第42話 強化週間・五日目(深夜)
「ん……」
不意に目が覚める。
時刻は……まだ深夜かな?
周囲は既に真っ暗で、溶岩の赤い光が遠くから僅かに見える。
――マシューとの決闘まで、残り一日。
まだ日が昇ってこそいないが、今日が実質的な強化週間の最終日となる。
少しの時間を惜しんだ俺たちは、最後の追い込みをかけるためダンジョンに近い場所で野宿していた。
周囲にはモンスター避けの聖水も巻いておいたし、襲われる心配もない。
「きゅーん……すぴー……」
「むにゃむにゃ……スピカちゃんファイトですぅ~……」
簡易ベッドを敷いて並んで寝転がり、かわいらしい寝息を立てるスピカとソリン。
きっと夢の中でも特訓してるのだろう。
もう十分ヘロヘロだろうに。
皆本当に頑張り屋さんだ。
「……あれ? ロゼは……?」
気が付くと、簡易ベッドの一つが空になっていた。
そこはロゼが寝ていたはずの場所である。
「どこ行ったんだろ……」
俺は置き上がって、彼女を探し始める。
聖水を巻いた安全エリアの外に出て、モンスターに襲われでもしていたら大変だ。
いやまあロゼなら心配ないとは思うが、一応な。
そして夜道を少し歩くと――付近を流れていた小川のほとりに、その姿はあった。
「……」
ロゼは剣を構え、目を閉じ、神経を研ぎ澄ませていた。
僅かに聞こえる川のせせらぎ、
夜空で煌めく三日月と星々、
それを背景に佇む彼女は、目を離せないほど美しい。
「――!」
構えていた剣を、振るう。
振るう、振るう、振るう――。
流れるように、
舞うように、
羽ばたくように、
銀の刃に月光が反射し、一筋の閃光となってキラリと光る。
速く、鋭く、滑らかで――
そんな彼女の剣技に魅せられ、俺は茫然と視線を奪われていた。
「――あら? ノエルじゃない」
すると、遂に彼女がこちらの存在に気付く。
ノエルという名前を呼ばれて、俺はようやくハッと我に返った。
「どうしたの? あなたも眠れない?」
「あ、ああいや、なんとなく目が覚めちゃって。そしたらロゼの姿が見えなかったからさ」
「ちょっと剣を振ってたの。昼間にモンスターを相手にしてただけじゃ足りなくて」
……えぇ。
あなた、言うて結構な数のモンスターをボコボコにしてましたよね……。
そりゃスピカに経験値を積ませるために、全力は出してなかったんだろうけどさぁ……。
恐ろしや……。
「そ、それでもちゃんと休まなきゃ! ロゼは決闘が控えてる身なんだからさ」
「……うん」
彼女は小さく答え、剣を鞘に納める。
どこか憂鬱そうな表情で。
俺は彼女の傍まで歩み寄り、
「……決闘が怖いかい?」
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