-3年前-

「おかあさま!はやくきて!おとうさまがまってるわ!」

「ふふっわかったから、そんなにあわてなくていいのよ?」

4歳のときのこと。まだ、ティナリアに母がいたとき。

「みて!レネとつくったの!おとうさま、おかあさま、たべてくださる?」

満面の笑みでレアチーズケーキを見せるティナリア。もちろん母もアルベルトもそれを食べた。

母は妊娠中だったが、そこまで悪阻はひどくなかったので、レアチーズケーキを食べることができてしまった。


--とても、美味しかったそうだ。


ティナリアは、妊婦に食べてはいけないものがあることを知らなかった。知りようがなかった。周りの誰も、知らなかったのだ。

この世界の教育水準は、現代日本に比べるとものすごく低い。例を挙げるなら、小学校卒業レベルの算数が、こちらの世界では高等教育になる、という具合だ。

妊婦に食べてはいけないものがあることを知っていたのは医師くらいだが、そこまで危険だと考えられていなかったため、特に警告もしていなかった。

だから誰も気づけなかった。生のチーズが妊婦に及ぼす影響に。



胎児は、流産した。感染してしまった。

そのショックで心を病み、母も、亡くなった。

……運が悪かった。





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