第2話強張る表情の友人

 俺は綴江に慰められた数時間後の放課後になった今でも、ズズっと洟をすすっていた。

 賑やかさを取り戻した校舎で、失恋で萎れた心持ちを癒すために帰宅を急ぐ俺の隣で綴江が歩幅を合わせて歩いている。

 彼女は俺と合流してから無言を貫いていたが、徐ろに唇を震わして言葉を発した。

「あの娘……最初はなっから透に対して本気じゃなかったんじゃない」

「えっ……?じゃあ、なんで——」

 付き合ったの、と続けたかったが言葉にならなかった。

 彼女の横顔を窺うが、彼女の横顔から窺いしれる感情は無いと感じる。

「透は知らないほうが良いと思う。今は……いま、はね」

「そう……梨花がそういうなら、聞かない。梨花、今日は——」

 重たく沈んだ空気を払うように明るく放課後の予定を訊ねようとした俺の言葉は、背後から呼ばれる声で遮られた。

「汐野名、くんっ!」

 俺と綴江は足を止め振り返る。

 振り返るとミディアムで黒髪の女子生徒が左手でスカートの裾をキュウっと握りしめて立っていた。

「えっと、ぼく……ですか?」

「篠坂、さん……」

 俺と綴江が同時に言葉を紡いだ。

「誰って、梨花?」

「篠坂さん、2のCの篠坂さん」

 綴江が顔を強張らせ、答えた。

「篠坂さん……」

 俺は綴江が発した苗字を反芻した。

「はいっ……あのぅっ、えっとぅっ、そのっ——」

 篠坂は俺の漏らした呟きに返事をして、わたわたと慌てて言葉を紡ごうとして空回りする。

 俺は篠坂に呼び掛けたんじゃないんだけど……

「透。校門辺りで待ってるから、終わったら来て」

 俺が篠坂に視線を逸らさないでいると、綴江の片手が耳に添えられ、彼女の硬い声音の押し殺した声が囁いた。

 俺は彼女の言葉を聞き終えると、周囲に気付かれないぐらいにコクっと頷く。

 綴江は昇降口の方向へと駆けて行く。

 野次馬と化した生徒が俺と篠坂を囲んで膨れ上がっていた。

 廊下を歩けないほどに迷惑が掛かっており、帰宅を急ぐ生徒や部活に属する生徒らに睨まれ、この状況を収束させたいがそのような技量は備わっていない俺なのだから、仕方がない。

「あの、篠坂さん……他の場所に移りませんか?ここだと、なんですし……」

「ああっ、はいっ……そう、ですよね」


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