第6話 テロ2
次は第四試合だ。輸送機
輸送機
AnD専用の輸送機なのでAnDへの整備、点検、補給などが可能だ。
今はAnDを三機乗せている。僕と熊、火月の機体だ。それにAnD一機分のスペースに交換用のパーツを乗せている。蛇足だが、シールドが破損する事は考えていなかったので予備は全く無いそうだ。競技用ハンドガンの予備ならあるのに。
ついでにいうと競技用武装の両手持ちは禁止されていない。が、操作性が著しく落ちるので扱う人自体ほぼいない。
「目標ポイント到達。各機発進してください」
そんなアナウンスが船内に響く。
整備士、エンジニアが安全区に退避を始める。
退避を確認後、輸送機のハッチが開放される。空気が真空へと解き放たれる。
その勢いで固定されたAnDがガタガタと振動する。
三機のAnDが真空に満たされる。いや、空気が無くなったのだから満たされるというのは間違いだろう。空っぽになったのだ。
真空では音は伝われない。なので無線通信機を起動させ周波数を合わせる。
脚部を固定するアームがAnDを離す。
「よし! 行くぞ!」
熊が勢いよく飛び出す。
「へい!」
火月が続いて発進する。
「了解」
僕は淡々と作業をこなし、機体を輸送機から飛び立たせる。
三機が予定座標に着く。相手チームも予定座標に着く。
後は試合開始の合図を待つのみ。
ピピ。
通信が鳴る。大会本部からだ。どうしたのだろうと思い回線を繋ぐ。
「ただいまコロニー、テミスでDNA政策反対デモが暴徒化。試合開始を十分ほど遅らせます。申し訳ありません」
この試合はコロニー市民やコロニー議員などが見ている。特にコロニー議員は主賓席で高みの見物だ。ただ一部の議員のみが参加している。
主賓席には様々なお偉い方が揃っている。そのため暴徒化した市民への対応を協議しているのだろう。
「ちっ、早くしろよ」
火月が毒づく。確かにこれだけ準備したのに遅らされるのは不満がでるが。
ガタ。と、重い物同士がぶつかる音がする。
そちらを見ると――座席の裏を覗くとノートパソコンが浮いている。
どうやら点検用のパソコンをそのままにしていたらしい。本当は輸送機に返すものだ。
しまった。つい顔を覆いたくなる。が、ヘルメットのバイザーに遮られる。
僕はパソコンを固定する。万が一、激しい戦闘で顔面に飛び出してきたりしたら、大事故に繋がりかねない。
ピピ。
今度は輸送機から通信が入る。朱里からだ。通信を繋ぐ。内容は予想できる。
「すいません。点検用のノートパソコンが一台見当たらないのですが知りませんか?」
朱里が不安げに尋ねる。先程も述べたようにパソコン一台が大事故に繋がる可能性がある。その危険性を考えての通信だ。
「大丈夫だ。今、固定している」
僕は淡々と答える。ベルトでパソコンを固定しながら。
「申し訳ありません」
朱里が少し小さな声で謝る。
きっと頭を下げているが音声のみの通信では意味がない。
「そうか」
僕は生返事をする。
簡単には外れないようにパソコンを固定し終える。
そして前へ向き直り、操縦桿を握る。
「試合開始ー!」
実況アナウンサーが試合の開始を告げる。
「内藤! 火月!」
「了解」
「あいよ!」
熊の呼びかけと同時に火月が射撃ポイントに移動する。
僕と熊でその射撃ポイントへ誘導する手筈だ。
僕は敵のいる方へ突っ込む。十数メートル後ろを熊が随伴する。
敵のバーニア光でも見つからないか? そう思い、モニターを隈なく見渡す。
デブリが多く、中々見つからない。
火月はメインバーニアを使わず、最初の噴射で加速し後は慣性で射撃ポイントに着く。後は僕達が射撃ポイントに追い込むか、囮になって射撃ポイントまで誘導するか。
