第10話 プレゼント
私が声のしたほうに身体ごと振り向くと、
「大丈夫? あんな悠斗くんは初めて見たし、凄くカッコよかったよ。本当にありがとう」
「ホント? カッコよかった?」
悠斗くんはそう言いながら、目をお星さまみたいに輝かせる。
「うん。とっても」
すると、悠斗くんは胸の前に持ってきた腕の先で握り拳を作り、私の目の前で身体をよじり後ろを向いて「よしっ」と微かに呟いた。
その反応がとても高校一年生の男の子には見えなくて、私はどうしても弟の影を悠斗くんに重ねてしまう。
すると、悠斗くんが立ち上がろうとしたので、私は慌てて彼に手を差し出した。
「あ、いや。大丈夫だけど……」
「いいからっ。ほら、掴んで」
悠斗くんはそれでも一瞬
「ありがと……」
悠斗くんは私の目を見てそう発した。
「ううん……! 私のほうこそありがとう。というか、この場合は私のほうが『ありがとう』だよ」
悠斗くんは立ち上がったあと、またもや電光掲示板に目を向けた。
私がプレゼントしてほしいものがまだ決まっていないと思って気を遣ってくれてるのかなー、なんて思いながらも私は声を発する。
「決まったよ」
「あ、ホント? 何に決めたの?」
※※
私たちは先ほどの電光掲示板があった階と同じ階を歩いていた。
「着いたよ」
「ここでいいの?」
私は悠斗くんの顔を見て、一度「うん」と首を縦に振った。
「ちなみに……」
ちょっと言うのが遅すぎたかなー、なんて思いながらも。
「悠斗くん自身が私にプレゼントしたいな、って思うものとかあったりするの? もしあるんだったら、遠慮せずに言ってほしいんだけど……」
悠斗くんは少しの間逡巡したあとに
「まあ、あるっちゃあるけど……」
「え、あるの? 聞かせて聞かせて!」
なんだろう……。男の子が女子にプレゼントしようと考えるものとかってやっぱりちょっと気になるよね。
悠斗くんが言いづらそうに言葉を紡ぐ。
「……えっと――ネックレス? みたいなのとか……あ、やっぱ今の」
「えっ! そんな凄いもの買ってくれようとしてたの!?」
ネックレスと一口にいっても種類は色々あるけれど、でも私が今考えているものよりはたぶん高いと思う。それにしても、ネックレス……。さすがに悪いよね?
悠斗くんはなおも不安そうに口を開く。
「まあ、うん。やっぱりそういうごついのは嫌い?」
「ううん、嫌いじゃないよ。……それで、そのネックレスっていうのはどのようなものを買ってくれようとしてたの?」
「あの、実はそこまでは考えてなくて――だから、どんなのにするかはまだ決まってないんだけど……」
そっか。でも、同級生の異性から、こんなに私のことを想ってくれる人がいるなんて――昔の私だったら絶対に考えられない。
「わかった、全然大丈夫だよ! 私は悠斗くんがそんなに私のことを想ってくれているだけで、すっごく嬉しい! ありがとうー!」
「あっ、い、いや。全然、大丈夫……」
と言いながら、何故か悠斗くんは私から目を背けて……
「あっ! ご、ごめん。嫌、だったよね……?」
悠斗くんの優しさに触れて興奮してしまったあまり、私は彼の手を自分の胸の前まで持ってきてはギュッと両手で握ってしまっていたのだ。
「でも、その、全然嫌とかじゃないから。……こういうこと僕が言うのもおかしいとは思うんだけど――
「自信……?」
「うん、自信。宮森さんは宮森さんが思ってる以上に可愛いと思うし、誰よりも人想いだと思うから、自分にもっと自信を持って! なんとなくなんだけど、自信のなさが宮森さんの更なる幸福を逃がしてしまっていると思うから……」
……。
そう言われてみれば、そうかもしれない。私に足りなかったものは悠斗くんの言うとおり──自信、だったのかも。
私がもっと自信を持てば、今私の胸に仕えている数々の「不安」も少しは失くなってくれるのかもしれない。
「……ありがと。少しスッキリした」
その言葉に悠斗くんはキョトンとした顔をしていて、その姿がどうにも可愛くて私は笑い声を漏らしてしまった。
「なんで笑ってるの?」
それは心の底から疑問に思っているのが私にも伝わってくるような表情で。
「ううん。可愛くって……」
「可愛い……? え、何が?」
それでも、私は強引に彼の手を引く。
「なんにもないよ! 行こっ」
そして私たちはお店の中に入っていった。
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