まさかの

 

*かなり長くなってしまいました。

回帰前最後です*



 気がつくと私はふわふわ浮いていた。下に見えるのは血を吐いて倒れている私か?


 母とエリーゼが縋り付いて泣いている。

医師と父が飛んできた。


「ベル! ベル!」


 父は叫んでいる。


 私の手首や目や頸動脈を見ていた医師は首を振った。


 死んだんだな。そりゃそうだろう。だって上から見てるもん。


「菓子を持ってきた騎士を呼べ!」


 父は魔王のような顔で侍女に告げている。


 そうだ、私はジェフリー様からいただいたお菓子に入っていた毒で死んだのよね。


「セバス、この菓子に入っている毒を調べてくれ、そしてジェフリー殿とノバック公爵連絡してくれ」


 家令のセバスは頼りになる。


 それにしてもチョコレートに毒なんて。


「旦那様、あの騎士が見当たらないのです。他の騎士に聞いてみたのですが、ノバック家から派遣された騎士は全ているそうです。あの騎士はいったい……」


 侍女は真っ青な顔をしている。



 私にチョコレートを届けた騎士はジェフリー様の家の騎士じゃない?


 まさか、王女の手のモノ?


「旦那様、ノバック公爵がお見えです」


 セバスと一緒に公爵閣下が慌てた様子で現れた。


「ヘンドリック! ベルちゃんは?」


 父は首を振った。


 公爵閣下はなぜか膝から崩れ落ちた。


「屋敷内なら安全だと思ったのに」


「騎士に化けて毒入りの菓子をジェフリー殿からだと持ってきたようだ」


「申し訳ない。こんな事になるとは」


「こんな事なら早く留学させていればよかった」


 いやいや、そこはこんな事ならもっと早く婚約解消するべきだっただろう。


「ジェフリー殿はまだ殿下の代わりを?」


「あぁ、殿下の容体が悪い。今日明日が山らしい」


 え? 殿下具合いが悪かったの? 


 ジェフリー様は代わりに執務をしていたのか。


「キリク国から来た医師が血液を採取して検査をしたら、やはり毒が出た」


 血液を検査? キリク国はそんなことができるのか? 凄い。


 ということは殿下が身体が弱いと言われていたのは毒を盛られていたからか。小さい時は元気だったものね。


 私は王女に横恋慕されただけだと思っていたが、それだけじゃなく、陰謀があったのか?


 それにしてもお父様、娘が殺されたのに冷静だわね。


「ヘンドリック、大丈夫か?」


「大丈夫なわけがないだろう。娘を殺されたんだぞ。側妃と王女、そしてグリーデン公爵。必ず潰してやる」


 父が握りしめている拳から血が滲み出ている。



「侯爵! 父上!」


 あら、ジェフリー様だわ。


 なんだか顔面蒼白だわね。


「ジェフリー!」


「ベルは? ベルは?」


 父は首を振っている。


 ジェフリー様は私の亡骸に縋り付いて泣いているわ。


「私のせいだ。守ると言っておきながら守れなかった……」


「お前からの差し入れのチョコレートに毒が入っていた」


「私からの? 私は何も……」


 父が顔を上げた。


「騎士に間者が紛れ込んだようだ」


「まさか……」

 

 ジェフリー様は青い顔をしている。



「ジェフリー、殿下は?」


 公爵閣下がジェフリー様の肩を叩いた。


「先程、みまかられました。まだ内密に」


 ジェフリー様が小声で話す。


 殿下亡くなったの? やっぱり毒?



 気配を感じ、横を見ると殿下がいた。


「殿下?」


「ベル、久しぶりだな」


「殿下も魂ですか?」


「あぁ、長年毒を盛られていたようで、さっき死んだんだ。ジェフリーが慌てて出ていったのでついてきたんだ」


「不本意ですよね?」


「あぁ不本意だな」


 殿下と意気投合したようでちょっと嬉しい。




「ウィルヘルム、ベルティーユ。そろそろ行きましょうか?」


 見たことのない白いイメージのおじさんが突然現れ私と殿下を手招きしている。


「あなたはどなたでしょうか?」


 殿下が白いおじさんに聞いている。


「私は神です。あなた達を迎えにきました」


 神? 迎えにきた?