デブリの合間を縫うように青白い光が瞬く。敵のバーニア光だ。見つけた。
「見つけました」
僕は見つけた座標データを熊と火月に送る。といってもほぼ自動で行ってくれるが。
No1という表示がモニターに現れる。が、火月の射撃できる位置ではない。
僕が誘導しないと。そう思い、メインバーニアを噴かす。
デブリを盾に接近を試みる。No1は僕の機体に狙いを定め撃ってくる。つれた。
僕はデブリを盾に回避する。そしてデブリから飛び出し競技用ハンドガンを打つ。
回避しては撃つ。回避しては撃つ。それを繰り返し間合いを詰める。
僕は機体を後方へ持っていく。No1は僕の誘いに乗らない。その場に留まり競技用アサルトライフルを撃つ。
ちっ。僕の誘いに乗らない。という事は今回の作戦は失敗だ。
しかもいつの間にか熊の機体を見失っている。
ピッピッ。
熊からデータが送られてくる。No2とNo3を発見したらしい。恐らくデータは同期しているので、火月にも送られているだろう。
しかし誘いに乗らない以上、僕がNo1の相手をしなければならない。
僕は再びNo1との間合いを詰める。
No1との距離をどんどん詰めて行く。No1は近すぎる事に驚いたのか慌てて前方へバーニアを噴射する。
作用反作用の法則に従い、No1はバックし始める。僕はそのNo1にぴったりと張り付く。
ピピ
No3が僕の機体についてくる。が、発砲はしない。きっとNo1と僕の機体が近すぎて撃てないのだろう。
もはや触れられる距離だ。No1の競技用アサルトライフルでは銃身が長すぎて僕の機体を撃てない。が、僕は違う。競技用ハンドガンの銃身はとても短い。僕はハンドガンをNo1に密着させ、撃つ!
No1は撃破された続いてNo3に向き合う。No1はセーフティゾーンへ向かう。
被弾した機体は戦闘フィールドから抜け出しセーフティゾーンと呼ばれる安全圏へと離脱する。
No3は競技用ハンドガンを打ってくるが、シールドで防ぐ。防いだつもりだった。シールドが半分以下になっていた事を忘れていた。
人間でいう、上半身は隠せたものの下半身は覆いきれなかった。下半身にペイント弾が被弾する。と一拍置いてNo3は横合いから被弾する。どうやら火月の競技用スナイパーライフルの餌食になったようだ。
「ヒュー」
火月が口笛を吹く。
僕は自分のチームのセーフティゾーンへ向かう。
「後は俺達に任せろ!」
熊の力強い声が聞こえる。どうやら勝つ気満々らしい。
「お前にしては珍しいなー」
火月が笑いながら言う。どうやら嘲笑のようだ。
僕はその煽りに乗らず黙る。
セーフティゾーンに着く。暇だ。ここで試合を眺める事しかできない。
周りを見渡すと、コロニー外壁の展望エリアから応援する者。スペースシャトルや輸送機、観光船などからも応援している。そんな様子を見渡せる。その中で
知らなかった。こんなにも多くの人が応援している事に。
そういえば、この毎年この大会は大きな経済効果を生み出しているらしい。
その殆どが観光収入だ。そしてこの大会は労働者にとっての娯楽なのだ。
僕はこんなにも世界と繋がっていたのか。改めて実感すると、全身が震えだす。
感謝、感動、感慨、どんな言葉で表そうとこの感覚は伝えられないだろう!
そう思うとまた全身が震えだす。そんな感覚が襲う。
と、そんな感覚とは違う違和感を感じる。なんだろうこの感覚……。
「火月、追い込むぞ!」
「おう!」
そんな通信が聞こえる。火月が愚痴る。熊がそれを宥める。
間を置いて、通信が途絶える。
なんだ? 通信機の不調か?
