どーぶつ×ワーワー
二北良秀
第1話 一月一日に届く、黄色の封筒。
寝ていたのか起きていたのか。
それもよく分からないまま目を向ける。
頭上に感じる薄いカーテンに滲むオレンジ色。
太陽の光。
本日は一月一日。
初日の出。
布団に横になっていた身体を起こす。
待っていたのか、それとも待っていなかったのか。
今しがた八畳のワンルームに鳴り響いた、ドアポストに投函されたもの。
それを取りに体を起こす。
一歩ずつ目的地に近づくにつれ、動悸を感じる。
呼吸の仕方を忘れているようだ。
脈の早さが、体の動きに連動していない。
ポストの取っ手に触れた時、心臓は最高潮に鐘を打った。
ぎっ
電気を付けていない部屋の暗さを、そのまま閉じ込めたような金属の箱は、擦れ合う音が今日もやかましかった。
入っていたもの。
年賀状が二通。
そして黄色の封筒。
(……ーっ)
溜息が深く鼻から漏れた。
とても大きく、自然に出た。
ちゃぶ台の上に、そっと捨てるように手にした届き物を落とす。
無性に外を眺めたくなった。
開ける前から確認出来ていた、今年初の太陽。
カーテンを、シャッと故意に音を立てやかましく開け放った。
山間を抜け、アパートの窓に、自分の体に差し込むそれに目を細めた。
同時にじんわりと額に汗を感じる。
(届いてしまった……黄色の封筒が……)
【ちきゅう】と呼ばれるこの星。
【どーぶつ】と呼ばれる我々住人達。
星の誕生からは何万年と経っているようだが、現在の世界は平和そのもの。
子どものどーぶつは遊び、学校に行き、菓子を食べる。
大人のどーぶつは仕事をし、酒を飲み、語り合う。
種族分け隔てなく、誰もが幸せに楽しく暮らしている。
争いも無い。
実に穏やか。
そうだということを自覚できないくらい平和であることが自然な世界。
ある一点を除けば……だが。
この世界には掟がある。
抗うことの出来ない、ただ一つの運命。
毎年、十二月三十一日に開催される祭りのことだ。
祭りの名は【ワーワー】
そう呼ばれている。
ワーワー。
趣旨はただ一つ。
【選ばれた二人のどーぶつ】で、【王を笑わせてみよ】というもの。
楽しく暮らす、がモットーのような我々。
大勢の観客を迎え大晦日の夜、開催され、企画の内容だけならその性分にふさわしいものだ。
王を笑わせる。
シンプルな目標だ。
見事笑わせることが出来たら、夢の様なご褒美があると聞く。
しかしそうと聞いているだけ。見たことはない。
何せ、成功者はゼロなのだ。
歴史上、誰一人王を笑わすことは出来ていない。
そして、笑わせることに失敗したどーぶつ達。
末路、というものが訪れる。
どのような未来があるのか、聞いたことは無くとも知っていた。
本人達から聞いたわけではない、いや聞けないのだ。
何せこの世にいないのだから。
食べられてしまうのだ。
これは言葉の綾では無い。
本当にそのままの意味。
ワーワーに失敗すると、王へ命を捧げることになるのだ。
この世界のどーぶつ達なら誰もが分かっている。
そのことを抱えながらも、皆楽しく暮らしている。
諦めていると言ってもいいかもしれない。
そして、そのワーワーへの参加切符が、年始に届く【黄色の封筒】なのである。
(もしかしたら、宛名間違っているかも)
ちゃぶ台に投げ捨てた黄色の封筒を開け放つ。
ワーワー参加のお知らせ。
【うし氏】殿。
間違いない、私宛てに届いている。
概要は知っている通りの内容。
【なお、失敗時には捕食対象と成り得ますのでご了承ください】
冷たく書かれた余命宣告。
成功者ゼロのワーワーへの参加に、反逆することは許されない
約一年間、必死になって王を笑わせることを目標に何かを考える。
しかし、成功することは無い未来。
カウントダウンのスタートがする。
命のタイムリミット。
時計の針はゼロを目指し、動き始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます