第8話 独占欲(8)
だい兄ちゃんは、海外で生活できるくらいだから英語がペラペラだ。本人は「日常会話程度だよ」って言うけれど、喋れない私からしたら相当すごいと思う。
六限が終わったらちい兄ちゃんと一緒に帰れると思うと、数学の授業なんて頭に入らない。何度も何度も時計を見ては、進まない分針にもどかしさを覚える。
ようやくあと十分で授業が終わる時間になってからが、一番長い。みんなにとってはなんてことのない時間かもしれないけれど、今の私にとってはこの十分が一時間に匹敵するんじゃないだろうか。
あ~もどかしい!!!早く終わってくれ~!!!今にも発狂しそうだ。って、どんだけちい兄ちゃんが好きなんだって話なんだけどね。
そうこうしていると「キーンコーンカーンコーン」と、六限の終了を知らせるチャイムが教室内に響いた。
「はい。じゃあ今日の授業はここまで」
やっふー!終わったー!叫び出したい気持ちを抑えて、誰よりも早くペンケースと教科書をバックにしまう。終了の号令がなされたら、ダッシュで教室を飛び出そう。
「起立、礼っ。じゃあ各自掃除を始めるように」
その瞬間、私は机の上にがくっと項垂れた。そうだった……。まだ掃除とHRがあるんだった……。数秒ほどそうした後、「ふんっ」と気合を入れて身体を起こした。そしてがくっと肩を下げたまま、掃除の持ち場である女子トイレへと向かう。
「はあ~」
「どうしたの?」
くりくりおめめの愛子が、瞳をまあるくさせて話しかけてきた。愛子も女子トイレの担当だ。
「え?何が?」
「今溜め息ついてたじゃん。幸せ逃げちゃうよ」
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