第13話 一つの終幕

「愚妹の件もそうですが、貴殿にはもう一つ謝罪しなければならないことがあります」

「というと?」

「ディスカード卿、貴殿の両親を殺めたのは私の母です」

「な、」


 また急展開かよ。


「……放蕩の貴婦人とも呼ばれたあなたの母親が何故僕の両親を?」

「貴殿の父が全く靡かなかったどころか愛妻の自慢をした。放蕩の貴婦人が生涯得られなかったものを見せびらかした。故に妬まれ、殺された」


 ただの逆恨みじゃねぇか。


「親も大概理不尽な奴だったんだな……」

「あれらと血の繋がりがあるという事実は私にとってこの上ない恥だよ」


 心中は察する。


「こっちとしてはあなたが結構まともな人であることに驚きを隠せませんがねぇ」

「母や愚妹と同じく我欲を満たすためだけに生きる卑しきものだったら私はとうの昔に死んでいたさ。他のきょうだいたちと同じくね」

「他?あの理不尽女みたいのが他にもいたのかよ」

「皆種違いだがね」

「種違いって……何さらっととんでもないこと言ってんですか……」


 種違いって確かアレだろ、母親は同じだけど父親は違うって奴。


「そちらの彼と共に突き落とされたハイホース家の令息に腹違いの兄がいるようにそう珍しいものではないさ」

「しかしきょうだい全員が種違いはさすがに……」

「さてそのきょうだいたちは何故死んだと思う?」


 また唐突な質問だな。


「家督を巡るいがみ合い……でしょうか」

「それもありますが大半を消したのはあの愚妹です」

「……逆に何であんたは生き残れたんだよ」

「あれが面倒な執務を押しつける先として私を選んだのは自分が絶対的な優位を保てる要素を持っていたのが私だけだったからだ」

「優位?」

「私は妻を得ても子を授かれぬ身。後継を求めるのであれば愚妹の胎を借りねばならなかった」


 うわ、えげつねぇ。


「養子は……危険ですね。誑かされる可能性が高い」

「あの愚妹はそういうとこばかり聡いのが厄介でした」

「しかしあなたはそれを逆手に取って彼女を始末することに成功した」


 沈黙は肯定と同義、だったか。

 まぁ話の流れ的にそんなこったろうとは思っちゃいたが。


「……長話が過ぎましたね」

「最後に一つだけ確認を。ファタール卿、あなたはこれからどうするおつもりですか?」

「然るべき後始末を済ませた後、隠居をする予定ですよ」

「それはつまり家を断絶させると」

「ええ、私の代で終わらせます」


 そう告げた男の目は月が出てない夜よりも暗かった。

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