第28話 本当の笑顔が見たい
「は? いや、失礼。エルシア嬢、殿下を庇う必要はないんですよ」
クロードを有罪だと決めつけているケインだったが。
「いえ、あの。着衣の乱れもありませんし。わたくしが寝ぼけて殿下にご迷惑をかけただけで……」
シーーーン
沈黙すること、三秒。
「だから、さっきから言っているだろう!」
ようやく訴えを聞いて貰えたクロードである。
「……早とちりでした。殿下がそんな理性をお持ちだったとは夢にも思いませんでした。申し訳ありません」
「あ、ああ」
ケインは頭を下げる。
一方でクロードは、何だか馬鹿にされているようで釈然としないのだった。
ですが、それとは別に。とケインは言う。
「今回の件については箝口令を引きましたが、噂話は止められません。陛下がお戻りになったら、今後について話合ったほうが良いかと」
「……そうだな。迅速な対応に礼を言う」
それだけ話すと、ケインは食器を下げる為に退室した。
二人だけになると、途端にエルシアはどうしていいか分からなくて顔を上げられなくなる。
(……何もなかったはずなのに。あんな話の後だと、無性に恥ずかしいっ)
「エルシア、君の許可なしに昨夜は申し訳なかった。やっぱりまだ体調が優れないか?」
ハッ
「……大丈夫、です」
エルシアは急いで顔を上げ、笑顔を作った。
だがーー。
スッ
隣に座るクロードの手が、エルシアの髪を掻き分け、頬に触れる。
そこだけが熱を持ったみたいに、熱い。
「エルシアの大丈夫は、大丈夫じゃないだろう」
ーー2か月以上、側にいるんだ。
それくらい俺にも分かるんだぞ。
ドキッ
(……真剣な顔)
殿下は心配してくれているのに。
それが、嬉しいだなんて。
ーーこんなにも誰かのことを好きになるなんて不思議。
(婚約破棄された時には、こんな今があるなんて考えられなかったわ)
「あ、ありがとうございます。沢山寝たから、もうスッカリ元気です!」
エルシアは両腕で力こぶを作って、目一杯元気なことを主張する。
(ちょっとワザとらしかったかしら……)
だが、クロードはそんな彼女を見て、余計に心配になったのだった。
ーー本当に? やはり、妙な噂話のことを聞いて心配になっているのだろうか。
それとも王太子妃教育が過酷すぎて、疲れ切っているのだろうか。
どちらにしろ、昨夜の噂話に浮ついている城にエルシア一人を置いて行くのは辞めた方が良いだろう。
そう判断したクロードである。
「……エルシア。今日の王太子妃教育は休みにして、俺と公務に出ないか?」
ーーちょうど、伯爵領の孤児院に行く予定なんだ。
その言葉にエルシアの目が輝く。
「まぁ! 行きたいですわ。ついでに、子供達にクッキーを焼いてもよろしいですか?」
エルシアも授業をサボることに罪悪感はあるものの。
最近は実家にいた時のように孤児院を訪れられなかったため、久しぶりに子供達に会えることが嬉しい。
そんなエルシアは自然に笑う。
「ああ、勿論だ」
ーー可愛いな。
クロードはこの笑顔が大好きだ。
可愛くて愛しくて、堪らなくなる。
「じゃあ、早めに準備しないとな」
そう笑いかけながら、クロードは思う。
例え、彼女の心からカザルスを消し去ることが出来なかったとしても。
ーー俺はエルシアを手放すことなんて、絶対に出来ないだろう
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