできないことがわかって恥ずかしいの。ねぇ、私に色々教えて。ベルティーユ様は王子妃教育終わってるからできるわよね?」
危機感を感じているのね。側妃は元は男爵令嬢だもの。側妃になってからも何も努力はしていないはず。
陛下の心が側妃にある時はそれもよかったのだろうけど、陛下の寵愛が消え、グリーデン公爵も力を落としている今、側妃の場所はないに等しい。
アデライド様がやる気を出すのは良いことだと思う。でも私の一存では即答できないわね。
「それに関してはウィル様に相談してみますわ。きっとアデライド様の気持ちを知ったら王妃様も悪いようにはしないと思います」
アデライド様は感極まったような顔で私の手を握る。
「ベルティーユ様、ありがとう」
迎えの馬車が着いたと知らせが来た。
「では、ベルティーユ様、またね。今度はふたりでお茶会をしましょうね。離宮はだめね。お母様にバレないところがいいわ。考えておくわね」
「はい。では、また。」
はぁ~っ。
わけがわからんよ。
とにかくウィル様に伝えておこう。
私は魔法伝書をウィル様に送り、家路を急いだ。
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