第40話 強化週間・三日目①


 ――目標は〔炎〕属性レベル10以上。


 それだけあればアース・ドラゴンに十分なダメージを与えることができる。


 ……とはいえ、強化週間に入る前のスピカは〔炎〕属性レベル5。


 たった一週間で倍に上げねばならない。


 現状では徐々に上がってきているし、順調だと言っていいのだが――


「スピカちゃん、お願い!」


「ぐるるる……ぎゅーん!」


 バジリスク目掛けて〔ファイヤ・ブレス〕を放つスピカ。


 攻撃は命中し、撃破に成功する。


「お疲れ様。それじゃ”バクダンザクロ”よ」


「きゅーん……」


 二、三口ほど”バクダンザクロ”を齧って――ピタリと食が止まるスピカ。


 なんだか食欲がなさそうだ。


「……? どうしたの、スピカちゃん?」


「……身体が”バクダンザクロ”を受け付けなくなってきてるんだ」


 やっぱり、と俺は思う。


「え?」


「毎日同じ物を食べるっていうのは、すごくストレスになるんだよ。当然飽きも出る」


 ――どんな生き物でも、同じ物ばかり食べるのは苦痛が伴う。


 一流のアスリートは摂取エネルギーを調整するために、試合前一ヵ月は毎食チキンとブロッコリーだけ食べるなんて場合もあるにはある。


 だがそれは相当に我慢をしているし、誘惑を抑え込んでいるとインタビューで語っているのを見たことがあるんだよな。


 ましてや”バクダンザクロ”は味も食感も独特な果物だ。


 珍味として月に一度食べるならまだしも、毎日食べ続けるのには適していない。


 むしろスピカはよく三日間も文句を言わなかったと思う。


 本当に我慢強い子だ。


「そ、そんな……!」


「それにモンスターとの連日連戦で疲労も溜まってるはずだ。身体は疲れてるのに食べられない、そうだよなスピカ」


「きゅきゅーん……」


 でも頑張って食べるよ……!

 と意気込んでくれるスピカ。


 うぅ、なんて健気な子……!

 いい子過ぎて涙が止まらないよ……!


 おお、大いなる女神フレイヤよ!

 この優しき子に祝福あれ……!


 ――と、イカンイカン。

 祈りを捧げてる場合じゃないよな。


 スピカの気持ちは嬉しいけど、ここでムリをさせ過ぎてはいけない。


 可能な限り彼女のストレスを軽減させてあげる必要がある。


 そこは調教師テイマーの腕の見せ所なんだが――


「ノエルさーん、お待たせしました!」


 俺たちの下へ、カゴに色々な材料や道具を入れたソリンが走ってくる。


 お、ナイスタイミング。

 この到着を待ってたんだ。


「お疲れ、ソリン。お願いした物は揃ったかい?」


「はい! 小麦粉、砂糖、ベーキングパウダー、メープルシロップ、バジリスクの卵、カウカウミルク、カウカウバター……。それとフライパンなんかも持ってきました!」

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