第四章 運命の文化祭

31話 企画のお話

 夏休みが終わり学校が始まると同時に、一ヶ月半後に控えた文化祭の準備が始まった。


 どの部活も盛んな我が校では文化祭は一大イベントとなっており、学校の名前からとって「白峰祭」と呼ばれて地域の人々から愛されている。


 その熱に当てられてクラスの出し物もかなり気合が入り、準備期間中は生徒全員が忙しなく動き回っている。


 そして初日の放課後は、クラスの出し物を何にするかを決めることになった。クラスの出し物は自由に決めてよく、生徒の自主性と企画力が試される。


「はい、それじゃあ私達はメルヘンカフェをやるってことでいいかな?」


 クラスによっては数日かかる企画は、ほんの数分で終結した。


 委員長の話の進め方が上手だったのもあるけど、海香が完璧な企画書を仕上げてきたのが大きい。


 女優である海香がいるのだから劇にしようという案もあったが、それでは役者間の演技力に差がありすぎて逆に海香が浮くとのことだ。


 ドラマで圧倒的な演技力を見せ、プロとして活動する海香本人の言葉は重く、そのまま海香の案が通ったのだ。


「にしてもメルヘンカフェかぁ、テーマ的にも自由度高くて楽しそうだね」

「でしょ? それに、カフェでの個人ロールプレイなら私の演技力も活かされるし」


 文化祭で何をするかがすぐに決まってため、残り時間は自由となった。といっても、生徒全員が教室に残ってメルヘンカフェの具体的な内容とか、メニューとか、衣装とかについて仲のいい友達と話し合っていたのだけど。


「メルヘンかぁ、じゃあ海香はお姫様だね」 「それなら卯月は男装して王子様ね!」


 相変わらず仲のよろしいカップルは、レシピを考えてる美鈴と手持ち無沙汰になってボーッとする私の前でいちゃついていた。


「そういや、明日は役割分担決めるけど何したいか決めてるのか? まぁ、その会話を聞く限りウェイターやる気満々みたいだけど」

「まぁね。彼方はどうするの?」

「ウェイターか呼び込みだなー。美鈴は?」


 委員長に聞かれて答えて、同じ事を美鈴に聞く。美鈴のメルヘンな姿かぁ……どんなのがいいだろ。


 花冠をかぶった妖精とか、もふもふなネコミミとか……夢が広がるなぁ。


「えっと、キッチンかな」

「えっ」

「え?」


 美鈴のあまりに残念な返答に反射的に反応すると、美鈴はハテナを浮かべて私の顔を見た。


「え、いや、美鈴はウェイターだと思ってた」

「なんで? 私が得意なのは料理だから一番役に立てるのはキッチンだよ」

「あぁいや、そうだけど……」


 冷静に考えればそうだった。美鈴の料理のうまさは、毎日お弁当を食べている私が一番わかっている。美鈴のメルヘンなお姫様姿が見たかったせいで失念していた。


「美鈴の料理おいしいもんね。それでも彼方はキッチン以外のとこがいいと思ってるんだ? なんでかなぁ?」


 委員長が珍しく意地悪してくる。うっかりと漏れた私が美鈴の可愛い姿が見たいという気持ちに反応して、ニヤニヤと笑っている。こんにゃろ。私で遊びやがって。


「あーいや、美鈴はそのー……」


 可愛いからウェイターの方がいい。なんて言えるわけないだろ! でもどうやって誤魔化せばいいんだ。


「実は私も美鈴ちゃんはウェイターがいいと思ってたんだー」


 ピンチに追い込まれた私に、海香からの助け舟が出された。ニコニコと笑っているが、目は真剣そのもので、海香は私みたいに私欲関係なくカフェを良くするために必要な事だと思っているようだ。


「え、なんで?」

「美鈴ちゃんが可愛いからだよ」

「え、そ、そうかな……」

「そうそう! 美鈴は可愛い!」

「彼方まで?!」


 海香が言ったのなら私も言う流れができてる。この流れに乗るしかないと、私は叫ぶように美鈴に可愛いと言っていた。周りから視線が集まっている気がするけど、気にしない気にしない。


「せっかく可愛いんだからウェイターやらないと勿体無いよ!」

「そうそう!」

「で、でも……海香ちゃんに彼方もいるウェイターなんて私には荷が重いよ……」


 可愛い可愛いと褒められて、顔を赤らめながら頑なにウェイターをやろうとしない美鈴。照れてる姿も可愛いけど、このチャンスをものにして、なんとしてでも美鈴に可愛い姿を見せてもらわなければ。


「……ちょっと美鈴ちゃん。こっち来て」

「えっ、なに?」


 海香は手招きして美鈴をよぶと、コソコソと何か耳打ちをした。すると美鈴さらに顔を赤くし、何かを断るように首を横に振った。


 しかし追い打ちをかけるように海香がさらに何かを耳打ちした。それがトドメになったのか、美鈴は観念したように首を縦に振った。


「えっと、彼方……わたし、ウェイターやってみるよ」

「おぉ、そっか!」

「ただし!」


 喜んだのも束の間、美鈴は何か一つ条件を示すように指を一本立てた。


「彼方も一緒にウェイターをやって!」

「うん、いいよ」


 何だそんなことかと思って二つ返事で承諾した。もともとウェイターは候補にあったし、美鈴の可愛いウェイター姿が見られるのならどんな条件でも飲むつもりだったから。


 そして後日、私と美鈴がウェイターをやりたいという要望は無事に通り、私達は晴れてウェイターという役割を任されることとなった。



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