制作裏話(Fルート)

「アカウントを開設した時点で、書籍では再現不可能な、投稿小説の形式だからこそ出来る仕掛けを考えていました。公開日時や編集日時が明らかになるので、ライブ感を出せるというのがそれに当たるでしょうか。人気作品なら、読者からの声に内容で応えるようなことも視野に入ると思いますが、私のPV数では望むべくもなかったです」

「現実の世界で、それなりに近しい知り合いが別の知り合いを殺害するという事件が起こった時、どんな感情が惹起されると思います? 驚くより、怖いというのが先だったんですね。たぶん、人生で一番怖かったです。究極的には、例の『カフェ巡り』の話がなかったとしても、怖かったと思います。この体験で感じた恐怖を、何とか他の人間にも伝えたかったんですけど、別の章で書いた通り、小説は現実じゃないので、フィクションでは到底無理だな、と。少なくとも私にはそういう信念があったので、ぎりぎりまで現実に寄せた『実話系怪談』を、後先考えずに書き始めました」

「すみません。後先考えずに、は嘘です。書き始めた時点で、オチは決めていました。オチの方向性が決まっていたからこそ、ライフワークでもあったエッセイ『だから僕は○○を辞めた』の更新をすぐに辞めました。同時に書いていたら絶対に自分自身が破綻すると思ったからです」

「本作品の本来のオチは、。これです。虚構の世界でありそうな建付けが、本当にこの世界で起こったら、怖くないですか? 小説投稿サイトで、下手な素人のホラー作品追ってたら、その作者がTVのニュースで流れてる殺人事件の被害者だったら、ぞっとしますよね。気付く人がいたら、悪い意味でバズるんじゃないですか。その頃には私はもういないですけど」

「いや、わかりますよ。そんなに都合よく自分の配偶者に殺されるなんて出来るわけがない。それはもう、仰る通りです。永遠の愛を誓ったはずの人間から狙い通り滅多刺しにしてもらって第三者に最大級の恐怖を提供しようなんて、少し虫が良すぎます。逆なら簡単ですけど、他人は思い通りに動いてくれないですから。たぶん無理だろうな、と思ってました。まあ、私自身の行いが原因で夫婦生活が破綻して酷いことになるのは時間の問題だと思っていたので、殺されないにしろ、痛い目を見るはずだという確信はありました。後は、カクヨム上で、という点だけが課題でした」

「他の章でも言及しましたが、小説をサイトに投稿するって、健全過ぎるんですよね。まず、承認欲求がないとそんなことしないですし。それ自体が病的なケースはあるにせよ、承認欲求があるという時点で、世界と関わろうという意思が見えるので、作者自身が自壊していくような内向きの異常性は表現できないわけです。どんなに異常っぽいことが書かれていても『この人、これだけの文章をカクヨムで公開できるんだよな。何なら、誤字脱字がないかチェックしたり、時間指定機能を使って公開時間を選んだりしてるんだよな』と考えた時点で、終わりです。そんな物語、怖いわけないんです」

「あと、作者が殺されて作品が途絶したことも微妙に表現しにくいですよね。掲示板やSNSなら、『おっと、誰か来たようだ』とか『助けt』みたいなメッセージを残して殺害直前の不穏な感じが出せるかもしれない。カクヨムでやると、百歩譲って作劇上の表現としてはありかもしれないですけど、そんな状況になり得ないので、リアリティは皆無です」

「だから、その対策として、遺書を書いてあるんです」

「本作品の『』という章なんですけど。『死神の投げ銭』を公開したような時期から、既に内容は書き上がっていて、予約投稿で公開日時を翌月の1日の0:00に設定してあるんです。で、自分が生き永らえていたら、その月の最終日に、公開日時を一か月後ろ倒しにする。それを忘れずに繰り返しています」

「いや、勿論これも恐怖を惹起するための仕掛けの一つですよ。この話を読んでいる人だけは、嫌な気分になるじゃないですか。翌月の頭に『貴方がこの話を読んでいる頃には』が投稿されたら、作者がついに死んでしまったか、とぎょっとしますよね。カクヨムの仕様を使って、そういう悪巧みをいっぱい考えている、という話です」

