第17話 元婚約者との再会
ザワザワザワ
クロードにエスコートされたエルシアが会場に姿を現すと。
貴族たち、主に令嬢たちの間から刺すような視線がエルシアに向けられた。
ーーねぇ? 殿下の婚約者がエルシア様だなんて。信じられませんわ
ーー私もショックで寝込みそう。カザルス様から捨てられたのではなかったの? 不釣り合いにも程があるわ
身の程知らず。殿下を誑かした女狐。
直接こちらに何かを言ってくるわけではない。
だが、エルシアに聞こえるような声で罵倒しておきながら、いざクロードと挨拶に向かうとにこやかに祝いの言葉をかけてくる令嬢達。
(こわい こわい こわい)
なんとか視線を前に、作り笑顔で答えるエルシアであったが緊張が止まらない。
「クロード殿下、こちらにいらっしゃいましたか」
「これは、サンマリア国王陛下。お久しぶりです」
隣国の国王が王女を連れて声をかけて来た。
「こちらがお噂の婚約者殿、ですな?」
「ええ。エルシアです」
クロードは、にこやかにエルシアを紹介するが。
ジトーーー
国王は値踏みするような視線でエルシアを観察してくる。
耐えられなくなったエルシアは、軽く頭を下げて自己紹介をした。
「初めまして。婚約者のエルシアと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
キッッッ
すると、国王の隣に控えていた王女からあからさまに睨みつけられたのだ。
(……うっ)
射殺す様な視線を向けられて、肩が震える。
彼女は両手を握りしめて自分を鼓舞した。
(しっかり! しっかりするのよ、エルシア)
クイッ
だが、そんな彼女の肩をクロードはギュッと抱き寄せる。
「これからは、俺も彼女のためにより公務に精進します。王族に恥じない行動を、ね」
そう言ってクロードが視線を王女に向けると、さすがに居心地が悪かったのだろうサンマリア国王は娘を連れて去って行く。
「嫌な思いをさせて悪かった、エルシア」
「いいえ。助けて頂いてありがとうございました」
(殿下はすごい人なんだな……)
改めてエルシアは思う。
見上げればすぐ隣にいるこの人とは、やっぱり住む世界が違う。
ひっきりなしに繰り返れる挨拶も、人脈も。
エルシアには縁がなかった世界だ。
何だか少し寂しい気持ちになった彼女に、一人の男性が声をかけて来た。
「クロードを少し借りてもいいかい?」
クロードの長年の友人だと言う近隣国の王子は、友人同士で積もる話をしたいと言う。
「エルシアを一人にするわけには……」
「大丈夫ですわ、殿下。ちょうど、少し風に当たりたいと思っていた所ですもの」
エルシアを気遣い断ろうとするクロードの背中を、彼女は優しく押し出した。
(こんな機会でもないと、他国の友人には中々会えないものね)
「すぐに戻るから。危ない人について行っちゃあいけないよ!」
クスクス
友人に連れて行かれるクロードの物言いが、子供への注意のようで笑ってしまう。
(さて、と。少し庭園でも散歩しようかしら)
ーー見えない位置から護衛も付いているはずだし。
正直、ずっと緊張し続けて疲れていたので一人になれるのはありがたかった。
パーティー会場にいれば、次期王太子妃と言う肩書き目当ての人達に囲まれてしまうのは目に見えている。
エルシアは扉を開けて廊下に出た。
「おい、マリー! その手を離せよっ」
「いやぁ~~。カザルス様の薄情者!!」
廊下の離れた先から、遅れて会場に向かう男女が言い争う声がする。
ズキッ
(この声はーー)
思わず見つめた先で、決して会いたくない人達と目があった。
「お前! エルシアじゃないかっ」
ーーやっぱり、カザルス様とマリー男爵令嬢、よね
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます