Guardian of the Moonbow

 暗く、自分の姿さえ見えないような場所で、俺は目覚めた。恐らくここがこのゲームの開始地点、つまりアバター作成のための空間であろう。

『ようこそ、《Crossing Worlds》へ。まずは、貴方の分身となるキャラクターを作成して下さい』

 どのゲームでももはやテンプレとして使われるようになったセリフをガイドNPCが発する。

『アバターは、手動作成、ランダムで自動作成の二つがあります。』

 その言葉の直後、俺の前にウィンドウが浮き上がる。

『ご自身で作成される場合:大まかな容姿、固有能力を八種類の種族から選べます。さらに、選択した種族を元に、更に最大八種類の分岐種族を選択できます。(例:魔族を選択し、分岐種族の吸血鬼を選択。獣人を選択し、猫獣人を選択)』

『ランダムで作成する場合:種族や固有能力を完全ランダムで作成します。大まかな容姿の設定など不可ですが、代わりに強力な種族になる可能性があります』

「へぇ、ランダムなんてあるんだなぁ……やってみるか?」

 だが、これでランダムを選択して、見た目があまりに悲惨な種族になってでもしてみろ、俺は間違いなくこの神ゲーをプレイすることもなくやめてしまうだろう。

しかし強力な種族、それにはすごく惹かれるものがある。ならば――。

「迷うけど、やっぱロマンには抗えないな。……ランダムで作ってくれ!」

 俺のその宣言にNPCは微かに頷き、俺との間に光の粒を集めていく。そしてそれがやがて人の形を成して――。

『ランダムでアバターを作成しました』

 ――いや、人じゃない!?

 種族名 《オークナイト》のそれは、あまりにも人とかけ離れた容姿をしていて、もしこんなのがフィールドをうろついていたら間違いなくモンスターと勘違いされて殺されてしまうだろう……。

『あと二回、ランダム作成が利用可能です。利用しますか?』

 頭を抱える俺に、ガイドが助け舟を出してくれる。選択するのは勿論はいだ。

 またさっきのようなものが出てきたらどうしようと、若干不安に思いつつも目を開くと、表示されているのは俺そっくりの容姿をしたアバターと……種族名 《月虹を護る者》というもの。

 明らかレア種族! しかも強そう! そんな期待の眼差しをガイドに向け向ける。

「この種族何!?」

『ある街を救い、剣の神とも呼ばれた英雄の末裔です。受け継がれた戦闘技術により、全武器スキルを習得条件無視で使用可能です。また、固有スキルにて、一般の武器生成スキルの効果を上昇することが可能です。さらに、一定数召喚することで特殊効果を得ることが出来ます』

 全武器の習得条件無視ってなに? チート? そんな強いのあっていいの? 習得条件があるものはきっと強力なものに違いないためそれを最初から使えてしまうというのはあまりにもデカいアドバンテージと言えるだろう。

 この種族を逃せばきっと、俺は後悔をしてしまう、だなんてそんな気になって、叫んだ。

「この種族に決定してくれ!」

『続いて、スキルの割り振りをしてください』

 スキルはこの世界で最も重要であり、今後の俺を生かす為の大事な選択だ。

 それに、種族効果とも嚙み合うような選択をせねば、後悔することは間違いない。どれだけ時間がかかろうとも、急がず、じっくりと考えよう。

 


・HP   520

・MP   140


・STR  35

・AGI  30

・DEX  25

・VIT  15

・RES  15

・LUK  15

・INT  10


 習得スキル   500/5000

・片手武器装備   50/100

 ・刀       50/100

 ・片手剣     40/100

・その他装備    50/100

 ・双剣      50/100

・幻影武装(武器生成)50/100

・両手武器装備   35/100

 ・大鎌      35/100

 ・大剣      35/100

・索敵       35/100

・ハイディング   30/100

・遠距離武器装備  10/100

 ・投擲      10/100

・詠唱・影魔法   10/100


・種族特徴

・魔法・スキルによって生成された武器が一定範囲内に存在するとき、その数によって以下の効果を得る。

 1~10:与ダメージ5%上昇。4~10:戦闘スキル全てのCTマイナス5秒。6~10:武器を翼のように扱い飛※行可能。10:操剣状態(※)となる。

・戦闘スキルの熟練度上昇+1.05%。

・通常魔法攻撃の威力20%低下。

・通常魔法攻撃発動時、使用魔力10%上昇。

・生産スキルの成功率50%低下。

※召喚した剣を意のままに扱うことが可能。しかし、召喚した武器はすべて片手剣へと変化する。



 後ろ三つの種族特徴は弱点だが、それがあっても尚、かなり強い種族だろう。

 というかそもそも、俺の戦闘スタイル的に魔法での攻撃は少ない。正直、この種族の弱点は関係ないも同然なのだ。

 それに、この躁剣状態というのが個人的にすごく気になる。名前と説明の感じ、強そうな雰囲気が出まくっている。武器生成スキルを高く上げているのもこのためだ。

 武器系のスキルを多くとっているのは、この世界でどれが強いのか分からないからというのが大きい。使いやすいのは圧倒的に慣れている片手剣や刀になるのだろが、少なくとも前者の場合、手数は多くとも決定的なダメージを出しにくく感じるため、破壊力の強そうなもの二つと、ただ単にかっこいいからとかいう、未だ某中学二年ごろに発症するアレを引き摺っているかのような理由で選んだ双剣がある。



 最後に微妙な容姿の変更……毛先と、目の色だけを変更してキャラメイクを完了する。

『それでは、この世界での旅をお楽しみ下さい』

 決定ボタンを押した後に発せられたその声を最後に、俺の視界は白に染まった。



 視界に色が戻ったのは、薄暗く少々不気味な場所だった。

 多分、ここは墓地か何かの類なのだろう。周りに見えるのはすべて似たデザインの石碑らしい物なのだった。

 そこに記される名前と思しき文字は不思議とすべて、なんとなく見たことのある……いや、知っているものだった。それはかつて、俺がはまっていたRPG――フルダイブゲーム黎明期に発売された、あまり有名でないゲーム……《スターレス・レギオン》という、プレイヤーが弱小軍の 《スターレス》に属し、NPCたちと絆を育み共に勝ち星を掴んでいくという、探せばありそうな設定のもの――に登場した、NPCたちの名にそっくりなのだ。

「そういえばあのゲームの開発の人も、これに携わってたっけ……」

 感傷にも似た気分に浸っていると、視界に、突如としてシステムウィンドウが表示された。

『着信あり、応答しますか?』

 これもVALDの機能の一つであり、かなり便利なものだ。ゲーム内であっても、VALDないしは連携した電話番号に着信があれば伝えてくれるというものだが、これが結構ありがたい。

 友人と通話を約束していたのにゲームがやめられない! というような場面で特に役立つように感じる。

 もちろんYesを選択し、通話に応じる。



『もっしもーし! つっきー、聞こえてる? あたし、シウだよー!』

 瞬間、そんな幼馴染の仮想世界での元気な声が響いた。

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