「死なないです。人間は意外としぶといので、多分私自身も。自分から死のうとは、少なくとも執筆している今の時点(2023年12月22日)では思ってないです。社会生活に戻れるかどうかの自信もないですが」

「カクヨムの懸賞が当たって変な章(『カクヨム運営に命を救われた話』)をアップしてみたのが良かったんですかね。死ねない理由が次々と出てきました。あの後、S・Tと、『今迫直弥』の共同名義人の一人でもある古い友人から連絡が来たんです。S・Tなんて、何回この現実世界にいない設定にされても、どれだけの嘘をカクヨム上に書かれても、懲りずに関わってくれますからね。ありがたい話です。いや、冷静に考えるとどうなんでしょうね。最低な人間が何をやらかしても助けてくれる人って、当人からすればありがたいですけど、世界の敵の仲間、みたいな意味では公益を損なってますよね」

「『悪人なら死んでも良い』以上、私もいつ死んでも良い側だと思ってますが、どうなんでしょうね。私のやったことは、万死に値するのか、そこまでのことでもないのか。少なくとも別名義のSNSでこの事実が明らかになったら炎上は間違いないはずなので、まともな行いではないでしょうけど」

「空いている時間が増えたので、最近は本当に無駄なことばかり考えています。救いの本質、みたいなこととか。人間が別の誰かを救おうと考えること自体が傲慢だったのかもしれないな、と。……Yの話ですけどね。誰かの人生を可哀そうだと考えるのは、上から目線なんですかね。あるいは単に優先順位の話なんでしょうか。自分の家族を幸せにすることを第一に考えて、他の人間を助けるかどうかはその後に考えるべきだ、みたいな」

「Yは元夫に暴力を振るわれていて、それが原因で別れたんですけど、……その点では被害者なんですけど、自身が娘に手をあげるタイプの人間でもあるんです。……人間って、難しいですよね。聖人君子なんていない。Nもそうでしたよね。真の意味で加害者だの被害者だの、わかりやすい純粋な役割を担えるのは、架空のキャラクターだけですよ。……子供ですら、そうです。私は、Yの娘に財布からお金を盗まれたことが何度かあります。救うべき相手が、必ずしも救いたいと思える姿でいてくれるわけでないんですね。妻が元気だった頃、まさにそのことを嘆いていたのを思い出しました。今考えれば、心を病むきっかけの一つだったのかもしれません。現実世界は本当に生き辛い」

「ダメですね。作品と直接関係ない怨嗟の言葉しか出てこなくなってしまいました。まあ、元々この章でどうしても伝えたいことがあったというわけでもないです。S・Tと、古い友人が、『何でもいいから落ち着くためにも何か書いていた方が良い』というから、書き始めたんです。そして、書いたからには公開する、というのは、もう、私のルーティーンみたいなものなので」

「……誤解しないでもらいたいんですが、S・Tがこの世界に実在しないことは、私も気付いて書いていますよ? 私だってそこまでおかしくなっていません。でもそれはもう、カクヨム上で作品になった時点でどうでも良い話じゃないですか。Nだって、私の妻だって、Yだってその娘だって、『今迫直弥』を構成していたという私の仲間たちだって、実在しようがしまいが、この作品は成立するじゃないですか。貴方が、ニュースで私が殺害された旨を確認できる世界線にならなかった以上、この実話系怪談は完全なフィクションと何一つ変わらないんです。だから、一つくらい本当に架空の出来事を混ぜてもいいじゃないですか」

「こんなことを書いて公開したら、またに怒られるのは目に見えているんですが、それでも公開します。執筆時点の今日(12月22日)、実は、彼女の誕生日なので。そんなリアルな話は誰も得しないですし、誕生祝いにしてはあまりにも支離滅裂な内容ですが。せっかくなので、今日はもうお酒を飲むのをやめにして、ホールケーキを買って一人で食べようと思います」


「……おっと、奇しくも本当に誰か来たようなので、そろそろ終わりますね」




(追記:投稿同日の15:00頃、ありがたいことに、ご本人様から本文中の誤字の指摘がありましたので、修正を行いました。内容に変更等はありません)

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