第五話 「覚悟」

 静恵先生・日黒先生サイド。現在位置、二年校舎裏。 

 静恵先生と日黒先生は2年B組の教室の窓から飛び降り、3年校舎へと向かう。 

 ちなみに、先生達が3階から落ちても無事なのは、巧みな魔力操作で、足の衝撃を和らげているからである。特に魔力量などは殆ど関係ない技術なので、練習すれば誰でも身に付けることが出来る技術だ。まあ滅多に、実戦で使用する機会は無いのだが……

「着地早々、敵さん達の御出座しだね」 

 目の前には、敵が校舎裏から壁を越えて乗り込んできている。 

「白石達の負担の軽減のためにも、ここで出来るだけ食い止めた方が良いんだろうけど……」 

 静恵先生は3年校舎を見る。 

「事件の根元の方を早く解決させるのが先決かな…… 私達の邪魔してくる奴のみ相手しよう! その他は無視で構わない」 

「了解‼」 

 静恵先生らはそのまま3年校舎まで突っ切る。 

「「行かすかよ‼」」 

 何人かの黒服集団が、道を塞ぐように銃を発砲させる。 

「邪魔だ」 

 日黒先生の分身で、5人で発砲を苦無で弾き、道を塞ぐ敵をまとめて相手をする。 

「最終手段の為の魔力は、残しておいてね」 

「問題ないです」 

 そんな会話をしていると、剣を持った集団が、静恵先生目掛けて斬りかかってくる。 

「水源流。上流・『泉』」 

 静恵先生の剣から、湧き水の様に大量に溢れだす。そのまま剣を振るうと、文字通り先生の間合いは、一瞬で泉と化し、敵を一掃する。 

「行こう!」 

 二人は残党を無視して、そのまま走り続ける。 

 その美しく、全く隙の無い剣技を見た周囲の敵は、静恵先生を倒すのを諦めるように2年校舎へと入っていった。 



 白石・水沢サイド。現在位置、2年校舎二階階段途中。 

「私と夏芽で敵を倒すから、みんなは後ろからの攻撃に気を付けつつ、戦闘不能の敵を捕獲して」 

「「了解!」」 

 白石達は敵に注意しつつ校庭へと避難をしながら、敵を無力化していく。すると外から爆発音が鳴り始める。 

「外でも本格的に戦いが始まったか……」 

 これで事件が表沙汰になるのは間違いないだろう。現状で出来る最優先事項は、生徒を無事に生還させること。 

 それを踏まえて、この局面で重要になってくるのは、『敵の目的』だと白石は考える。 

(出来れば早めに敵の首謀者を特定したいけど……) 

 敵の標的が静恵先生なら、恐らく自分との直接対決は可能性として低いだろう。 

 しかし本当に静恵先生が標的なのだろうか? そもそも何故、静恵先生を狙う理由があるのか? 

(まだわからないことが多すぎる……) 

 白石が敵の狙いを模索していると、下の階から銃弾が飛んで来る。 

「まだ生き残りがいたようね、もしくは新たな増援か……」 

「その両方だね」 

 水沢が【透視】を使いながら敵の位置を視認する。 

「下の階からは5人が攻撃参加、8人が隠れて待機。まだまだ敵が乗り込んできそう……」

水沢のスキルがある限り、待ち伏せは意味を持たない。 

「全員まとめて……は、流石に無理か。先ずは前に出てきている奴から倒そう」 

 白石は手に魔力弾を作り、それを5分割に分ける。白石の魔力弾は1~10分割まで分けることが可能だ。11分割以上にする事も可能ではあるが、そうすると全ての弾を自在に操作するのが難しくなってしまう。 

 逆に言えば、白石の演算能力をもってすれば、現状10分割までなら全ての弾を自由自在に操ることが出来るということだ。 

「校舎内は元々、自動式防御魔法が満遍なく敷かれているから、少し派手にやっても大丈夫なんだよね‼」 

 白石はそう言いながら、5分割にされた魔力弾を容赦なく敵に放っていく。 

…… 

 四音・正真サイド。現在位置、2年校舎三階廊下。 

「よっしゃー行くぞー‼」 

 白石と別れた後、正真は狂犬のように吠えながら敵に突撃する。敵側は階段の影に隠れながら、拳銃で牽制する。 

 しかしその弾を正真は拳で殴りつける。 

「おらおらおらーー‼」 

 正真はどんどん近づいていく。牽制が無意味だと思った敵側は顔を出し、そのまま真っ向から銃を発砲する。正真はその殆どの弾を、素手で処理していく。 

 敵の使用する銃は、拳銃と自動式拳銃《リボルバー》の2種類だろうか。 

(『魔弾』じゃなければ対処は楽だ) 

 俺は正真の援護をする為に左手に魔力弾を作り、そのまま放っていく。 

「四音! まさか魔力弾も扱えるなんて、やるな‼」 

「白石みたいに、分割させながらコントロールとかは無理だけどね……」 

「剣と魔力弾の併用できることでも結構すげーよ! よっしゃー俺も本気出すぜ‼」 

 正真はそう言い、魔力を全開にする。その魔力を右手に集中させ、そのまま銃弾ごと敵を殴りつける 

 正真の戦いの特徴は、その鍛えられた肉体の上から、更にグローブのように濃密の魔力をコーティングする『ファイトスタイル』だ。 

ある種【防御魔法】の延長線ではあるが、単純だからこそ弱点を突くのが難しく、非常に戦うと厄介な相手だ。 

「どんどんかかってこいやー‼」 

 正真が戦闘に熱くなってる後ろで、俺は魔力弾で援護。 

 援護と言っても、正真自体が『防壁』と言っても良いので、俺は基本的に残党処理。ただ正真の防御魔法も完全無欠ではないので、もしもの場合は俺が援護する感じだ。 

(思ったよりも敵が強くない……?) 

