奴隷販売所2

 改めて目の前の奴隷を見る。


 綾人の恋愛趣向はノーマルな筈なのに、みすぼらしい服でも、鎖に繋がれていても、目に傷があろうと、その気高く誇り高き狼みたいな雰囲気はとても奴隷には見えず、誰もが惚れてしまうんじゃないかと思うほどだった。


 相手もじっと綾人を見ている。


「お名前は?」


 相手は少し驚いたような雰囲気を出しながら、先程案内役が置いていった紙に書いていく。

 こちらが名乗りもせず、相手の名前を聞いたのは失礼だったかなと思いながらも、まだ購入を決めた訳でもないので極力情報は出さないようにする為にこちらからは名乗らない。

 確かに綺麗な字だ。名前は”アレク”というらしい。


「アレクと言うんだね。よろしく。私はこの通り外国人でね。あらゆる常識を教えて欲しいんだ。物知らずだから多少は迷惑をかけると思うけど、その辺りの面倒も見てほしいんだ。期間はそうだな仮に1年としておこうか」


 アレクは少し怪訝な顔をしている。


「あぁ、1年と言うのは、いわば契約期間かな。1年経ったら、奴隷から解放しよう。ただ、隷属魔法契約は結んで貰う予定だ。隷属魔法契約の内容は僕に関する事を許可をした事以外、命の危機がない限り喋らない事かな。これは僕が解除するかアレクが死ぬまで守って貰う事になる」


 奴隷から解放という言葉で、少し目を開き、隷属魔法契約の話で目を伏せ、契約内容で無表情に戻る。


 側から見れば表情はあまり変わって無いようだが、片方しか見えない澄んだ青い目が感情を物語っていて、なんだかほっこりする。


「聞きたい事はあるかな? 気になる事は先に聞いておいて。答えられない事もあるけどね」


 また驚いているようで目を瞬かせている。

 アレクは暫く考えた後、紙に書き出す。


 “1年ではシンタイキンを払えないと思います。その場合は延長ですか? それともこちらへ返却ですか?”


 しんたいきん? そんな日本語ないぞと思っていたら、”身体金”と漢字に変換された。


 ……日本語には無いと思うけど、どうやら身請け金と同じ意味のようだ。


 ん? それを払うのが俺じゃ無いの? と思ったが、俺から自由になるのに自分を自分で買い上げるという意味かと気が付いた。


 確かに、先程値段を聞いたらアレクは4,500万Gらしい。それをいきなり無償と言われたら、何をやらされるのかと不安になるのも当然かと思った。


「あー。その身体金? は無しでいいよ。多分迷惑を掛けると思うし、護衛もして欲しいんだ。それと、一生僕の事を他人に喋っちゃいけないって制約もあるからその代金かな。うーん。僕も訳ありなんだよ。それをアレクが1年間僕を守ってくれれば契約達成という事で、その条件も隷属魔法契約の時に結ぶよ」


 綾人の話を聞いてますます怪訝な雰囲気を出すアレクに、ちょっと訳あり感をだして、それ相応の大変さがあるんだよアピールをする。


 確かにタダより怖い物は無いって言うしね。そりゃ、4,500万Gは安くないし、それとは別に今アレクの首に付いている奴隷紋の除去に1,300万Gかかるらしいのだ。普通なら子供がぽんっと払う値段じゃないだろう。


 ……まぁ、実際子供じゃないし、所持金が4億じゃなければもうちょっと慎重だったとは思うが。


 アレクを見ると暫く考えていたようだが、綾人を見ると深く頷いた。


 無事、了承してくれたようだ。

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