小悪党ノートと裏切りの少女 11
しばらくして、シエラが装備を整えて合流した。
そのすぐ後、アーサーとエレノアもやって来た。
他にも多くの冒険者が、酒場『クラフトホーム』に集まってきた。
「おや、ノートもいるんだね?こう言うことは逃げている印象だったけど?」
「ずっとここに居たんだよ。それに、緊急クエストは通常のクエストと違って冒険者の義務。どうせ受けなきゃならないなら、なる早で情報を仕入れておきたいんだよ」
「はは、キミらしいね!」
「お前ら二人はこっちでいいのか?本部にいると思ったけど?」
「それはね――――」
アーサーが何かをノートに説明しようとした時、『クラフトホーム』のマスターがやってきて話を始めた。
「みんな、この緊急クエストに集まってくれて助かった!もう聞いている者もいると思うが、今回の緊急クエストは『スタンピード』だ!」
マスターの言葉を聞いても騒つく者は少ない。
すでに情報として知っている冒険者がほとんどだった。
騒いでいる者たちは、日が浅い冒険者かさっきまで街の外にいた冒険者だった。
「場所はC〜Dランク推奨のダンジョンだ。名前はついていないが、隠し通路が多いと噂があったダンジョン……街から徒歩で二日程度の距離にある」
ここでザワつきが起きた。
場所まで知っている者が意外と少なかったらしい。
そして、街からの距離が近い。
「おいおい、それってもうモンスターが街まで来ちまうじゃねぇか!?」
「いつ、どこでスタンピードは確認されたんだ!?」
「モンスターのレベルは?やはりC〜D程度か?」
矢継ぎ早にあちこちから質問がマスターに寄せられる。
ザワつきと相まって全く聞き取れない。
(あ〜あ、ぐちゃぐちゃになったな〜。マスター大変そう〜)
ノートが完全に人ごとのように傍観していると、隣のアーサーがマスターの側まで歩いて行き――――
「ちょっとみんな、落ち着こうか?」
たった一言。
それだけで血気盛んな冒険者が静まり返る。
やはりSランクであり、王家の血を引くアーサーの言葉には圧力と人の耳を引く力があるようだ。
「マスター、まずはモンスターたちはこの街からどの程度の位置にいるのかな?」
「え、あ、ああ……発見した冒険者たちから聞いた話だと、馬車を目一杯飛ばして五、六時間程度の位置だったそうです」
「ふむ……報告から大体一時間近くだよね?ってことは……」
「えぇ、行軍スピードは速くはないらしいけど、遅くとも半日でこの街に到着しそうです」
「半日……!?」とみんなが騒つく。
迎え撃つにも時間が足りない。人手も足りない。
「協会の他の支部や本部からの応援の戦力は?」
「そ、それがあまりにも急すぎて全く冒険者がいないそうです…………国の騎士とか、応援頼めないですか、アーサー様?」
「…………難しいね。騎士を貸し出すにも手続きが必要なんだ、緊急事態ってことで僕も掛け合ったけど、時間が足りな過ぎて準備ができない、そう言って貸してくれないんだよ」
今度は動揺ではなく怒りの声が冒険者たちから響いた。
アーサーも苦い顔をしているから、騎士たちの対応には不満なのだろう。
流石にノートもおかしいと感じた。
「冒険者は国にとって重要な収入源だろ?なのにそれを見捨てるかのような発言…………おかしくね?」
「裏事情だけど、騎士を管轄しているのは第二王子なのよ」
「……?それが何だよ、エレノア?」
「まぁ、その第二王子が冒険者不要論を唱えていて、野蛮で粗暴な冒険者がいなくても、もうキルリア王国は財政を保てるって自論を持っているのよ」
「え、そうなんですか?」
「詳しい内容はわからないけどね。でも、そもそもそう言っている理由は冒険者で人望もあるアーサー様への嫉妬と逆恨みよ。要するに、今回騎士の派遣を断っている理由は、アーサー様への嫌がらせよ」
「最悪……」
「王位継承争いにこのスタンピードが巻き込まれた訳かよ、くだらねー」
「え、え、えぇ?」
エレノアの話を聞いて、ノートとクレアは呆れたため息をつくが、シエラは戸惑っている。
アーサーとエレノアとともに修行しているが、王家のいざこざについては何も聞かされていないようだった。
(まぁ王家の争いなんて、シエラは関係ないしな)
騎士や王族への不満をぶちまけている冒険者たち。
ベテランらしき冒険者たちが周囲の冒険者に落ち着くように言っても聞かない。
この間にも、モンスターは街に迫っているというのに、収拾がつかなくなってきた。
(王家が絡んだ問題だからアーサーがなだめても説得力がない。これじゃまとめるのキツいな……)
他人事のように、この混乱をどう収めてスタンピードに立ち向かうんだろう、とノートが考えている。そんな時だった。
隣の少女が立ち上がって大声を上げる。
「いい加減にしてください!!」
シエラの叫び。
