瀬名あかりの話

あの日、私の目の前で百が落ちた。

原因はきっと私…あの時、私が忙しい百に対して少し我儘を言った

今までの事とかもあって感情が爆発してつい、喧嘩になってしまった。

そして泣いて逃げようとした私を追いかけようとした百は…階段から…

私は、泣いた…泣いて泣いて…

そして気が付いた時には救急車が来て、運ばれていく彼女を呆然と眺めることしかできなくて 私のせいで……

それから一週間が経った。彼女は未だに意識不明で病院にいる。

毎日のようにお見舞いに行っては、彼女の手を握って話しかけているけど一向に目を覚ましてくれる気配がない。

日に日に弱っていく彼女を見るのは辛くて苦しくて……

私はその場から逃げるようにして帰った。

家に帰りベッドに横たわる、思い浮かぶのは彼女の顔と声…私は百の笑顔が好きだった、でも私が

最後に見た百の顔は泣きそうな顔だった。

ふと、目を横にやるとテーブルの上のノートパソコンが目に入った。

「そう言えば、アレの事百にまだ言えてなかったなぁ……」

私はノートパソコンを手に取りベッドの上に腰掛け

一つのソフトを立ち上げた。

開かれたソフトの画面に映されたものは、私に似た少女が

かっこいい男の子たちに囲まれている……所謂乙女ゲームと言うやつだ。

実はこのゲームは私が趣味で作ったゲームで、モデルは私と百がモデルなのだ

乙女ゲームとは言ったけれど、正直その部分はどうでもいいので設定は滅茶苦茶だ。

本命は百をモデルとしたこの悪役令嬢の女の子のルートで、名前はもちろん、見た目まで同じにしている。

「結局百にこのゲームの事言えなかったなぁ……私が作ったんだよって」

そう言って私は自嘲気味に笑った。

ゲームの中の百は楽しそうに私と話している…

「ねぇ、百起きてよ……私、謝りたいことがたくさんあるの……」

そう言って私は涙を流す。もう枯れるほど流したというのに……

そして私はゲームを開いたまま眠りに落ちていた……


******

目が覚めると、見知らぬ部屋にいた。

一体ここが何処なのか、私はどうかしたのかと慌てていると

部屋の扉が開き顔を出したのは…

私が作ったゲームのキャラの一人…柊奏だった…

「あかり大丈夫?倒れたって聞いて…」

「あぁ…うん…」

このキャラは、私の幼馴染で攻略対象の一人

貴族のくせに平民の私の事が好きで…みたいな設定だったはず。

そうか、これは夢か…ん?ここがゲームの中なら百にも会えるのかな?

「ちょっと大丈夫?」

「大丈夫大丈夫!ちょっとはしゃぎすぎちゃった!」

「ならいいけど、俺にあんまり心配かけないでね?」

「はーい」

そう、ゲームの中なら百に会える…そうと決まれば私はこのゲームのキャラになりきろう。

そして、いつかで会えるその日まで…


******


そう思っていたのに、再開した百を見て私は驚いた。

まず、私の事を見て怖がり、よそよそしく名前を呼んで

しかも、婚約者とイチャイチャなんかして…!私が百の恋人なのに…!!

こんなの、ゲームと違う…!!

もしかして百も転生して…?

いや、まさかそんな訳ないよね……ないよね……?

だって、もしそうだとしたら……! 私は、いてもたってもいられずに行動に出た。

そして今に至る。

「はい、それではこれで今日の日程は全て終了となります。明日からは授業が始まりますので、忘れ物などないようにしてくださいね。では、気を付けて帰ってください。さようなら」

「百、帰ろっか」

そんなやり取りが遠くから聞こえてくる、本当ならそのポジションは私のはずだったのに……

私は悔しくて手を握り締めた。

「あかり大丈夫?やっぱりいじめられてるのって本当だった…?」

「ううん!そんな事ないよ!みんなやさしいし」

「ほんと……?あの小鳥遊ってやつだろ?あかりをいじめてたってやつ……」

「百はそんな事しない」

「え?百って…」

「あ、えっと、小鳥遊さんは優しい人だよ?だから大丈夫」

「ほんとか~?」

「……お話し中に申し訳ありません、瀬名様少しよろしいでしょうか?」

そう言って百は話しかけてきた、瀬名様と呼ばれるたび胸が少し苦しくなる…もうあかりって呼んでくれないの……?

そこから色々とあって、三人で帰ることになった。

奏が何か言っていたが、月城さんには興味ないから平気だと言って帰らせてもらえた。

はぁ…憂鬱だ…

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