一介駄物
花邦イチ
伝家の宝刀
この街に超絶な人気を誇る老舗のうどん屋があるのをご存知ですか?
出汁へのこだわりもさることながら、店の命である麺は歯応えも太さも絶妙で多くの美食家を唸らせてきました。
千里の道も一歩からと言うように、きっと陰では並々ならぬ努力をしたに違いありません。
一つのことを成し遂げる時、最初に思い描いていたこととは異なる現実を迎えることも珍しくはないでしょう。
『時には違う道を楽しんだって良いじゃない♪︎』
店の壁に貼られた店主の座右の銘が語るように。
人気の理由はこんな店主の人柄にもありましたが、どんな人間だろうと人生にトラブルは付き物です。
ある日のことでした。
「おい、レシピをよこせ」
「どちらさまでしょうか?」
「お前の店のせいでうちは経営難になったんだ…うどんのレシピをよこせ」
「いやぁ、それは大変申し訳ないことをしました」
「俺は気が短いんだ。早くしろ」
「お、お待ちください。お金なら差し上げます」
「金よりレシピだ」
「それだけはどうかご勘弁を…!」
「手荒なことはしたくないが店の存続に関わるんだ」
「…お気持ちお察しします」
「うちのほうとうが売れなくなったんだから責任をとれ」
「そうでしたか…うちも最初は苦労したものです。
そうだ!代わりに良いものがありますよ」
「何だ?」
「創業以来から伝わる門外不出の宝です。
お金に困ってもこれだけは売らないように、と代々受け継がれてきたものです。
これのお陰で今の店があるのです。
お宅のようなお店が現れたら、その時は快く譲るよう言われていました。
どうぞお受け取りください。」
「それならとっととこの袋に入れて持ってこい」
「とんでもないものですので、絶対誰にも言わないでください」
強盗はそそくさと立ち去りましたが、逃げきれるわけもなくあっさり御用となりました。
けれど店主の証言によりすぐ釈放になったんだそうです。
こんなどうしようもない悪人を赦してやるなんて、心根が優しいにもほどがあります。
強盗はお咎め無しとなり、強奪品は警察に押収されました。
予想外の釈放に改心し、現在は店を立て直すため真面目に励んでいるんだそうです。
めでたしめでたし。
「おい、強奪品を確認しろ」
「なんだ臭うぞ?」
「うわっ、全部カビが生えて腐ってやがる!」
「これ…まさか『ほうとう』じゃないか?」
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