移動2

 ――ゆさゆさ。


 「ん。……ん? あー。ご、ごめん。寝ちゃってた」


 アレクは苦笑しながらも綾人の頭を撫でると、綾人を抱えてコモディーの背中から飛び降りる。


 「ひっ!」


 ……3メートル位はある所から降りたんだよ。そりゃびびるよね。


 アレクは悪戯が成功したとばかりに笑うと、抱えていた綾人を地面に下ろしてコモディーから、必要な荷物だけをおろしはじめる。


 綾人は周りを見渡した。


 まだ到着ではない。大通り沿いには休憩が出来るよう、広場があると言っていたので休憩しに来たようだ。


 腕時計を見ればいつの間にかお昼を過ぎていた。


 ……爆睡していたようである。


 よく使われているのだろう、焚き火が出来そうな場所を囲うようにベンチがあり、その一角に座るとアレクがお弁当を持ってやってきた。


 なんだかピクニックみたいだなと思って、弁当をアレクと分け合って食べはじめて少しした後、幌馬車が広場に入ってきた。


 アレクはすっと立つと、綾人の後ろに控える。


 ……せっかくのピクニックが。。。


 誰も居なかった為、アレクと一緒に食事していたが、人がいるとなると主人と奴隷に戻らざるを得ないので、なんとも言えない気分だ。


 1人で食べる食事は味気ないなと思いながら食べていると、幌馬車から人がやってきた。


「こちらよろしいですかな?」

「どうぞ」


 いかにも商人っぽそうな40代位の男性が綾人に断りを入れて、目の前のベンチに座る。


「これからどちらへ向かわれるので?」

「初級ダンジョンに挑戦しようと思いまして」


 商人はチラッとアレクを見て言う。


「レベル上げですかな? 立派な奴隷でいいですね」

「……はい。ありがとうございます」


 綾人は目の前の男が一瞬目の色が変わったような気がして、気になり男に鑑定を使うと、スキル欄に”鑑定(2)”があった。


 鑑定は超レアとまではいかないが、そこそこレアなスキルらしく、綾人以外に持ってる人に会うのは初めてだ。


 そして、今ほど”隠蔽”を持っていて良かったと感じた事はない。


 “隠蔽”は自分の指定したステータスを隠す事が出来るという限定的な使い方しか出来ないが、逆に自分の物でさえあれば使える為、現在綾人の所有物であるアレクの職業欄”賎奴隷”の”賎”という字を隠していた。


 ……アレクの虐げられる姿なんて見たくないからね。


 綾人のステータスも見たのだろう目の前の商人は(やはり商人だった)綾人を気に入ったのか、それから何処から来たのかとか、当たり障りのない話をしつつ、最後に1つ気になる情報をくれた。


「ここ最近、”奴隷主人狩り”というのが出ているようですよ。見目の良い奴隷を使役している主人を襲って、奴隷を奪っていくとか」

「こ、怖いですねぇ」

「まぁ、殺された主人は今の所居ないらしいが、どの人も大怪我をしているらしい」

「それは……」

「君の奴隷も見目が良いから気をつけた方が良いだろう。……そうそう。これは噂レベルだが、その奴隷主人狩りをやってるのが異国人風らしくて、今王都は外国人に対してもピリついているから王都へ行くなら気をつけた方がいいだろうね」

「そ、そうなんですね。王都へ行く予定はないですが、ありがとうございます」

「まったく、隣国の奴隷擁護派の仕業かね。何を考えてるんだか……」

「も、もういきますね。貴重な情報ありがとうございました」

「またご縁がありましたら」


 綾人がそそくさとお弁当を片付けようとしたら、アレクがさっと綾人の膝の上に乗っていた弁当を取り上げ片付けはじめる。


 ……よく出来た嫁だ。


 綾人はする事が無くなったので、コモディーの方へ向かう。


 ……それにしても。先程の商人の話はまさか転生者じゃないよね。。。


 1ヶ月もこちらの世界で過ごせば、奴隷が社会に根付いているのが分かる。


 殆どの人の意識には奴隷は当たり前に存在している”物”であり、主人の資産なのだ。


 それを主人を害して奴隷を強奪するとは……。


 奴隷は”物”だと当たり前に思っているこの世界の人達がわざわざそんな事をするだろうか?


 まぁ、考えすぎでただの悪党なだけかもしれないけどね。


 ……フラグじゃないよね!!?

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