たかが小娘の叫び、だがそれでも冒険者たちは全員黙り、シエラを見る。
アーサーの静かな圧力とは違う、荒々しい圧力。
若さと底知れぬ潜在能力で、熟練の冒険者たちを黙らせた。
「今、誰かを責めている時間がありますか?それよりも、この集まっているみんなでさっさとスタンピードの対策を練るべきじゃないですか!?」
「わ、若造が簡単に言うな!スタンピードにこの程度の人数で――――」
「人手が足りないなら、私がその分を補ってみせます!!」
青臭いことを言うシエラ。
だが、誰も文句を言えない。
本来なら言われてもおかしくないが、先ほどの力ある叫びが、シエラの強さを表しており文句を言わせない。
近くに座るエレノアはそんなシエラを優しい笑顔で見守る。
そしてアーサーはフッと笑いが漏れる。
「そうだね。応援が来ないならその分は僕たちがもっと頑張ればいいさ」
「だ、だがアーサー様よぉ…………」
「前線には僕のパーティが立つ」
再び騒つく冒険者たち。
Sランクとはいえ、王族であるアーサーが一番危険な場所へ行くことを宣言することに驚いたのだ。
王族はふんぞり返って何もしないと考えていた。
アーサーが違うことは、今までの行動を見ていてわかっていたが、それでもまだ心のどこかでそんな偏見を持っていた。
「いや、そんな、アーサー様が前線って…………」
「今この場で僕よりも上の実力者がいるなら譲るよ?でも、いるかい?」
当然だが、名乗りを上げる冒険者はいない。
肩書ではない、実力を伴う最上位であるSランク冒険者のアーサー。
今彼を上回るものはこの場に……いや、この街にはいない。
実力を見れば、適任なのだ。
「パーティってことは、あの『炎姫』エレノアさんも?」
「もちろん!いいよね、エレノアさん?」
「無論です」
力強いエレノアの応えに冒険者たちは湧き上がる。
『神剣』アーサー、『炎姫』エレノア――――
二つ名持ちのSランク冒険者がいることに、心強さと希望を見出した。
「あと、最近パーティに入ったシエラも期待できるよ。ランクはCだけど、戦闘の実力で言ったらBの上位はいくと思うから」
「あ、アーサー様!?」
アーサーの言葉にシエラは恥ずかしそうに身を縮める。
とても強そうには見えないが、先ほどの威圧感とアーサーの言葉を聞いて他の冒険者たちも嘘ではない可能性を十分に感じている。
「い、意外といけるんじゃないか?国の応援がなくてもよぉ」
「だ、だな。よくよく考えると、Sランク二人にBクラスの実力者が前線で戦うって結構恵まれている方だろ?」
「ダンジョンもCかDランク相当だし……お、俺たちだけでも何とかなるかも!」
「そうだぜ!国なんてそもそも頼れるなんて思っちゃいねぇしな!」
「俺たちの街だ!だったら俺たちで何とかやろうぜぇ!!」
「……お前、王子の前でよく言えるな?」
「あ、ち、違うんすよ!?アーサー様は!!」
そう言ってみんなが笑う。
シエラの言葉をきっかけに、冷静さを取り戻して場の緊迫感が少し和らいだ。
そしてどんどんと建設的なスタンピード対策に話題は移っていった。
「ふぅ……シエラちゃんのおかげで前向きに話が進んでよかったー」
「だな。今も話の中心になってやがる」
アーサーとエレノアを中心に対策を練っている冒険者たち。
その中心にシエラも混じっている。
この間まで底辺の冒険者だったとは思えない。
実力だけじゃない、カリスマ性も身につけているようだった。
そんな様子をノートとクレアは傍観しながら会話をしている。
「あいつもアーサーと一緒だな。所謂『持っている者』だ。
これからもトラブルを引き寄せ…………だけど解決する力を持っている。
大変な人生そうだね〜」
才能豊かなことはいいことなのかも知れない。
だが、平和に穏便に、楽しく金を稼いで、楽に暮らしたいノートにとっては羨ましさはなかった。
「っていうか、あんたも同じパーティなのに名前呼ばれなかったね」
「うるせー。オレは戦闘専門じゃないの。アーサーも流石にそこは理解して言わなかったんだろ」
ここにいる連中の中には、ノートのことを知っている者もいるので出しても士気高揚の意味はない。
「そういえば……」
「ん?どうしたのノート?キョロキョロして?」
「いや…………」
これだけシエラが目立てば騒ぎそうな冒険者たちに心当たりがあったノート。
元シエラのパーティメンバーたちだ。
だが、そんな騒がしい声はなかった。
なので改めてその姿を探したが、見当たらない。
(この街にいないのか、あるいは………………)
根拠はないが、嫌な予感がしたノート。
そうこうしている内に、スタンピード対策の話し合いはまとまった。
まもなく、ウィニストリアの街に迫る危険に冒険者たちが立ち向かう――――
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