第2話
私は証拠不十分ということで釈放になった。だが完全に容疑が晴れたわけではない。この手で私の潔白を証明しなければならない。だが香川が殺され、麻薬のシンジケートも内通者への手掛かりも失ってしまった。
捜査が行き詰る中、捜査会議で倉田班長が言った。
「こうなったら視点を変えるしかない。日比野が逮捕されたのはどうも出来すぎている気がする。」
「確かにそうです。香川がビルから転落したとき、城南署の片野刑事と西谷刑事がちょうど出くわすとは偶然すぎます。」
その現場を見ていた藤田刑事がうなずいた。
「そのことについて、彼らはどう言っているんだ?」
「2人とも口をそろえて、ある容疑者の張り込みだったと言っています。彼らは路上で張り込んでいたようです。」
「何の事件だ?」
「傷害事件です。容疑者のアパートがそのビルの近くにあるとのことでした。張り込み中は北条ビルの張り込み部屋に詰めていた赤田係長から指示を受けています。それは確認しました。」
班長の疑問に藤田刑事が答えた。
「それは妙だな。いくら悲鳴が聞こえてからって2人とも現場を離れて来るか・・・」
「確かにそうですが・・・」
ただそれだけでは2人が関わっている証拠にはならない。
「片野刑事と西谷刑事に話をもう一度、聞いてみるか・・・」
倉田班長はそう呟いた。
◇
私は倉田班長とともにあの現場に行ってみた。外壁がはがれかけた古いビルに錆びかけた鉄の外階段がつながっていた。私はその階段を上がって行った。あの日は香川に気付かれないように音を立てないように上って行った。そして4階の踊り場まで来た時、香川が突き落とされ悲鳴がしたのだ。私は急いで階段を上り、5階の踊り場に着いた時にはまだ犯人の男がいた。そこでその男ともみ合いになり、私は突き飛ばされて頭を打った。それで男を見失った。それから階段を下りたが男の姿はなかった。2人の刑事も姿を見なかったという。
(一体、あの男はどこに・・・)
私は辺りを見渡した。外階段から中のビルに入ったか・・・でもどの階のドアも施錠されていて外から中には入れない。私はゆっくりと1階に下りてその外階段を見上げた。するとその階段から人が降りてきた。確か、外階段には誰もいなかったはずだが・・・私は下りてきた人に聞いた。
「あなたたちどこから出てきたの? 外階段につながるビルのドアから?」
「いいえ。屋上からよ。屋上には外階段で行けるの。」
それを聞いて私はまた外階段を上がった。5階の上は屋上だ。その外階段で屋上には出られたのだ。
(もしかして私は男が下に逃げたと勘違いしただけで、上に逃げたのかも・・・)
私は屋上を歩いた。そこからのドア施錠してあり、やはりビルの中には入れない。私は柵沿いに歩いてみた。
(おや?)
少し歩くと隣のビルの屋上と並んでいる部分があった。ここなら隣のビルに渡れる。
「班長! 来てください!」
私は一緒に来ていた倉田班長を呼んだ。
「どうした?」
「ここからなら隣のビルに渡れます。」
私がそう言うと班長はすぐに柵を越えて隣のビルに移った。そして奥にあるドアに手を伸ばした。
「ここは鍵が開いている。犯人はここから逃げたのか!」
隣のビルの屋上のドアは開く。これで犯人の逃走経路がわかった。班長は戻ってきて私に言った。
「謎の一つは解けた。後は犯人だが・・・」
「もう目星はついています。隣のビルは北条ビル。その1室を城南署の捜査課が張り込みに使っていました。」
「だとするとやはり内通者が犯人か。」
「多分・・・」
私はまた辺りを見渡した。この屋上を鑑識は調べていない。もしかしたらここに手がかりがあるかもしれない。私は必死にそこに残されているものを必死に探した。すると水たまりがやけにキラキラしているのに気付いた。
「何だろう?」
よく見ると銀色のライターだった。もしかしたら犯人の遺留品かもしれない。班長もそう思ったらしく、慎重にそれを拾い上げてビニール袋に入れた。
「とにかくこれを鑑識に出そう。持ち主がわかるかもしれない。」
とにかく事件を解く手がかりができた。
◇
藤田刑事は城南署の捜査課に言った。そこには片野刑事と西谷刑事もいた。彼らは藤田刑事の顔を見て嫌そうな顔をした。
「また、あんたか。今度は何だ?」
西谷刑事はうんざりしてそう言った。
「ちょっと確認したいことがあって。あの夜、2人は近くの道路で張り込みをしていたんだな。」
「ああ、そうだ。それは何度も言ったじゃないか。」
「そして悲鳴が聞こえた。その時、どうしたんだ?」
「すぐにでも駆け付けたかったが、張り込み中で持ち場を離れることができない。どうしようかと思っていると、少し時間が経ってから赤田係長から無線連絡が入った。『何かの事件かもしれないから2人で見に行ってくれ。容疑者宅は自分が窓から見ているから大丈夫だから』と。」
藤田刑事は少し意外な感じがした。
「悲鳴がしてすぐじゃなかったのですか?」
「ああ、少し時間があった。それで駆けつけてみると転落した男の死体があり、上からあんたのところの女刑事が降りてきたのさ。」
片野刑事はそう言った。するとその時、
「西谷! 片野! すぐ来い!」
と不機嫌そうな声が響いた。
「係長だ。最近、機嫌が悪くて仕方がない。」
「張り込みで愛用のライターをなくしてからさらにイライラしているんだ。百円ライターじゃ使いにくいって! じゃあな。」
片野刑事と西谷刑事は係長のもとに向かった。藤田刑事はやはりあのことが気になっていた。
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