第47話 ドッチボール大会当日

 思わぬ人物からのメールに先ほどまでの眠さが一気に霧散した。


 スマホの通知欄には『沙也加からの新着メッセージがあります』と。


 ※※


 ドッチボール大会当日。


 昨日はベッドに早く入ったのにも関わらず数時間は頭の中がぐるぐるとしていてすぐには眠りにつけなかった。

 おそらく眠りについたのは深夜だったと思う。

 けれどそんな事実とは裏腹に、私の目は目覚ましが鳴った直後からすでに冴えきっていた。


「必要なものは……」


 昨日準備したバッグの中身を再度確認しながらぶつぶつと呟く。


「よし、完璧だね!!」


 敢えていつもよりも声音を弾ませて、自分の中にある不安をその上から他の感情で塗り潰す。


「たとえ沙也加と当たっても絶対に勝つ」


 一度そう発し、なんとか自分を鼓舞させた。


 ※※


 教室に入ると、そこにはまだ誰の姿もなかった。

 いつもの起きた直後のぐずぐずもなく早くベッドから出られたおかげで家を出るのが早くなってしまったせいなのもあると思う。


 教室に入り、一人でソワソワしながら数分ほどスマホをいじっていると、ようやく廊下から騒がしい声が聞こえてきた。


「だから、ちげぇっての!」

「いーや、絶対にそうだった」


 これは……沢西と咲島の声だと思う。


 いつものことながら沢西と話すときの咲島の雰囲気の違いに自然と笑みがこぼれる。


「おはよー、二人とも」


 教室の扉が開いた音がしたので、それと同時に彼らにおはようの挨拶をする。


「やっほー……ハル、ちょっときて」


 咲島が教室に入ってくるなり、何故か私に手招きをした。


「……?」


 厳しい口調ではなかったものの、自分が何か咲島に悪いことをしてしまったのではないかと思い彼女の後をついていく。その道中に最近の彼女との記憶を辿ってみる。

 けれど、いくら考えても思い当たる節はなかった。


「ちょいちょい」

「あっ、ごめん……!」


 無意識のうちにその場に突ったちながらボーッとしてしまっていたらしい。……目の前にある入口の札を見て少し驚く。


「トイレ……?」

「うん、そんな大したことじゃな……どうしたの?」

「え?」


 何故か私の顔を見ながら、心配そうに顔を歪める咲島。


「体調悪い……?」

「ううん。大丈夫だよ! 行こっ」


 私が咲島の手を引いてトイレの中に彼女を連れていく。


 体調が悪いわけじゃない──ただ、過去の嫌な思い出が一瞬頭をよぎっただけ。


 今、吐き気を催しているのはきっとそのせいだ。


「ここで止まって、鏡で自分の……──ハルがハル自身の顔を見てみて」


 スーハースーハーと深呼吸を何回か繰り返してから、咲島の言ったとおりに洗面台にある──大きな鏡に写っている自分の顔をじーっと眺める。

 すると、咲島がすぐに口を開く。


「目の下らへん」

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