「神だと。神ならなぜ私を殺した。私が死ねば悪が喜ぶだけだ。この国を滅ぼしたいのか! 神のくせに悪の味方をするのか!」


 殿下は激怒している。


「そうよ。神は悪の味方なの? 神は悪なの?」


「あ、悪?」



 神と名乗る白いおじさんは今までそんなに厳しいことを言われたことがないようで狼狽えている。


「一緒に行かないわ。私はこのまま幽霊としてここに残り神の悪口を言いふらしてやるわ。この国を破滅させる為に側妃派に味方して殿下と私を毒殺したってね」


「いや、毒殺したのは私ではない」


「見てみぬふりは共犯も同じだ。神と言えど許すわけにはいかない。私もベルとともにここに残り、幽霊となり。神など信じてはならないと布教してまわろう」


 おぉ、殿下もなかなか言うわね。


 白いおじさんはダメージを受けているようだ。


 私はデスクの上に置かれていたペンを手に取り紙に


“神を信じるな”


“神は私達を毒殺した側妃派の味方だ”


“神はこの国を破滅させようとしている”

と書いた。


 ペンが勝手に動き出し、文字を書き出したのでみんなは驚いて固まっている。


「ベルか? ベルなのか?」


 父が顔を上げた。


 私は紙に◯を書いた。


 殿下はクスクス笑っている。


「私はこのまま側妃と王女のところへ行きます。仕返ししてきますね」


 私は殿下と白いおじさんを見た。


「私も行こう。うんと怖がらせて酷い目に遭わせてやろう」


 殿下はサムズアップをしている。


「ま、待ってくれ。元はと言えばあいつのミスだ。全く尻拭いしている私が何でこんな目に合うんだ。これ以上騒動を起こされては私が処分を受ける。望みは何だ? 望みを聞こう」


 望みか。


 殿下は白いおじさんに詰め寄り襟ぐりを掴んだ。

「ミスとは何だ! ミスなら生き返らせろ!」


「そ、それは無理だ。それに今生き返ったらそれこそ大変だ」


 白いおじさんは明らかに慌てている。


「だったら時を巻き戻してよ。殿下が毒を盛られ始める前まで戻しなさいよ」


「そうだな。私が毒を盛られ始めたのは調べでは9歳だ。9歳まで時を戻してもらおうか」


 殿下も必死のようだ。確かに殿下が国王にならなければこの国は滅ぶだろう。


 王女を傀儡にして、グリーデン公爵が好き勝手したいのだろうがそんな事になったら大変だ。国に為にも殿下をここで死なせるわけにはいかない。


「わかった。元はと言えばふたりともここで死ぬ運命ではなかった。別の神のミスで死期が早まったのだ」

何? それ何? そんなミスが許されるの?


 殿下を見ると明らかにぶち切れている。


 白いおじさんの話によると、おじさんの同僚の神様が間違えて死亡印を押してしまったらしい。バレたら上司に叱られるので、白いおじさんに隠蔽工作の協力をお願いしたらしい。


「そいつをだせ! 成敗してやる!」


 殿下ってこんなに怒る人だったのね。



 白いおじさんは自分だけが責められるのが嫌だったのか、ミスした神様を私達に差し出した。


 殿下はその神様をボコボコにし、上司の元へ引っ張っていき、生き返らせるか時を戻さねば、我々は幽霊となりこの地に残り神の真実を皆に告げる。誰も神など信じなくなるだろうと脅した。


これまでもその神様のミスで沢山の人が寿命とは関係なく亡くなっていたようだ。卑劣な隠蔽工作をするのは人間だけでなかった事にショックを受けた。


神なんて信じちゃダメだわ。

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