そう思い通信機を
モニターが消えていく。そして常時点灯しているランプが消えていく。非常用ランプが一瞬、光るがすぐに消える。
操縦桿やフットペダルがロックされる。この状態は非情事態に外部から起動する時と同じだ。だがモニターや通信機、赤外線モニターが止まるなんてありえない。
なにが起きたんだ? 僕は通信機の周波数を弄る。が、やっぱり反応がない。
今の状態はまずい。真空の宇宙で、しかも四重構造になったコクピットハッチに閉じ込められた。
真空では外の音なんて伝わらない。モニターは点かない。四重構造のコクピットハッチは電動式だ。自力で開けるのは難しいだろう。もし仮に外に出てもこのパイロットスーツの空気は十分程しかもたないだろう。
どうしよう。今は目も耳も塞がれている状態だ。それどころか、推進装置もマニピュレータも動かせない。手も足も出ないとはまさにこの事だろう。
この暗いコクピットに取り残された。
幸い、エンジン音や機械の起動音は聞こえる。完全に停止した訳ではない。
僕はコックピット内を見渡すと、点検用のノートパソコンが目に入る。
そういえば、乗せたままだった。
……そうか! これを使えば復旧できるかもしれない。
そう思い、ノートパソコンを固定器具から取り出す。
ノートパソコンを起動し、AnDのメインコンピュータと直結させる。
ノートパソコンのキーボードを打ち始める。
どうやら新種のコンピュータウイルスのようだ。
点検用のパソコンというだけあって、ウイルス除去なども可能だ。
問題は新種である事。キーボードを走らせ原因を一つ一つ取り除く。
それから
ようやく、モニターが点く。と同時に様々なランプが点灯する。
復旧完了だ。と周りを見渡す。コロニー外壁に穴。その穴から空気が漏れている。
漏れた空気が黒煙を
続いて目に入るのが豪華なシャトルが破片となって砕けている。そしてほぼ全てのAnDが動かずにいる。AnDどころか、輸送機も一部しか動いていない。
そして警備――軍用AnDがいくつか破壊されている。
ピピ。
通信が入る。僕の輸送機からだ。
「どうなった?」
僕は相手の言葉を聞く前に尋ねる。
「そ、それが一部の軍用AnDが暴れだしたんだ!」
「急にコロニーが爆発して!」
「警備のAnDが主賓用のシャトルが次々と破壊した!」
「テロだ! テロ!」
輸送機の面々が次々と話しをする。同時に話さないでほしい。
取り敢えず僕はなんとなく理解した。
コンピュータウイルスでAnDや輸送機、シャトルなどの動きを止めた。その後、軍用のAnDが暴れだしてシャトルを破壊した。
恐らく休憩中の隕石衝突だと思った音は爆弾の設置音だろう。コロニー外壁に爆弾を設置。
混乱に乗じ、その爆弾を起爆した。その事でさらに現場は混乱した。しかも現在、デモ隊の一部が暴徒化した。コロニー内外で起こった様々な事件に警察も自衛隊も、てんやわんやだろう。
「そちらに座標を送ります。その地点にテロリストのAnDが」
一年の朱里が意外と落ち着いた声でサポートする。
「了解」
僕は返事をすると大破した軍用AnD-
「そんな情報あっても内藤じゃ対応できないだろ!」
「武器も競技用の物しかないんだぞ!」
「でも! 今動けるのは内藤さんだけですよ!」
そんな朱里達のやり取りが聞こえてくる。
僕は競技用のハンドガン、シールドを捨てる。
そして大破したミーナから携行武装のレールガンと軍用シールドを拝借する。
そしてテロリストの座標を目指す。
「おい! 待て!」
「無茶よ!」
「機体のシステムは軍用の武装に対応していないぞ!」
「キミはまだ、自衛隊じゃない! 相手を打てば罪になるぞ!」
僕の行動に様々な声が降り注ぐ。が、聞く耳を持たない。持つ必要もない!
テロリスト。それは人の生涯を狂わせる。家族さえも。
見つけた! と同時にレールガンを撃つ。が外れた。
火月なら当てていたのに。内心、自分の情けなさに苛立つ。
どうやらテロのAnDは次のシャトルを破壊するところだったようだ。
僕の行動でテロのAnDはシャトルから離れる。
そしてこちらに向かってくる。接近戦。望むところだ。
僕の利点は反射速度。反射速度が常人よりも優れている。
レールガンの残り弾数は十五か。
テロのAnDはレールガンを撃ってくる。それをシールドで防ぐ。
反応が鈍い。このAnDにとって軍用シールドは重いのだ。必要な力がマニピュレータに届いていない。
回避しながらシールドで防ぐ。これで精一杯だ。と次の瞬間、テロのAnDは三連装ミサイルを放つ。
レールガンで応戦する。ミサイルが一つ、落ちる。が残りの二つに対応できない。シールドを前へ突き出す。ミサイルが僕のAnDの傍で爆発する。近接信管か!
