第26話 改めてお買い物


 その後、ソリンはハーブを使って治療薬を調合。


 想像通り必要材料は揃っていたらしく、比較的に容易に作れたようだ。


 薬をコボルトたちに振る舞った彼女は以後も何度か集落へ足を運び、その度に治療薬を調合する。


 しばらく薬を飲んでいたコボルトたちはみるみる回復していき、最終的に全員が完治。


 集落から”狼斑点”は消え去った。


 彼らはソリンにもの凄く感謝して、なにか恩返しをしたいと申し出る。


 けど彼女はそれを「薬師として当然のことをしたまでです」と断り、代わりに襲った商人たちへしっかり謝罪してほしいと話す。


 学園を通して商人ギルドに事情を説明した結果、彼らも謝罪を受諾。


 幸いなことにコボルトたちは一度も商人の命を奪っていなかったため、集落を根絶やしに~みたいな最悪の事態にはならなかった。


 それと襲われた商人たちの中に「あのモフモフをどうしても憎めないんです……」と供述する者が少なからずいたんだとか。


 なんかわかる気がするなぁ……。


 ただ罪に問わない代わりに、今後『テミナ街道』を通る荷馬車の護衛をコボルトたちが担うという形で落ち着いた。


 奪ったハーブの料金を労働で払う、という意味も込めて。


 これにてハーブ騒動は一件落着。

 めでたしめでたし。

 

 ――で、一方俺はと言うと、


「今日も市場バザールは凄い人だな~。な、スピカ」


「きゅーん!」


 再びスピカと市場バザールを訪れていた。


 そして、もう一度最初に訪れた青果店へと足を運ぶ。


「すみませーん」


「いらっしゃい。――あら、あの時の調教師テイマーさん。今日もドラゴンちゃんかわいいわねぇ」


「えへへ、どうも」


「きゅーん♡」


 褒めてくれて嬉しい!

 とちょっぴり照れくさそうなスピカ。


 ふふ、かわいいだって。

 親として鼻が高いぞぉ。


「それで――今日は入ってますか?」


「ええ、やっとハーブが入荷したの! しばらくは供給も安定するらしくて、一安心だわぁ」


 嬉しそうに笑う青果店の女将。

 彼女としてもありがたいのだろう。


 さあて、それじゃ俺も胸を張って買い物を楽しもう。


「それじゃあ、色々とハーブをください。それから野菜も幾つか」


 俺はここで数種類のハーブをまとめて購入。


 具体的には”ハートミント”・”ゴールドバジル”・”ランスルッコラ”等々。


 さらに料理に使う野菜等も調達した。


 この後も市場バザールを巡ってあれこれ入手し、ひと通り買い物が終了すると――学園の薬師たちがいる薬学塔へと赴いた。


「――ソリン、いるかい?」


 薬学塔の一室には、あの綺麗な三つ編みの後ろ姿が。


「あ、ノエルさん、こんにちは! それにスピカちゃんも!」


「きゅーん!」


 こんにちはー!

 と彼女の傍まで飛んでいくスピカ。


 スピカも大人しい性格のソリンを気に入っているようで、今では気を許せる間柄。


 すっかり仲良しだ。


「どうだい、薬師の作業は? ハーブがちゃんと供給されるようになったみたいだけど」


「ええ、今では”ホーリーミント”や他の材料にも困らなくなりました。これもノエルさんたちのお陰です」


「だってさスピカ。よかったな」


「きゅぅーん!」


 えへん! もっと褒めてもいいのよ!

 とスピカは自慢気な顔をする。


 実際、彼女がケルベルスを倒してくれなかったら今頃どうなっていたか。


 まったくスピカ様々である。


「でも、一番のお手柄はソリンだと思うけどな」


「え?」


「キミがコボルトたちの病を治せなかったら、事態は改善されなかったかもしれないし」


「そ、そんな……! 私は薬師としてできることをしたまでで……!」


「だとしても、俺はすごく感謝してる。本当にありがとう」


「は、はうぅ……」


 恥ずかしそうに顔を赤くするソリン。


 しかし流石はメインヒロインの一人。

 羞恥の顔がとてつもなくかわいいぞ。


 ――ま、それはそれとして。


「ところでさ、この後予定あるかい?」


「え? い、いえ……」


「ならよかった。感謝の印に、キミとスピカに”ハーブ料理”を振舞いたくてさ」


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