 もっと魔法の戦いになると思っていた俺は、敵の戦い方に違和感があった。 

人数はいるが、個人は中学生レベル。つまり最低限の自衛魔法しか魔力を使っていなかった

 今の時代、よほどの無能力者でない限り、高校にさえ通えば、実戦で使える魔法を教えてくれるはず。

(魔法の才に恵まれなかった人達の集まり……ということは……) 

 このテロの背景が段々見えてくる。 

 そう考えてる間にも、正真がどんどん敵を倒していく。 

(俺、いらなかったかな……) 

 俺がそんな悠長な事を考えた瞬間。銃弾の音と共に、一気に正真が俺の位置まで下がってきた。 

 正真は両腕に魔力を全集中させて銃弾から身を守る。 

「おい…… どういうことだよ……」 

 発砲元の敵を睨み、怒りを露わにする正真。 

 そこには、拳銃をこちらに向けて構える『飯山瞬太』の姿があった。 

 

 

 白石・水沢サイド。現在位置、二階階段途中。 

「夏芽、敵の人数はどれくらい?」 

「まだまだ追加で来そうだけど……現状は15人位かな」 

「出来れば一掃したいけど……やっぱり校舎内だと厳しいかな」 

 白石は考える。 

(そもそも集団行動自体が厳しい……) 

 白石は後ろの生徒達を見渡す。東法高校の2年生の人数は100人弱。 

 全員が一応の訓練を受けているとはいえ、初めての実戦だという生徒が大半だ。 

 今は『校舎内』で、道がほぼ一本道。だから前と後ろの攻撃にさえ注意すれば問題ないが、これが外に出たら、攻撃は四方八方から飛んでくる。 

(全員を庇いきれるかどうか……) 

 理想は、誰も戦闘をせずに学校の外に脱出すること。しかし現実的には校庭に出た時点で乱戦は避けられないだろう。その時に全員を守りきることが出来るだろうか。 

(いや、私は『四天王』白石潮満‼ その誇りにかけてでも、絶対に全員無事で脱出す

る‼) 

 無駄な心配を振りきる様に、白石は自分を鼓舞する。 

「正真達は大丈夫かな……?」 

「ん? まあアイツは頑丈だから大丈夫でしょ。でも上野君は少し心配だよね……」

ふと漏らした白石の言葉に、水沢が反応する。

『上野四音』ランキング圏外。そもそも彼は転校してきたばかりで情報は全く無い。実戦経験以前に基本的な戦いが出来るかどうか…… 

 しかしウォームアップの感じでは、一見弱そうに見えたけど、かなり実戦経験を重ねているよう白石は感じていた。 

(それに飯山君との後半は、明らかに別人だった……) 

 静恵先生が信頼している以上、今回のテロ事件とは無関係だろうが、かなり怪しいと白石は睨んでいる。 

「ここを無事に乗り越えたら、増援に行けば良いんじゃない? とりあえず今は、この状況から脱出しないと!」 

「……そうだね‼」 

 白石はもう一度気持ちを切り替える。 

(そうだ、先ずはみんなを無事に守り切るのが先決だ‼)

 すると、後ろの生徒達が白石の元へと近づいてきた。 

「なあ、俺達も戦いに参加させてくれないか?」 

「ただ足手纏いになるのは嫌なんだよ‼」 

 何人かの生徒の意見に、後ろの生徒達も同意し、頷いている。 

(確かに少しでも戦力になるのは有難い…… でも……) 

『全員を無事』それが一番重要なことだと白石は考える。少なくとも、いちいち彼らの戦いを考慮するなら、一人の方が断然マシだ。 

「夏芽は……どう思う?」 

「う~ん……覚悟があるなら良いんじゃない?」 

白石の問いに水沢は、普段の明るい印象とは全く似つかない、真剣な顔で言う。 

「『自分の命を懸ける覚悟』 これは、いつもの訓練や試合とかじゃなくて、『実戦』だってことを理解してるなら、私は参加しても良いと思う」 

 水沢がそういうと、生徒達の表情が強張り始めた。 

「わかった。覚悟して戦うよ……‼」 

 しかし生徒達は、もう一度真剣な表情で返事をする。 

「よし! じゃあこのまま一階に降りた後の玄関が、最初の勝負所になると思うから、そこで協力して戦おう‼」 

 水沢の指示で、全員の意見がまとまった。 

(こういうところが夏芽の凄さだよね……) 

 水沢は普段は明るい女子生徒だが、こういう時に非常に頼りになる存在なのだ。 

 白石は水沢の統率力に感心しつつ、自身の戦闘に集中するのだった。

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