その爆発に煽られ機体が揺れる。シールドが何層か剥がれる。多重構造のシールドが
ミサイルの破片が機体を襲う。右脚部に被弾。第二冷却剤が漏れ出す。
クッ。冷却剤が漏れた事により機体が逆方向へ進もうとする。それを抑えながら、テロのAnDへ接近する。
その行動に驚いたのかテロのAnDが後退しようとする。その逃げ道を防ぐようにレールガンを撃つ。
そしてシールドで体当たりを加える。両方のAnDが体勢を崩す。
今だ! そう思い、コクピットの下、デルタジェネレータを狙い撃つ。この距離なら外さない! くらえ!
テロのAnDは動きを止める。どうやらうまくいったらしい。と、軍用の輸送機
ようやく方が付いた。
太陽が神々しく輝く。僕のAnDがその光を浴びる。
ボロボロになったAnDが。
僕は恐らく捕まるだろう。一般人が軍用の武器を使ったのだ。当然だろう。
だが後悔はない。テロの暴走を止めたんだ。
ただ、学校側に迷惑を掛けるかもしれない。
地球と宇宙を結ぶ一本の柱。宇宙エレベータ、エア。エアは日米合同で研究開発された宇宙エレベータだ。
宇宙エレベータは海上ステーション、静止軌道ステーション、高軌道ステーション、カウンター質量からなる。
海上ステーションは宇宙への玄関口。つまり海上にある、駅だ。エレベータの発着場。その海上都市が海上ステーションだ。そこから一度、静止軌道ステーションまで上がる。
静止軌道スショテーンは静止衛星軌道上に建築された駅だ。静止衛星軌道とは地球の自転と平行移動するポイントだ。地球上から見ると天空の一点に止まっているように見える。
その静止軌道ステーションはスペースコロニーへのシャトルや輸送船の発着場にもなっている。また、宿泊施設、商業施設などを完備しているため数日の生活が可能だ。
そのためもっともコロニーに接近した時に合わせてシャトルなどに乗り込む事が多い。余談だがこの静止軌道ステーションは観光目的で訪れる人も多く、単なる中継点という意味あいでは留まらない。
高軌道ステーションは静止衛星軌道よりももっと上、地球の外側に位置する駅だ。ここでは遠くの火星や金星などに人工衛星を送る事が主な目的である。そのためあまり多くの人は訪れない。研究者や開発者などが多く、観光客などは殆ど訪れない。そのため簡易的な宿泊施設などしかなく
高軌道ステーションが遠くへの輸送に適しているのには理由がある。地球の自転、遠心力を利用した加速力だ。要はハンマー投げと同じだ。投げる人が地球。ハンマーの鉄球が高軌道ステーションの輸送物資。その間、人と鉄球を繋ぐ鎖が宇宙エレベータだ。
といっても鎖自体、宇宙エレベータ自体が切り離される事はない。切り離すのはあくまで輸送物資のみだ。
今この宇宙エレベータ、エアの静止軌道ステーションに一人の女性がいた。歳はおよそ五十を超えた女性。顔に
その女性は静止軌道ステーションで地球への発進便を待っている。
その女性には付き添いがいたが、今は地球への土産を買いに行っている。
そこに一人の男が訪れる。その男はビジネススーツ姿で、髪型をスッキリとしたものに整えている。そしてサングラス、白い手袋をしている。
「失礼ですが、環境活動家の
その男は不適な笑みを浮かべる。椅子に座る女性――森園に視線を合わせるように腰を曲げ顔を上げる。
「どちら様?」
森園は顔を固くする。そして怪訝な表情を浮かべる。少し威圧感のある態度だ。
「申し送れました。私は
男、もとい高澤は微笑んだ表情とは裏腹に堅苦しい挨拶をする。
「どういったご用件かしら?」
森園は表情を崩す事なく尋ねる。
「私達に協力していただきたい」
高澤は真剣な表情で答える。
「私に出来るのは環境アドバイザーとしての仕事だけです」
森園はそれ以外の仕事を引き受けない。といった態度をとる。
「あなたは私達の要求を呑みますよ、必ず」
高澤は再び不適な笑みを浮かべる。
「どういう事?」
森園の表情が不安なものへと変わる。
「ご家族と会いたいでしょう?」
高澤はスーツの内ポケットから何かを取り出す。
「これは……」
森園は驚きのあまり立ち上がる。高澤はそれに合わせ視線を外さない。
そして森園は苦虫を噛み潰したような表情になり、唇の端を噛む。
一拍置いて、森園は高澤を睨む。
「私にどうしろ、と……」
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