転生先で奴隷を買ったら溺愛された

あやま みりぃ

1章出会い

ホール

「ここは?」

「え? 何ここ?」

「あれ? さっきまで外にいた気が……」


 床は絨毯で何処かのホールのような空間に30人程の人がいて、皆戸惑っている。

 高崎綾人タカサキアヤトも同じで、さっきまで営業で外を歩いていた筈なのに、目の前が暗くなったと思ったらいつの間にか知らないホールに立っていた。

 綾人は状況を掴もうともう一度周りを見回す。

 同じ空間には、大人はスーツを着た綾人と、同じくスーツを着た30代位の男性と大学生位の男女2人だけで、あと残りは全員同じ制服を着ている事から高校生だ。

 因みに何故高校生か分かるかと言うと、綾人の母校の制服で数年前に着ていたからだ。

 と、そんな事を考えていたら、突然目の前に神話にあるような女神っぽい白い服を着た女性が、舞台に上がっていた。


 綾人はさっきまで、舞台なんてあったっけ? と思いつつ様子を見る。

 女神っぽい服を着た女性は唐突に話し始めた。


「皆さん聞いてください。私はこの世界に関係する女神です」

 いきなりの突拍子もない言動に、先程まで騒めいていたホール内が静かになる。


「こちらの不手際で死神新人研修の場所を間違えて通達してしまい、まだ死ぬ予定ではない皆さんの魂を刈り取ってしまいました。一度刈り取ってしまった魂は輪廻へ乗せるか別の世界で生きるかしか出来ません。なので、皆さんを別の世界に送ります」

 自称女神は一息にここまで話すと一旦辺りを見回した。


「……ふ、ふざけるな」

 暫くの静寂の後、1人の声をきっかけに周りがざわつきだす。


「不手際なら、元に戻すのが普通だろ」

「そーだ。俺たちを元に戻せ」

「そーよ。そーよ。私達はまだ死にたくないわ」


 誰も冗談だとは疑わない。女神に言われて、皆死の直前を思い出したのだ。

 当然、綾人も思い出した。

 社会人3年目に入って1人で取り引き先に向かっている途中で久しぶりに母校の正門前を通っていた時だ。


 突然、黒い塊が目の前を横切り、一瞬熱いと感じたと思ったら、焦げ茶の髪に焦げ茶の目をした平凡な小柄な男の体が地面に倒れるのを空から見ていた。


 ……この平凡な男こそ、毎日鏡で見ていた自分だ。


 そして、確かに周りの人達を見てみれば、あの死の直前、正門前にスーツを着た男性(先生だろうか?)が立っていて、下校する生徒を見送っていたし、向かい側からは私服の男女が歩いていた気がする。


「はぁ。こちらの不手際で申し訳無いのですが、元に戻ることは不可能なんです」

 女神が面倒くさそうに言う。

 この態度と言い方はないだろうと綾人が思った所で周りも同じように感じたようで怒りのボルテージが上がる。

 年嵩の男性を筆頭に何人かが声を荒げる。


「なんだその態度は」

「ふざけんな!」

「誠意を持って謝れ!」

「別の世界で生きていける保証なんてあるのか!」

「今迄必死で貯めたお金とかどうしてくれるんだ」


 罵倒が出尽くした所で、女神はお構いなしに話を始めた。


「送る先の世界では魔法などがあります。こちらの不手際ということで、チートでしたっけ? が使えるようにしましょう。向こうの世界ではこちらの世界でいうゲームのようにレベルやスキルという概念があります。お詫びと言うことで貴方達には特別に特典をつけましょう」


 いつの間にか目の前には机が出現して、椅子に座っており、手元には転生特典が記載された紙があった。

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転生特典

・願い事を5つまで叶えます。スキル、属性魔法を選択した場合はレベルMAX状態(5)となります。


・今と同じ肉体を新しく構築します。容姿や年齢を変更したい場合は願い事扱いになります。また赤ん坊でも可能ですが、その場合孤児となります。


・レベル1からスタートですが、成人位のステータスにしておきますので、レベルが上がればその分周りより優れます。


・今まで生きてきて培った経験値などはスキルに反映されます。


・現在の貯金額の100倍のお金を初期値として渡します。


・送る先はそれぞれバラバラの場所で街から半日程の場所にします。一緒にいたい人がいれば申し出てください。女神の加護は2日間かけます。2日間は何があっても生き残れますが、その後は自力でなんとかしてください。


・その他質問があれば個別で受けますので内容理解したらサインをしてください。

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 綾人は特に口には出さないが若干の不信感を持ち始めていた。


 それに、綾人的には異世界に行く位なら別に輪廻に回して貰って良いと思ったので、その旨を個別に質問しようとした所、考えた事を読み取ったのか、直接頭に声をかけられ、最低生きる筈だった分は何処かで消化しないといけない為、輪廻は無理だと言われた。


 スキルと属性魔法について知りたいと思ったら、スキル一覧と属性魔法の本が手元に出現した。この本はこの場でのみ閲覧可能という事で静かに読み始める。


「君、綾人くん。」


 綾人は、スキル一覧を熟読していた所に女神より声をかけられ顔を上げた。


「はい」

「君が最後なんだけど、願い事は決まった?」


 女神の言葉に綾人はびっくりして周りを見渡すと誰も居なくなっていた。

 願い事によって人生が左右されそうなのに、皆そんな早く願い事を決めたのかと驚く。


「まだ決まってません。せめてこの本を読んでから考えたいです」

「……分かった。こっちも予定があるからさ、悪いけど、あと1時間ね」


 そう言うと、女神は砂時計を置いて何処かに消えた。

 スキル一覧は、辞典並みに分厚いので全てをあと1時間で読むのは無理だと、気になる箇所だけピックアップして、属性魔法一覧にも目を通しておきたいので、ざっと読み進める。


 ーー砂時計の砂が全て落ち切り、女神を質問攻めにした後。


「……結局まだ決まってないの? うーん。じゃ、決まったら随時願ってくれるかな。でも、タイムリミットは加護が消える時間までね。それ過ぎたら適当につけるから。決めたら強く願ってちょうだい。……そうしたら、取り敢えずこれにサインしてくれるかな」


 そう言って紙を出されたので、サインをして渡す。


「良い人生を」


 紙を見てサインを確かめた女神は、いつの間にか、綾人の後ろに立っていて、綾人が背中を押されたなと思ったら、見晴らしの良い草原のような所に立っていた。


***


 誰も居ないホールで、女神は微笑む。

「ふふ。今の時代、転移や転生ものの物語やゲームがあって、最近の子達は勝手に解釈してくれるから楽だわ。さて、今回は何人本来の寿命を全う出来るかしら」


 女神は知っている。大きすぎる力は身を滅ぼすと、それも今回は地球でいう所の成人前の子供ばかりで思慮が足りてないだろう。まぁ、大人も貯金額を100倍計算にしては悦に浸ってるようだったし、何人かの色々質問をしてきた数人以外は大した事はないだろう。


 女神は転生者が何をしようと考えているか見えていたが、特に止める事はしない。世界には適度な混乱が必要なのだ。自分の世界の子達を愛しむ為にも。


 そう。この女神は地球の女神ではない。移動先の世界の女神なのだ。地球で死んだ魂、いわば他人の子達がどうなろうと、自分の世界の子と関わらない限りどうでも良いのだ。

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